Episode 196 プール掃除後の遊戯時間
「なんや、ほんまにいつもとちゃうから、なんか気持ち悪いわ」
「なんやねんその言い方。もっとましな言い方あるやろ。まぁええわ。そろそろええ感じのじかんやろ。大神も福森エンジン掛けきってるし、ギータもよっしーも意外とエンジンかかってるし」
へぇ。珍しい。2人にもそういうときがあるんだ。楽しそうに部活をしているのは知っているけど、こういったところでテンションが上がるんだ。なんだか意外だな。
「了解。ほんなら音楽室に行って、休んでる子らに言うてくるわ。……愛那と遊菜はしっかり見といてや」
「わかってるって。まぁ、去年と同じ感じやろうけど、上級生がおらんから、そのぶん、リミッターが外れるやろうな。まぁ、そのへんはちゃんと見とくし、お前も遊ぶんやったら遊んでもかまへんで」
「ええわ。濡れたら寒いし、みんなでワイワイすんのが楽しいのはわかってるんやけどな。とりあえず、言うてくるわ」
それだけ言うと、教官室を出て、また音楽室に向かう。
もう一度音楽室に入ると、バスケ部女子と水泳部女子がわきゃわきゃと楽しんでいる。まぁ、繋いでいるのは遊菜なんだろうな。と思いながら、中に踏み込む。
「直哉からの伝言で、プールの中で遊んでええってさ」
「よっしゃキタ!待ちくたびれたで!」
まぁ、このセリフを最初に聞くことになるだろうな。なんて思いながら、遊菜が一番に飛び出していく姿を見送る。
ただ、いつもなら、遊菜に続く愛那がついてこない。どうしたのかと思って、愛那の姿を探すと、机に突っ伏して寝息を立てていた。
無理に起こすのは可哀そうだし、このまま寝かしておくか。
「あっ、そうだ。ここにおってもええけど、4時にはプールサイドに上がってきてな。っていうても、みんな遊ぶか。ほら、行っといで」
ちょっとばかり音楽室から追い出すようにして、寝ている人はそのままにし、ホワイトボードに伝言だけ残して、私も屋上に戻る。
屋上に戻ると、すでに遊菜がひとり、自宅から持ってきたであろう水鉄砲を使っていろんな人にちょっかいをかけて遊び散らかしていた。
ほんと、泳ぐ速さも遊びのスイッチが入るのも速い。やっぱり、名前の通り、遊菜らしい。
さて。私は上から様子でも見ておこうか。
「咲ちゃ~ん!遊ばんの!?」
遊菜は、水鉄砲を持って、コース台の間から顔を出して私を呼ぶ。
「ごめん、ここで直哉と生指から言われてる活動計画を立てる時間に使うわ。週明けには提出やし、今日しか話す機会なさそうやし」
「ふ~ん。了解。咲ちゃんもおったらおもろかってねんけどなぁ」
とか言う遊菜を横目に、私は一安心というのも、これで遊菜に巻き込まれると、とんでもないことに巻き込まれるような気がしたから。
「おい、美咲、活動計画はもう出したんとちゃうん?」
遊菜がまた遊びだすと、不思議そうな顔をした直哉が効いてくる。
「うん、出したで。でも、こう言うとかんと、遊菜が諦めへんやろ?やから口実にしたんやんか」
「あぁ、そういうことな。まぁ、あいつと福森に巻き込まれるのだけはごめんやしな」
まったく直哉の言う通り。まぁ、遊菜のことやから怪我をするところまではいかないだろうとはおもうけど、まぁ、疲れるからね。
さぁ、そんな遊んでいるみんなを眺めながら、時間を過ごし、あっという間に終わりの時間を迎えた。もちろん、遊び始めてから30分もしないうちに愛那も遊菜の水鉄砲を借りて遊びだし、豪快に暴れだしていた。
その矛先は、水泳部にだけではなく、バスケ部男女、さらには、一緒に遊んでいる橋本先生にも向かい、全員をびしょ濡れにさせて楽しんでいた。
「おいよ~!片づけて帰るぞ~!」
終わる予定の時間になって直哉が肥を上げると、1年生が先にビート板やら、自分たちが遊んだ道具を干して、2年生も後に続いた。
そんなメンバーたちを見たのか、最後に遊菜と愛那が諦めたようにプールから上がって、片付けを始めた。
そして、着替えも終わって、この間だけ交わしていた道具も片づけて、いつでも帰れる状況に。
ただ、最後にミーティングだけしてから解散って言う形になる。
「よっしゃ、お疲れさん。ほんで、明日から泳げるようになるやろうけど、今週の予定は、明日をオフにして、明後日からシーズンインにしようかと思ってます。ほんで~、えっと、絶対に寒いと思うから、ランもやるつもりでおるから、そのつもりで準備しといてな」
まぁ、去年もそうだったから、すでに簡単なメニューの構想は練っている。明日からはシーズンインになるけど、最初は軽めに。マネージャーで入って来てくれた2人にもいろいろ教えないといけないから、説明にちょっと時間を取られるかな。まっ、そのぶん、時間を延ばせばいいか。そんなことを考えつつ、ミーティングが終わる。
「また今年も慌ただしくなりそうやな」
いつの間にか終わっていたミーティングに取り残されていた私は、直哉の声でハッとする。
「確かにな。今年は少しレベルが高くなりそうやない?」
「お前のおかげや。去年1年でみんなどんだけ伸びたよ。よっしーもギータも半フリだけで3秒ほど縮んだやろ?俊介も1バックが10秒弱縮めたしさ。今年も八商はアベック優勝したいよな。しいていうなら、市大も去年より上に行きたい。もちろん、結果よりも自分が楽しめれば一番やけどな」
「ほんま、その考えは変わらんな。まっ、そのほうが直哉らしいけどな。とりあえず、帰る?それともプールで泳ぐ?」
「いや、今日は帰るわ。意外と疲れるわ。プールを監視するって言うのはさ」
「とくに遊菜と愛那が暴れると。やろ?」
「ほんまに。あいつらの行動が全部目に入るんやから。しかも、それで怪我せんか見守らなあかんし。少しはおとなしくしてくれよとは思うよな」
本当にそれは同感だ。今日に関しては、普段の練習より気を張った気がする。なんなら、いつもより巻き込まれる人数が格段に多いから、そのケアもしなきゃだしさ。
「とりあえず帰りますか。明日から実質的に24代の始まりやな。また今年も頼むな」
「言われなくてもです~。それに、遊菜のおかげで八大三郷のメニューを少し手に入れたから、週に1回は取り入れようと思ってるから、ついてきてや」
「どこまで鈍ってるかやけどな。まぁやるだけやるけど。あっ、せや。稲葉さんってどれくらいまで行ったことがあるって言ってたっけ?」
「近畿予選落ちって言うてたかな?1バタで1分5秒とかそんなもんやったと思う」
「ギータの1フリよりも少し速いくらいか。ほんなら、とりあえず、ギータと稲葉さんは同じコースに入れて様子見るか」
「直哉たちと同じレーンじゃなくてええん?」
「少し別の角度から見たいって言うのがあるかな。ちょっと1年男子から少しだけ話を聞いてな。それもちょっと確認したいねん」
「何の確認?そんなん初めて聞いてんけど」
「まだ泳ぎ始めの練習が終わったら話すわ。とりあえず、泳ぎ始めは去年と同じくらいにしてくれや」
「はいはい」
詳しいことはわからないけど、いろいろなにかあるみたい。
とりあえず、明日は休みの予定にしているし、明後日から陸トレと水中のミックスメニューを予定しているし、来週の土曜日にタイム取り、そこから本格的な練習って感じになるかな。その先は、やってみないとわかんないけど。
そんなことを思いながら直哉と夕暮れの家路を急ぐ。




