Episode 161 3年生が引退した後
激動の1年にそろそろ終止符が打てそうかなって頃。
夏の間にあった『対抗』と呼ばれた府の学校対抗大会に比べたら、制限タイムも緩く、ある程度の人数がまとまって出られる大会。
たぶん、大半の1年生はこれが今年度最後の大会になると思う。まぁ、一部の例外はいるけどね。
でも、この大会で、この半年をどれだけ頑張ったかっていうのがはっきりと出るだろうから、正直、楽しみなところではある。
あとは、どこまでのタイムがでるかってところかな。なんて思いつつ、会場で開場するのを待つ。
2週間ぶりに、前回大会で使ったプールに来るけど、今回は、前回大会の何倍にもなる人が来る予定になっているらしく、今回も久しぶりに座席の争奪戦をしないといけないらしい。
それに関しては、沙雪先輩から聞いたことで、私自身もちょっとどうしようかと迷ってしまったところはある。
だけど、もう、さすがに大会前日にいろいろ決断したよね。
『明日、朝7時半に来てくれない?』
市立大会の後に選手復帰をした愛那に申し訳ないと思いながらも、席取り合戦に勝ちたいからと無理を言うメッセージを送ったものの、愛那からは、快諾の返事をもらえた。
もちろん、私と愛那で席取り合戦に参加するわけではなく、誘導係の直哉を、席取り要員に遊菜と、初日にレースには出場するものの、男手が欲しいこともあり、ギータにも声をかけ、快諾をもらった。
それ以外の部員達には、8時前には会場に来てと言って逢って、これでいい感じに進められるんじゃないかって思う。
そして、席取り合戦に参加するメンバーにどこの席を取るのか伝える。
「そんなに上に行くんか?」
「みんなちょっと疲れるかもしれへんけど、そこやと、確実に席も取れるし、みんなのフォームも見やすいって言うのがあるからってだけやねんけど」
「それだけかい。まぁ、座れるんやったらええか。とりあえず、そこやな。了解」
簡単に話しをつけると、開場時間になるまでもう少しだけ待つ。
そして、開場時間になると、競技役員の人がひとつずつ扉を開けていき、全部のドアが開いたタイミングで、「ゆっくりと入場してください」と声を掛けられながら、選手、マネージャーが入っていく。
そこに、私たちも、人の流れに任せて中に入り、そこからは、センターラインの最上段を狙って歩いていく。
幸いなことに、私たちが場内に入れたのは、まだ時間も早い段階で、客席の下の方では、争奪戦が繰り広げられているのを横目に、私たちは、部員の数より少しだけ少ない席数をメガホンで確保。
「ほんなら、とりあえず、ほかの部員が来るのを待つだけやな。あれやったら先にアップ行って来てもええで」
「まあ、そこは原田来てからでええやろ。大神もどうせそうするんやろ?」
「せやね~。まぁ、先入って着替えてもええし、どうせ混むやろうから、先に行ってもええと思うで」
遊菜が意外と冷静だな。なんて思いつつ、珍しく、どこか集中しているのかな。と思ってしまった。
でも、それは、今年のいろいろな経験を得たからだろうな。なんて思ったりもする。
あと、遊菜の今日の感じを見ていると、調子、よさそうかな。あまり心配しなくてよさそうかな。
直哉については、朝話している限り、こっちも調子よさそう。タイムは期待してもいいのかもしれない。なんて思いながら、ゆっくりと私も自分の準備をする。
「愛那も長水路に身体ならして来ぃや。ほぼ1年ぶりの長水路やろ?絶対、感覚狂ってんで」
「それはもうわかり切ってることやしな。まぁ、それなら、先にアップ行かせてもらおうか」
愛那はそういうと、後ろの通路を通ってメインプールへアップに向かった。それに続くようにして、ギータにもう一度声をかけ、アップへ行くように促す。
「まぁ、そこまで言うんやったらそうさせてもらうわ。たしかに、長距離で泳ぐこと少ないからな。それに、今年最後のレースになりそうやし」
それだけ言うと、ギータも愛那と同じ道を通り、アップへと向かって行った。
そこから数分もしないうちに直哉が部員全員を引き連れて、私と遊菜がいるところまでやってきた。
「やっぱりここやと思ったわ。どこにおるんか何ひとつ迷わず来たら案の定やな」
「ちょっと遠いけど、いいでしょ。席取り合戦に巻き込まれんで済んでんから」
「まぁ、座れるんやったらありがたいんやけどな。それに、こうでもせんと、座られへんかったやろうし。とりあえず、10席は確保したんやな」
「せやね。たぶん、あんたと遊菜はずっとサブプールで泳いでるやろうし、こっちも戻ってけぇへんやろ?」
「まぁ、たぶんな。昼めし食うくらいは戻ってくるやろうけど」
「まぁ、それくらいやったらな。それに、そのタイミングとかで誰かしらレースに向かってるやろうし」
「やと思うわ。アップ行ってくるわ。また合図貰ってもええか?」
「無理ちゃうかな。対抗と同じくらいの人が来るって話やから、よう泳がんのとちゃう?」
「あぁ、そんなことを言うてたな。それならしゃあないか。とりあえず、どうにかするわ。メニューはええわ」
それだけ言うと、直哉は、準備を済ませると一匹狼のようにひとりでスタスタと降りて行った。
それを見て、遊菜も直哉の後ろをついて行くようにしてタタタと降りて行った。




