Episode 163 新体制の弊害
「あぁ、せや。大神から伝言預かってんねん。『昇り降りすんのちょっとしんどいから、開会式は更衣室ですごすわ』って。ここにおるリレメンはみんな、なにかしら取りに来たってことや」
「そういうことね。了解」
『お知らせします。メドレーリレーのオーダー用紙が提出されていないチームがあります。至急提出してください。繰り返します……』
まだ出ていないチームもあるのか……。
ん?……あっ!すっかり忘れてた!私もだ!
いつもはリレーのオーダーを書いて持っていくのは、沙雪先輩にやって貰っていたから、私がやらないといけないこと忘れていた……。
「愛那!ごめん!女子のリレメン書いてくれへん?完全に沙雪先輩が出してると思って忘れてた」
「あっは。珍しい咲ちゃんが見れたで。って軽口叩いてる場合とちゃうな。えっと、香奈ぱっちに杏里、うちと遊菜っちやね」
「せやね。お願い」
女子のリレメンも男子のリレメンもメンバーは決まっている。というか、男子も女子も人数がギリギリだから、ほぼ固定になってしまう。
しかも、今のところ、ほぼ初心者のよっしーがブレに入るという、不安定さ。まぁ、そうなるのは見えていたから、多少は練習してもらっていたところはあるけど。
そして、女子については、愛那がバッタに回ることになっているけど、愛那が選手復帰できなかった場合、遊菜にバッタをお願いするところだった。
だから、2年生がいない今、ものすごく弊害がある。
市立大会までは、基本的に3年生がメインでリレーを泳いでいたから、なおさらに。
まぁ、チームとしては、組めるだけありがたいってところだろうか。
「ほんなら、咲ちゃん、これな。リレメンのオーダー用紙渡しとくな」
「ごめん、ありがとう。すぐ出してくる。スプリットブックだけ書き込んでくれない?まだ中途半端だから」
「オーライ」
まだ中途半端なスプリットブックをほっぽりだすような形になって申し訳ないけど、私は慌てて階段をかけおり、メインプールの方へ向かう。
ラッキーなことといえば、更衣室のある方に応援席をとったことか。
変に遠回りせずに、ストンと階段を降りて、更衣室に入り、そのままメインプールに抜ける。
さすがに、更衣室は着替えている人の数が多くてスムーズには行かなかったけど、まぁ、なんとか抜けて、人も少なくなったメインプールのプールサイドを滑らないように早歩きでペタペタと進み、なんとか本部席にリレーのオーダーを提出できた。
危なかった〜。これを忘れたら、リレーは棄権扱いになるから、そうならなくてよかった。そう思えた。
ただ、私も気をつけないとな。さすがに、今まで沙雪先輩にやってもらっていたからって、完全に忘れることになるとは思わなかった。
さすがに、でかすぎる失態だな。なんて思いつつ、また客席に戻る。
「咲ちゃんでもそんなことあるんやな。スーパーマネージャーらしからぬ一面やな」
「もう、なんも言われへんわ。しかも、ずっとリレメンのオーダー用紙提出は沙雪先輩がやってくれてたから、それで身体が慣れてるのもあったし。こんな派手にやらかすとは思えへんかったわ」
「まぁ、マネージャー専任が一気にひとりになってもうたもんな。仕事の量も増えるわな。やから、うちがなんか手伝ったろうかって聞いたのに」
あのアナウンスが流れるまで、私の中では、いるはずもないのに、すでに沙雪先輩が出してくれているものだと思い込んでいた。
それほど、沙雪先輩がいろいろ動いてくれていたということ。私としては、やっぱり、もうひとりくらいマネージャーがほしいと思ってしまう。
けど、やっぱり、基本的には選手として泳いで欲しいし、そのあたりは私がサポート役に徹するだけ。なんて思ったりもする。
「選手は自分のレースに集中して欲しいからな。うちはサポートに徹するだけ。さっそくやらかしはしたけど」
「まぁ、それくらいやったらな。うちも声かけたったら良かったわ」
いや。これは完全に私のミスだから、そこまで気にしなくていい。次から気をつければいいだけだ。
「気にせんでええって。マネージャーは選手がレースに集中できるように動くもんやと思ってるわけやし」
「そう?やったらええけど……」
たぶん、愛那の頭には、しばらくマネージャーだったこともあって、選手に戻ってからも、練習量は調子をみながら自分で調整していて、マネージャー的な一面もまだ残っているのかもしれない。
でも、もうここからは故障明けとはいえ、選手という立場に変わったんだから、あまりマネージャーの仕事は気にしなくていいのにな。なんて思っている。
派手にやってしまいましたね。美咲さん。
まぁ、それほど前の代では、役割分担がしっかりとできていたということでしょう。
ここから美咲がどう対策するのかってところですね。




