Episode 190 ちょっとした心配
直哉がレース終わり直後に首を捻ったあと、ウンウンと頷いたのを見て、納得したのかって思ったけど、予選のレースが終わって、上位20人の結果が表示されたあと、長浦先生に言って、サブプールに来たものの、直哉がどこで泳いでいるのか分からなくて、たぶん、5分くらい探していたと思う。
そして、その直哉はターン側で立ち止まり、水上に顔を上げたところを見て、ようやくどこにいるかわかったから、そこにあまり周りを刺激しないように向かい、直哉に話しかけた。
私と話している感覚はそうおかしくなく、明日に繋がるかなって思ったけど、意外と弱気になっていたことにびっくりした。
さすがに、後ろの組で50秒を割って泳いだ選手もいたけど、それは直哉も分かりきっていたことだし、自分のタイムが落ちてることもわかっていたはず。とはいえ、私が思っていたよりは速くフィニッシュしていたから、あまり悲壮感はないんだけど、悔しいって思っている直哉がいることに驚いた。
それに対して、当たり障りのない言葉を返したつもりやけど、何が悔しかったんやろ。決勝に行くのに、1秒近く足りていないし、準決勝に行くまでにコンマ3ほど届いていない。ロングなら本当に悔しいだろうけど、スプリントでこれはちょっとな。って思うところはある。
だから、私としてはあまり悲観的にはなっていない。直哉がどう思っているのかはわからないけど。ただ、明日のなにかに変えてくれるとは思っている。
正直、私が色々考えることではないのは確かだと思っていて、感じたり、考えたりするのは本人自身がやること。私は、言われた通りの手伝いしかできない。
それがマネージャーってものだと私の中で勝手に思っている。
それが正解なのかどうかはよく分からないけど、変に直哉を刺激するより、圧倒的にこっちのほうが期限を損ねさせずに済むと思っている。
そこから、直哉がすっきりするまでゆったりと泳がせ、なにか思うところがあったのか、スタートの確認を1回だけして完全にクールダウンして終わった。
「すっきりした?」
「まぁな。冬の間、夏みたいな練習が詰めんくてどこまで行くかって試したところやったからな。正直のこと言うたら、半フリにも出て、雰囲気を確認したかってんけどな。ちょっと飲まれたのもあるわ。固くなった気がしたし」
「あんたがそこまで言うの、珍しいな。周りのトップ選手の威嚇をもろに食らったって感じ?」
「それに近いものもあるやろうし、場内の雰囲気に飲まれたのもあるやろうな。それだけが悔いるところやろうか。まぁ、それでも、自分の今おる場所がわかっただけでもでかいわ。このまま夏に向けて上げていくだけやろうし」
まぁ、ずっと力試しって言っていたから、私から大きくなにか言うわけじゃない。それに、これで本人がいろいろ収穫できたって言うなら、なおさらオッケーだろう。
「まだ泳ぐ?」
「もうちょっとだけな。明日は完全にオフになるやろうから、ちょっと感覚が狂ったところだけ確認したいかなって」
「スタートやろ?距離もでてなかったし、ドルフィンも無理に打ちに行って、ターンが合わんかったって話やろ?」
「上から見ててもわかるか」
「そのために一番上におるんやで?あんまりうちを見くびらんといてや」
そう。ファーストハーフのタイムが落ちたのは、その窮屈なターンをしたからっていうのもある。それがなければ、たぶん、コンマ3くらいは縮んだと思う。
勢いはあったけど、窮屈なターンのせいで、壁を蹴る時に、膝を思い切り曲げるし、その分、変な力の入り方になるし、抵抗になってもったいないかなって思ってる。
だからと言ってはなんだけど、杏里ちゃんや鈴坂さんには2メートルラインで最後のストロークをして、あとは、気をつけの状態になりターンをする。みたいなことを言っている。
とはいいつつ、遊菜の練習時のやり方を教えてもらったみたいな感じなんだけど……。
ただ、遊菜がレースで泳ぐとき、直哉とギータはそんなことせず、ぐわっと掻いてからぐるっと回って、ギュン!と壁を蹴る。そんな感じ。
そのぐるとギュンが近すぎて、とんでもなく窮屈になって、距離も無駄に消費し、タイムをほんのわずかだけど遅れる。だから、遠すぎても近すぎてもダメって話。
とは言いつつも、レースじゃないの時に泳ぐ直哉は、レースの時みたいに飛ばせるのか?そんなことを思っているものの、あとは、直哉最良しだい。
それに、直哉自身初めての日本選手権は、私の視線だと意外に落ちすぎなかったのかな。なんて思ったりしたし、初めての日本選手権で悪いことはなかったのかなって。
お友だちがてきなかったのはちょっと残念かな。なんてちろっとふざけたことを言ってみたりね。




