表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/243

Episode 189 Naoya side ちょっと悔しさがあるかな

 さすがに、感覚が狂ってるせいで、自分がどれくらいのタイムで泳いだかはまったく見当が付かへん。

 そんなことを思いながら、ぱっと背後にある電光掲示板に表示される自分の名前とタイムを探す。

 えっと~……あった。……うげっ、ヒート5位の50秒98か。えらい落ちてんなぁ。でも、この時期で1パーソナルベストから1秒弱遅れたタイムで来れてるのはでかいか。

 さすがに、こんなタイムやと準決勝もむずそうやな。まぁ、正直、力試しで出ただけやから、悔しさはあまりない。むしろ、ちょっとすっきりしているくらいまである。

 あとは、クールダウンして明日のレースに備えますか。

 そんなことを思いつつ、サブプールに移り、大神のようにはせんけど、ターン側でクラゲのようにプカプカと浮かぶ。

 ただ、こんなことをしていると、逆に悔しさが押し寄せてくるな。

 もう少し行けたんちゃうか。とか、プールでの練習をもう少し増やしたらよかったな。とか、もう、なんか、後悔しかない。


「もっとできたよなぁ。こんなタイムで満足できるわけないやん。力試しで出るだけって言うたけど、こんな悔しいもんなんか」

「原田くんだよね?インターハイを優勝した」


 独り言のようにつぶやいていると、誰かがプールサイドから声をかけてきた。その声の主を見ると、どこかでみたことがあるような顔やねんけど、だれやったかな。この男子選手……。


「あっと、そんな不審者を見るような顔はしないでよ。それとも、僕が誰かわからないからか。僕は、塩田健斗って言うんだけど、さっきのレースで一緒に泳がせてもらったんだけど。もしかして、周りを気にしないタイプだった?」

「あっ、まぁ、そうっすね。正直、周りは気にしたところで自分が楽しまれへんのはわかってるし、誰が来たところで、自分のレースをするだけなんでね」

「花梨ちゃんから聞いた通り、不思議な人だね」

「侮辱すんなら本部に言いますけど?」


 思わずイラっとしてしまったせいか、名前を言われてもピンと来ない男子選手に威嚇するように言ってしまった。


「違う違う。そういうつもりじゃないよ。ただただどんな人か気になっただけだよ。あの子が復活したきっかけを作った選手だって代表合宿の時に聞いたから」

「そうっすか。別に、俺がきっかけっていうのはちゃうと思いますけどね。スランプってのは聞いたことありましたけど、抜け出したのは本人の努力があったからやないっすか?俺は別に関係ねぇっすよ」


 正直、この大会で誰とも絡まずに終わろうとしてたから、このおっさんが絡んでくるだけで面倒に感じ、適当に話しを終わらせると、軽い力で壁を蹴り、ストリームラインをとりながらドルフィンキックは打たずに、細かく小さくバタ足をして浮き上がってくると同時に軽い力で泳いでいく。

 感覚的には、さっきの1フリで溜まった乳酸を流していくって感じ。

 このまますーっと腕が軽くなるくらいまで軽い力で泳ぎ続けて、そのまま美咲のところに戻るか。


 そんなことを思いながら、さっきの選手のことは無視してゆったりと泳いで、たぶん、20分くらい、流して泳ぎながら、時間を過ごしていたんだと思う。

 そこまでゆっくりと泳ぎ続けていると、周りの選手も多少入れ替わっているようで、さらにその中に美咲がいてビックリした。


「うぉっ、おったんかい」

「ずっと一人で泳ぎ続けてる途中でな。さすがに、1秒近くもタイムを落としてたら、ベストでトップと戦えても、まったく戦われへんな」

「まぁ、今日は楽しめたからええわ。とは言いつつも、時間が経つにつれて、悔しさの方が強くなりつつあるんよな」

「その気持ちは大事なところもあるんちゃう?ずっと楽しいって思えるまま行けるとは思わんし、ずっとその気持ちのまま行ったとしても、どこかでたぶん、折れるやろうしな。やから、うちとしては、その折れるタイミングがこのタイミングでよかったんちゃうかなって思うで」


 確かに、そう言われてみればそうかもしれん。それに、これがインターハイで折れたら、美咲には失礼かもしれんけど、俺も戻ってけぇへんような気がした。

 それに、力試しって思っただけの大会で、折れかけても、すぐに立て直せるやろう。重要視してないこの大会でよかった。そう思うのが必然だったか。


「さっきまでの様子を見てたら、ずっと流しながら泳いでたから、まだ腕と足は軽いんちゃう?」

「まぁな。むしろ、話しかけられたくないからゆっくり泳ぎ続けてた。って感じやねんけどな。でさ、塩田健斗って誰?なんか、そいつが話しかけてきたんやけど」

「誰って。去年の世界選手権でスプリントの代表やったやん。知らんかったか?」

「あんまり気にしてへんかったからな。自分が楽しけりゃ、それでええって感じやったから」


 これが世間知らずって言われるところかもしれんな。まぁ、俺はほんまに楽しかったらそれでええって思ってるくらいやしな。

 インターハイから先の世界も見たいっていうのもあるけど、やっぱり、自分が楽しむのが一番やな。っていうのがあるから、行けたらラッキー。行けんくても、しゃあないって感じ。

 ……トップ選手とはちゃう感覚なんやろうな。そんなことを思いながら、さらに、30分くらい軽く泳ぐ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ