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Episode 175 愛那が嬉々と楽しんでいるように見えるんだよな

『よーい』


 その声で、身体を思い切り後ろに引いて、勢いをつけようとする愛那。

 この組で女子がこういうことをする選手は少ないから、少し目立つように見えたけど、スタートしてしまえば、何も変わらない。

 それぞれが得意種目、苦手種目がある中で、しっかりとレースを進めようとする。

 愛那は、先に泳ぐバタフライが得意で、順調に飛ばしていく様子がうかがえる。

 これを見るだけで、愛那が本当に選手だったんだ。っていうのがはっきりとわかる。

 そんなことを思うのは失礼なのはわかっている。

 さすがに、夏休み明けにドクターストップが解けて、意気揚々とプールにダイブする姿を見せる愛那は、遊菜と同類だな。と思ってしまったのは秘密の話。

 だけど、練習できなかった期間を取り戻すかのように、しっかりと泳ぐ姿は、ほかの部員を刺激するものがあった。

 さすがに、元が付くとは言え、マネージャーに負けるわけにはいかないと思った男子がいるのも事実。

 遊菜は逆に本気で泳いでいる愛那を見て大興奮だったけどね。


 愛那のファーストクォーター。得意種目でもあるバタフライは蝶が飛ぶようなフォームで少し腰をいわしそうなフォームだけど、豪快に泳いでいく愛那は、ファーストクォーターを35秒12のトップで入っていく。

 現役復帰してたった2週間でここまで戻してくるか。とビックリしたのも事実だけど、楽しんで泳いでいるように見えるのに安心している私がいる。


「やっぱ、愛那っちやなぁ〜。バッタで飛ばしすぎやろ。あれ。絶対、バックとブレ休憩する気やろ」


 そんなことを言う遊菜だけど、私もそんな気がしている。

 そして、その愛那。ターンをしてからバサロもほぼせずに5メートル付近から腕を回し始める。

 ただ、愛那は背泳ぎが苦手だって言っていたこともあって、はっきりとスピードを落としたのがわかった。

 たぶん、休憩しているという感覚はないんだろうけど、明らかに腕を回すスピードは確実に落ちている。

 まぁ、それに関しては少し仕方ないか。苦手なんだもんね。フォームは多少いろいろ修正したところもあって、最初はバタバタしていたものが落ち着いた。

 そのおかげかわからないけど、かなり落ち着いて泳いでいるように見える。

 前のフォームは、なんとか回転数を上げようとして、少し力任せに見えて、顔にバシャバシャ水がかかっていたものが、今では、すぅーっと泳ぐようになって、顔に水がかからないようになった。

 そのおかげかわからないけど、愛那のレースプランが変わったらしい。

 その意味がようやくわかった。

 今までは苦手なバックまで頑張って、ブレでラストのフリーに繋ぐために力を溜めるようにしていたけど、それがバックでゆったり泳げるようになったことで、バックで力を溜めるようにして、後半のブレとフリーで力を発揮できるようになったって言ってた。

 それでタイムが伸びたって言うんだから、私としては嬉しい限りよね。


 そのバックで後ろと3秒ほどあった差がほぼゼロになり、抜かれるか抜かれないかくらいのところまでのところになったけど、そこでファーストハーフの折り返し。

 ここまでで1分22秒89というタイム。ここからブレとフリーでどれだけ離せるか。ってところかな。なんて思い始めている。

 そんな愛那だけど、バックの間で、ほんの少し回復できたのか、一掻き、一蹴りで前までは、5メートルラインを少し超えるくらいで浮き上がって来ていたけど、今は10メートルラインを超えないものの、前に比べて進んで浮き上がってきた。

 そして、何を思ったのかわからないけど、かなり力強いストロークを見せている。


「成海先輩みたいな泳ぎ方してるな。でも、その泳ぎがどこまで続くかやけど」


 隣で観戦している遊菜が変わらず前のめりになりながら観戦しているけど、愛那の変わったフォームにさすがに気づいたみたい。


「でも、夏の間、ずっと成海先輩のいるコースを見ていたからな。練習中にそんな様子をみせへんかったから、うちも驚いてるけど、でも、あれやろうか。ブレでスピードを上げたいからっていうのがあるんやろうか」

「どうやろうね。でも、バックのフォームを変えるだけで、レースプランを変えられるんやから、もしかしたら、バックで息整えて、ブレから本気って言う形に変えたんかもな」


 それもありえるんだろうな。なんて思いつつ、サードクォーターを折り返していく。

 2分12秒38か。これが本人の中でどれだけ速いのかわからないけど、本人の中では好タイムなんだろうな。なんて思いながらも、ラストのフリースタイルを泳いでいく愛那を見ていた。

 愛那のフリースタイルは、かなり落ち着いているように見えて、なんというか、基本に従順っていうような泳ぎを見せている。

 でも、そんな愛那もすーっと滑るように泳いでいるし、抵抗が少ないからか、思ったより速く泳いでいるように見える。

 もちろん、周りと変わらないフォームなんだけど、それでも、やっぱり愛那のフォームが綺麗なこともあるのか、最終組の割には進んでいるように見える。

 そして、サードクォーターから再び奪ったリードをじわりじわりと広げながら、フィニッシュ。

 トータルで2分51秒33でフィニッシュ。愛那の2個メを取るのは初めてだから、何とも言えないところだけど、自己ベストだと言う事を信じたいな。なんて思いながら、プログラムに愛那のタイムを書きこむ。


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