Episode 167 男子のメドレーリレー
そこから、1時間くらいかな。女子のメドレーリレーが3組、男子のメドレーリレーが9組進み、ようやく男子のメドレーリレーのレースが始まる。
正直、女子のメドレーリレー1組が始まってからすでに2時間ほど経っている。それなのにもかかわらず、プログラム自体は2つしか移っていない。
これだけのんびり進むものだから、ものすごく眠くなってしまう。
それは致し方ないことだなぁ。なんて思いながら、しっかりと眠気をこらえ、なんとか時間を過ごし、男子のレースを迎えることになる。
さすがに、男子は最初からバッタくらいまで最下位で推移していくかな。なんてちょっと失礼なことを考えてしまうけど、たぶん、そうなるだろうな。なんて思いながら、審判長の笛が鳴り、選手10人がプールの中に入る。
扇商のファーストスイマーは伊丹くん。45秒台が出たら御の字かな。なんて思いながら、その姿を見届けることになる。
『よーい』
と声が聞こえ、すでにスタートの姿勢を取っていた伊丹くんは、少しだけ身体を引いて、勢いをつけて飛びだせるようにしていた。
そして、ほぼすぐあとにスタートの合図が鳴り、伊丹くんを含めた選手10人が飛び出していく。
さすがに、女子同様、このクラスになると、ギリギリ寄せ集めって感覚がするよね。
そんなことを思いながらレースが進みだす。
伊丹くんは、スタートしてから10メートルくらいのラインで浮き上がって来て、かなり綺麗なフォームで大きく泳いでいく。
こっちもパワーが付けばなぁ。なんて思いながら見ているし、冬の間は、ランをメインにして、持久力とスタミナ保持をメインにしようかと思っていたけど、もしかしたら、筋トレの割合を大きくしてもいいのかもしれない。そう思えてしまった。
そんな伊丹くんは、必死に泳いでいくけど、やっぱり、筋力が少ないせいか、思った以上にスピードが出ていないようにも見える。
だけど、それは、周りがそう見えていたせいもあり、44秒92でセカンドスイマーの吉田くんに繋いでいった。
リレーには初出場の吉田くんは、リレーに出るとわかった時から、ほぼずっと引き継ぎの練習をしていた。
というのも、ほぼ初心者で、最初はスタートすらままならなかったくらいで、バンバン腹打ちもしていた。しかも、それは、個人のレースのときのため。
今回みたいなリレーに出るとわかった時からは、ほとんど誰かにに協力してもらいながら引き継ぎの練習をしていた。
私の中では、個人のスタートとリレーの引き継ぎの時の飛び込みって、やっぱり、形が変わるから、練習しないと大変なことになる気がしている。
というのも、個人のスタートは、多少、足を滑らせたり、失敗して下に落ちたとしても、痛い思いをするのは自分だけ。だけど、リレーになると、自分の目下を泳いでいる選手に危険が及ぶことになる。
もちろん、避けようとして飛び方もだいぶ変わるけど、たぶん、吉田くんは、時間が足りなくて、そこまでいくことはなかった。
落ちるような勢いで飛びこんでいき、慣れていないブレを泳ぐことになる。
正直、泳法違反がなければそれでいい。そんなレベルだ。
たぶん、同じターン側にいた直哉もそう思っているだろうし、もしかしたら、飛び出す直前に「緊張せんと、タイムも気にせんと、楽しんで来いや」と声をかけたと思う。
あいつのことだから、なんとなくそんな気がする。
そして、視線をターン側に向けると、伊丹くんが直哉と握手を交わしていた。それはまるで「ナイスパフォーマンス」とでも言いたげな表情だった。
まぁ、3年生が抜けてから、部長は直哉になったけど、扇商の部活の方針は何ひとつ変わらなかった。むしろ、「もっと楽しんでいこう」ってなおやがいったんだから、そこに驚いたのもある。
ミスはつきものやけど、そこは追及せぇへん。やけど、自分でどうカバーするか考えること。ムリやったら、周りに聞くこと。って言いだすものだから、正直、みんな最初は困惑していた。
でも、それが意外と伊丹くんにも、吉田くんにもいい影響を与えたのかもしれない。
その点に関しては、直哉のファインプレーなのかな。なんて思ってしまう。
さて。話はレースに戻して……。なんとかという表現がぴったりなくらい危なっかしいスタートを見せた吉田くん。
6位でもらったバトンをズルズルと落としているようにも見える。
でも、それは専門外なんだから仕方ないかな。なんて思いつつ、しっかりと泳いでいく吉田くん。フォームもぎこちないのもわかるし、なんというか、進んでいるようにも見えない。
それでも、なんとか泳法違反がないように見えたうえに、しっかりと、50メートルを泳ぎ切って、サードスイマーのギータに繋いでいく。




