Episode 178 いろんな異名がついてくる……
しっかりと杏里ちゃんのレースも起きて待って、ちゃんと見届け、ちゃっかりパーソナルベストを更新をした。
これに少し驚きを覚えつつも、杏里ちゃんの普段からぽわぽわした感じがいい方向に作用したのかな。って無理に思っておくことにする。
まぁ、本人は、ターンが苦手って言い切っていたし、そういう面もあったのかなって思ったり。
そして、杏里ちゃんが予選の半ブレを泳いだことで、扇商の選手が出る様子は終わり。
ここからは決勝レースを残す直哉と遊菜が暴れることを期待して、一時休憩を挟む。
とは言いつつも、男子の半ブレの予選と、男女の1バック、男女の2個メの決勝レースが終わってから、やっと女子の1フリの決勝が始まる。
たぶんだけど、遊菜が出る1フリの決勝まで1時間近く開くんじゃないかなって勝手に思っていて、30分くらいお昼寝してもいいんじゃないかなって思っている私がいるのも事実。
聞いた話でしかないけど、2時過ぎに20分ほどお昼寝をしたらかなりすっきりして、午後からも元気に過ごせる。みたいなことがあるから、ちょっとくらいのお昼寝は許されると思っている。
とは言いつつも、眠気は結構来ているし、一回眠りについてしまうと、なかなか起きないかもしれない。まぁ、実際に、大会序盤にレースを終えた鈴坂さんは、直哉のレースが終わったあと、電池が切れたように今も少し離れたところで膝を抱えたまま寝ている。
あれを見ると、やっぱり、お昼寝は1組しかない決勝レースは表彰式があるものの、あっという間に過ぎていくのは目に見えている。
たぶん、決勝競技が始まってから1時間半も経たないうちに今日のレースはすべて終わるんじゃないかなって思う。
それしか時間がないなら、お昼寝をしてしまうと、そのままレース終了までずっと寝てしまうかもしれない。
まぁ、もしそうなったとしても、愛那がなにかしらの仕事をしてくれるんだろうな。なんて思いながら、少し眠い頭を覚醒させるようにバッグからガムを取り出し、ゆっくりと味わうように噛み始める。
そして、ペラペラとスプリットブックをめくり、今日の予選の結果をもう一度見る。
ベストタイムを更新した選手が結構いるんだよね。
夏の間と、そこから先の練習メニューがよかったのか、私の練習メニューになれて、少しずつ負荷をかけた結果なのか。いろんなことを考えながらも、場内の音を適当なBGMの代わりとして聞き流しながら、さらに練習ノートも見返す。
さすがに春先から夏の間、秋にかけて、一番下のコースのサークルが100メートル単位で15秒も縮められている。
あまり気にしていなかったけど、それは、1カ月ほどのメニューとそのときに測ったタイム、レースの結果を参考にするだったから。
そして、よく見返していると、2カ月ほどに1度、5秒ずつ速くなっていた。
ただ、あれだよな。一番速い直哉と遊菜のコースのサークルもこの半年で5秒速くなっていた。
このサークルがもう少し速くなったらこの学校はどうなるんだろうな。とは思った瞬間もあったけど、来年になると、入るかどうかわからないけど、新入生が来る。
もちろん、この中にもよっしーみたいなほぼ初心者みたいな人もいるだろうから、思った通りにはいかないんだろうけど、まぁ、正直、どうなるかは、その時になってどうなるか。だなぁ。なんて思うと同時に自分の口角が上がっているのを感じたよね。
「えらいにやついてんな。コーチとしてみんなの成績がえらいよかったことにほくそ笑んでるんとちゃうん?」
隣でニヤニヤしながら私を見ている愛那はからかうように声をかけてきた。
「そんなことは……ないとも言い切られへんな。なんていうか、沙雪先輩が言うてた意味もわかる気がするな。って思ってな。みんなえらいこの半年でタイムを伸ばしたからさ、うちが調子乗ってるっていうわけやないんやけど、すげぇ頑張ったなって」
「でも、あれなんやろうね。咲ちゃんがいろんな技術と知識を持ってるからやろ。それを的確にその選手にアドバイス上げられる咲ちゃんのホークアイやろ」
ホークアイって。まぁ、いろんなところをまんべんなく見ているっていう意味合いでは、ホークアイって言っていいのかもしれないけど、私としては、自分の実績を上げようとか言う考えはなくて、選手たちが楽しくタイムを伸ばせたらいいと思っているくらい。
だから、何て言えばいいのかわからないけど、ホークアイって言うのも違うんじゃないかなって思ったり。




