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Episode 205 久しぶりのリレー

「咲ちゃん、リラックスな。スタートをミスらせても、うちらがカバーするから」


 遊菜からエースらしい心強い言葉をもらう。その言葉に「心強い言葉やな」とにっこり笑顔を返し、プールの方を見る。

 あの時の落胆している姿が向こう側では見える。だけど、見えるのはターン側。私は、こっちのスタート側に戻ってくる。落胆する姿はないはず。と自分の心に言い聞かせる。

 今は私ひとりじゃない。心強いチームメイトもおるんやし、なんせ、心にゆとりがある。それは、スプリンターの高校女王が後ろにいるから。

 これだけ違えば、私も気が楽になる。


 そして、ひとつ前のレースが終わって1分もしないうちに短い笛が4回、長い笛が1回鳴り、長い笛が鳴りやんでから一息ついて少し勢いをつけてプールにドボンと入る。

 そして、長い笛もう一度鳴ったタイミングでスタートバーを持ち、壁に足を付ける。

 ここまでがスタートするまでの動きなんだけど、自分でもわかるくらい固い。

 あと、壁がぬるっとしていて、足を固定するのも一苦労。だけど、もう、ちょっとの我慢だからと、ぬるっとしていないところを何とか見つけ、スタートの構えを取る。

 

『よーい』


 この言葉で身体をグッと壁に寄せ、次の音が鳴るまでその姿勢をキープ。そのすぐあとくらいに甲高い音が鳴ってスタートダッシュを決める!……っていうのが理想の流れだけど、やっぱり、相変わらず、昔みたいなスタートは切ることはなく、一瞬の間が空いた後にスタートしていくのがわかった。

 やっぱり克服するには、かなりの時間が必要だなぁ。なんて思いながら、必死にバサロキックを打って追いかけていく。

 ……うん。バサロの感覚は思った以上にいい。あとは浮き上がってからだな。

 そんなことを思いながら、なんとか水面に浮上してきて、大きく、かつ、力強いストロークを意識して腕と肩を回していく。

 そういえば、昔、こんな感じに泳いでいたな。

 というのも、バシャバシャ泡を立ててストロークをしても、泡を掻くだけで無駄でもったいないやろう。って話をしていた顧問の話を思い出す。

 あっ、ラスト5メートルのフラッグが見えた。

 もう25メートルを泳ぐんだ。思ったより早かったな。

 そんなことを思いながら、2ストロークをしたあと、うつ伏せになったあとは、タイミングを合わせて頭を抱え込むように勢いで回り、またバサロキックを打って行く。

 ……っ!ヤバい。ちょっと潜りすぎた。どうやって抵抗を少なく浮上しようか。

 ……ん?今、まだターンしていない選手とすれ違ったような気がしたんだけど、気のせいか?うち、最下位やないんや。何をクヨクヨしてたんやろうか。これやったら、様子見せんと、私の全力を出して突っ込んだらいいじゃん。

 そう思えると、スタミナ無視でストロークピッチを少し上げると同時に、キックも少し強くする。

 これでターンのタイミングが少し変わるだろうけど、そこはなんとかすればいい。

 もしかすると、ロスがなくなるかもしれないし。

 とりあえず、今は、自分が出せる最高を出すだけ。そして、どんな形であれ、次に泳ぐ愛那に繋げる。

 そんな思いで腕を回し、足を動かしてあっという間に折り返しのターンが近くなる。

 フラッグが見えて、25メートルのときと同じようにターン。

 ストロークピッチとキックの強さを少し強くしたから、うつ伏せになった時、思ったより壁が近くて、ビックリしたけど、すぐに回ったから、最初のターンに比べて勢いが付いた状態で回り、そのままダン!と壁を蹴った感覚。

 そして、壁を思い切り蹴ってバサロに入れたのはいいんだけど、さすがに、スタミナ不足でバテてきた。

 最初に比べて、バサロできる距離も短くなって、浮き上がりも早い。たぶん、最初の半分くらいの距離な気がする。ただ、もう少し粘って、流さず思い切り泳ごう。

 そんなことを思いながら、必死に重くなってきている肩と腕を回し、キックも我慢して打ち続け、ラストのターンに入る。


 さすがに、ターンをして、壁を蹴るところまでは完璧。だけど、さすがに、もう息が続かず、壁を蹴り、何度かバサロキックを打って、5メートルラインを超えたあたりで浮き上がってくる。

 私自身も速すぎるだろ。なんて頭の中で突っ込みを入れつつも、ラストまで飛ばし続ける。

 ここさえ乗り切れば、朝のレースが終わるけど、久々にレースで泳いだものの、ものすごく楽しかった。

 昔はこんな気持ちだったかな。なんて思いながら、フラッグが見えて、仰向けのまま頭を水中に突っ込み壁までの距離を測る。

 そのあと、2ストロークしたあと、もう一度頭を水中に突っ込む。

 よし。距離は完璧。あと1回掻けばちょうどフィニッシュだ。

 そう思って、また水面に顔を上げると、黒い影が私の上を飛んで行った。


「ナイスパフォーマンス、咲ちゃん。まさか、ここまでやってくれるとはな。2位やで!タイムもええ感じで出てるんちゃうん?」


 えっ?そうなん?と思いながら、後ろを振り返ると、何チームか引き継いでセカンドスイマーが泳いでいるものの、ここから見える限り、愛那が2番手で泳いでいるように見えた。


「やばっ、はよ上がらな」


 思った以上に愛那が距離を稼いでいて、思わずビックリしたところはあるけど、言葉も一緒に零れたみたい。そんなことも構わず、慌ててプールサイドに上がる。


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