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Episode 171 遊菜のレース

 そこからは10分もしないうちにすべてのレースが終わり、そのころには愛那も戻ってきた。


「ほぇ~。俊介、ベスト更新したんや。さすが咲ちゃんやね。かなりの人数のベストとが期待できそうやね」

「うちとしてはあまり気にしてへんよ。みんなが楽しんでくれたらそれでええねんから」

「ほんま、咲ちゃんも直ちゃんも遊菜っちも頭のネジが外れてるよな」

「誉め言葉として受け取っておきます」

「とりあえず、はい、これ。お昼な。幕の内があったから、ご希望通り買ってきたし」


 そう言いながら、私にコンビニの幕の内弁当を手渡してきた。


「ありがたいけど、さすがに、ここから遊菜のレースが始まるから、それが終わってからかな。でも、ありがとうな」


 とりあえず、ここから遊菜のレースか。どれだけのタイムが出るかな。なんて思ったり。


「サンキュー。助かる。ちょうど遊菜のレースが始まるタイミングで戻ってこれたな」

「そこはうちの勘がそろそろ戻らなあかんでって言うてきてんから。女王、王者のレースは見逃されへんからな」

「まぁ、うちらの絶対的エースやからな。それに、インターハイ終わって初めてのガチレースやろ?2人とも感触はええって言うてるレースやから見る価値は十分にあると思うで」

「そうやねんな。それがあるからできるだけ早く戻ってきたっていうのがあるんよね。でも、咲ちゃんはインターハイのレースを目の当たりにしてるから、そのときの泳ぎと比べるつもりやろ?」

「どうやろうね。多少は比べることはするやろうけど、そんなガチめに比べることはせんやろうね。近畿大会以上に進むんやったら、気にするところはあるやろうけどね」


『プログラムナンバー5番、女子100メートル自由形、予選1組の競技を行います』


 愛那と話している間に男子の1バック予選が終わっていて、いつの間にか女子の1フリが始まろうとしていた。


「遊菜〜!行ったれ〜!」


 私がそう声をかけると、愛那や杏里ちゃん、ギータが様々な声をセンターレーンにいる遊菜に声をかける。

 さすがに、ここにいるメンバーもこのレースで自身の気づきが何かあればいいな。なんて思っている節がある。


 そんな遊菜。思ったより集中しているようで、こっちには目もくれず、両手を大きく横に広げて身体の前でパンと音を立てながら手を合わせた。


「すげぇ集中力。この前の市立大会では見せへんかったけど、こんなに集中するんや。エグイな。大神のやつ」


 ギータがインターハイが終わってから初めて見る遊菜の姿の驚いていた。

 まぁ、遊菜も部活中はずっとにっこにこしながら泳いでいるし、泳いでいない時もずっと笑顔で、本当にスプリンター女王なのか?と思ってしまうくらい。

 遊菜のクラスメイトも、遊菜が本当に高校女王なのかと怪しんでいるものの、実際に賞状を全校集会の時にもらったときに、遊菜なクラスメイトと直哉のクラスメイトがざわついたのを覚えている。


 そんな遊菜。集中しているのは変わらないようで、すでにスタート前の笛が鳴っていて、遊菜もスタート台に乗っていた。


「よーい」


 そんな声が聞こえたかと思ったら、すぐにスタートの合図が鳴り、遊菜を含めた10人が思いっきり飛び出していく。

 その中でも、遊菜だけは、少し別次元のなにかを感じる。

 飛び込みのフォームもそうだし、水中に入ってからの姿勢、ドルフィンキック。

 なんというか、トップ選手だなって言うのを改めて感じてしまう。

 おそらく、それは、前回大会の市立大会で、テンションが上がらず、インターハイ覇者の泳ぎを見せず、今日、久々にいつもの綺麗なフォームで泳いでいるからだろう。

 しかも、飛び出しも完璧ですでに頭ひとつから身体半分ほどのリードをとっている。

 これが遊菜の真骨頂。このフォームが遊菜の強さを生み出していて、上手く型にハマってインターハイを制したんだと思う。


 そんな遊菜。自身の中ではセーブしているのかはわからないけど、豪快に飛ばしていく様子はいつもと変わらず、周りをじわりじわりと突き放していく。

 そして、あっという間のファーストハーフ。

 タイムも25秒73と、かなり突っ込んだタイムで折り返していく。

 しかも、ひとりだけ25秒台。あとはみんな29秒前半から後半で回っていく。

 正直、ひとりだけ本気になって予選から泳いでいる様子に少し引きながらも、これも遊菜か。なんて思ってしまったよね。

 そんな遊菜らしさを見せたレースは、ラストハーフに入っても、遊菜は手を抜くことを知らずに、最後まで突っ込んでいく。

 さすがの私もちょっとビックリよね。

 結局、遊菜は予選のレースを後続と10メートルほど離してフィニッシュ。タイムも56秒11と、後半、少し伸び悩んだかなと思いつつも、好タイム。

 さすがにパーソナルベストとはいかないけど、パーソナルベストまでコンマ7に迫る好タイム。決勝も期待できるかな。なんて思いつつ、今度は直哉のレースが始まるのを待つ。

 なんせ、女子の1フリは14組まであるんだから。

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