表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/236

Episode 179 集中する姿

 そこから1時間ほど経って、ようやく女子の1フリ決勝がやってくる。

 そのころには、お昼寝をしていた鈴坂さんと杏里ちゃんは目を覚まして、遊菜をしっかりと応援しようとする様子が見えた。

 こちらとしては、遊菜と直哉がレースに出るって言うだけで応援するために全員が揃っている。

 これがチームワークなのかな。なんて思いながらも、レースに出る選手以外の全員でレースを応援できるのは本当にいいことだと思う。その選手、部員が多いならなおさらに。


『プログラムナンバー17番、女子100メートル自由形、決勝のコース順を申し上げます。第1コース……』


 淡々とアナウンスされるコース順。今までの大会とかと違って、1コースから順に呼ばれ、遊菜が泳ぐ5コースのアナウンスがされると、私たちも大きな声を張り上げる。


『第5コース、大神さん、扇原商業』

「遊菜~行ったれ~!」


 私がいつものようにこうやって声を張り上げた後、そのあとを何か打ち合わせをしたかのように「遊菜~!いっぽ~ん!」という声が揃って聞こえた。


「ちょっと!それ聞いてないけど!?」

「いや、だって。咲ちゃんのその声が合図やからな。その声がなかったらうちらはなんも言わへんかったで?でも、さすがに声がないのは寂しい気もしたから、一人で勝手に行ったかもしれんけどな」


 私が驚いて声を上げると、愛那が言葉を返してきた。


「いつ、打ち合わせしたんよ、みんなで」

「うん?男子の2個メのときかな。咲ちゃんが一瞬お手洗いに立ったときにみんなでちょっとやろうやって言うて」


 嘘じゃん。その隙に?しかも、たった数分しかなかったのに、寝ていた鈴坂さんと杏里ちゃんにも打ち合わせができたよね。……いや、待って。私がお手洗いから戻ったあと、ふたりとも起きていた。

 っていうことは、私がお手洗いに行ったあとに起こされて、愛那の話を聞いていたのか。

 まぁ、そうだとしてももしかしたら、今までそういうのがなかったから、やってみたかったのかもしれないね。なんて思いながら、まぁいいか。と少し諦めモード。


 そして、10人の選手がアナウンスされたあと、短い笛が今まで以上に鋭く、緊張感のある吹き方をしている。

 一番上にいる私にまでしっかりとその緊張感が届き、背筋がピンと張る感覚に少し嫌悪感を抱く。

 なんと言うか、今までハイレベルなレースを観戦してきたから、こういった少し緩んだ雰囲気の中で行われている決勝競技でこれだけの緊張感はどうかと思う。

 ただ、やっぱり、選手としては、そういう雰囲気も必要だっていう選手もいるはずだから、一概に私の思いを押し付けるつもりは何ひとつないけど、やっぱり、一音ずつ超はっきりと吹くよりも、ほんの少しだけ伸ばして余韻を持たしてもよかったんじゃないかなって思う。

 とは言いつつも、私がもし審判長の立場ならこうしているかもしれない。できるだけ、校内の記録会ではこういうことはしていないつもりだけど。遊菜と直哉のタイムトライアルのとき以外は。

 そんな笛の音を確認した遊菜は、両手を大きく横に広げてから、長い笛が鳴ったのを確認して、ゆっくりとスタート台に乗る。

 これもいつもの遊菜だな。なんて思いながら、ひとつずつ丁寧にこなすルーティンを見て、いつも通りの遊菜だな。なんて感心しつつ集中する一瞬。

 集中している遊菜の姿は、インターハイまでの時と同じとは言わないものの、この前の市立大会の時よりは集中しているようで、私としては、少し安心しているところ。

 予選のレースが終わった後に一度、客席に戻ってきたけど、そのときの喋りも全く違和感がなかった。むしろ、市立大会のときとは違って、ものすごく楽しんでいるように見えたくらい。

 その姿を見て、あのときは、このあとの決勝レースも大丈夫だろう。と思ったくらい。


「ほんま、この集中している姿を知ってる分、信じられへんねんな」


 男子の誰かがボソッと言ったような気もする。だけど、その言葉を拾うつもりは誰もないみたいで、遊菜が集中している姿を見ていた。


「よーい」


 いつものように冷たく響く声が客席に届いたと同時に、スタートの合図が鳴り、選手10人が飛び出していく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ