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Episode 200 急遽、選手復帰?

「なに~~!!」


 とある日の放課後。遊菜の絶叫が屋上に響き、周りの視線を注目させていた。


「なにがあってん。いきなりそんなアホみたいにでかい声を出して」


 対岸にいた私にも聞こえる声で遊菜が吼えるから、同じように対岸にいる直哉が遊菜を少し軽蔑するような目で見ながら言った。

 だけど、それは、私たちも思わず、大きな声を出してしまいそうになった。

 パッと見た目ではわからなかったけど、ブレザーを着た制服姿の香奈ちゃんが少しばつが悪そうな顔をして、視線をぎこちなく泳がせながら私と直哉のところにやってきた。


「ごめん、一昨日の帰り道にバイクに轢かれそうになって、避けたらバランス崩したはずみで転んでしまってさ、おかげで手首を捻挫しちゃってさ……」


 そう言いながら、ブレザーの袖を少しだけまくり、ちらりと包帯が巻かれた左手首が姿を見せ、それに思わず、私も「なに~!」と叫びそうになってしまったのは秘密な話なんだけど、隣にいた直哉もビックリした顔をしていた。


「えらい災難やったな。まぁ、そうなってしもうたらしゃあないな。とりあえず、完治させること優先させろや」

「本当にごめん。なんとか地区大会に間に合うかなって思ったんだけど、全治5週間で、3週間はギプスつけて様子見ようかって言われて……。ちょっと難しいかも。こんな大事な時期に申し訳ないんだけど……」


 また大変な時期にやってしまったな。って言う感覚が強いけど、こればかりは仕方ない。幸いなのは、まだエントリー前と言うことなんだけど、唯一の背泳ぎ専門が出られないという女子には非常事態。

 もちろん、地区大会の後にある中央大会にタイムが到底届いていないから、個人種目は何ら問題ない。エントリーしなければいいだけなんだから。

 ただ、やっぱり問題はリレーよね。

 次の中央大会にリレーの制限タイムがないとはいえ、一度、出場して、ある程度のタイムを確認したいって言うのはあるだろう。


「えっと、この中でバックができるのは……愛那か。愛那は個メやから、バック行けるよな?」

「いや、ムズイかも。スタートなんかやったこともないし、個メのバックはブレとフリーにつなげるための休憩と言うか、調整種目として捉えてるくらいやから、どっちかと言うたら、苦手種目やねんな。しかも、スタートもやったことないし……。逆に咲ちゃんは?去年、商業大会にも出てたやん。行けるやろ?」


 愛那がとんでもないことを言う。

 またあれから1年近くも泳いでいないって言うのに。


「今は無理よ。あの大会から1年近く泳いでへんのにさ。今もちゃんとスタートもターンもできるかどうかわからんし」

「でも、うちは、咲ちゃんが泳いでる姿をみたいんやけどなぁ……」


 ここで遊菜が口を挟み私に選手復帰する様に持ち掛けてきた。


「ちょっと待って。ムリムリ。もう泳がれへんで。それに、商業大会は成美先輩に無理やり出させられただけやねんから、それにもう感覚もなくなってるし……」

「それはまだ3週間もあるんやから、練習したら行けるやろ。なんせ咲ちゃんやし」

「なにそれ。答えになってへんねんけど。……っていうか、奈々美ちゃんも優奈ちゃんもなんでうちをそんな目で見るん!?」


 いろいろとおかしい。絶対に何かがおかしい。直哉や愛那も私に対して「出るよね?」みたいな顔で見てくる。

 そして、いつの間にか部活を始めるために集まって1年生たちまでもが、全員、私に「レースに出るんですよね?」みたいな顔で見てくるわけ?


「咲ちゃん。みんな咲ちゃんの実力を知ってるってことやんか。言うとくけど、この前の暑かったとき、軽く泳いどったつもりなんやろうけど、直ちゃんも遊菜っちもみんな見とってんで。知らんかった?」

「嘘やん。見られとったん?そんな感じなかったのに」

「杏里も咲ちゃんがバックで出るんやったらブレは愛ちゃんに任せてもええかな」

「あ、杏ちゃん!?」

「香奈も咲ちゃんがレースに出るなら安心かな」

「えっ!?」


 もうわけがわからない。頭がこんがらがってきた。


「美咲、覚悟せなあかんな」

「な、直哉まで……」


 こりゃ、もう逃げられないな……。


「はぁ。わかったわ。今回だけやからな!」

「よっしゃきた!」


 そう言ったのは、遊菜と愛那。相当、私に出てほしいみたいだった。


「なんでそんなに喜ぶんよ」

「そりゃそうやん。久しぶりに咲ちゃんの本気の泳ぎが見られるんやから。嬉しいに決まってるやん。それに、愛那っちのバックより安定してそうやし」

「おーい!遊菜っち!今しれっと私の悪口言ったでしょ!」

「さぁな?なんのことやろな」

「でも、マネージャーはどうするん?2人になるやん?」

「なんとかなると思います。奈々たち1カ月やって、雰囲気もわかったんで、何とかできると思います」

「ほら、1年生も頼もしい言葉で宣言してんから、咲ちゃんもひと安心やな」

「それに、できる限り私も加勢するからさ、安心してよ」


 ……マネージャー陣のやる気が凄い。

 ただ、のんきに言うんだけど、私からすると、心配事がまだ勝ってしまっている。というか、私自身、あのときの恐怖を克服しているのかどうかってところ。そこが本当に不安なところ。

 なんなら、直哉も遊菜も愛那も私の過去のことを知っているだろうに、忘れてしまっているのかと思わせる言動。不安しかない。


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