Episode159 沙雪先輩の楽しみ
そこから、順番に得点を重ねたチームが呼ばれていき、男子総合の5位に鶴商が入った。
「これで、うちらが上やって言うことが確定したな」
いつの間にか隣に移動してきていた沙雪先輩がボソッと言った。
たぶん、プールサイドに降りている直哉たちも思っていることだろう。とくに、成東先輩と部長は。
『第4位、扇原商業高校、70点』
場内アナウンスが扇商男子の順位を読み上げると、男子陣がウォー!と盛り上がった。
何て言うか、リレーの結果通りって感覚はするけど、私としては、ホッとしているところはあるかな。
そんなんことを思いながら、リレーの結果通りだなって思っていた総合順位の結果を聞き流す。
案の定、メドレー、フリー、両リレーでトップフィニッシュした毛馬高校が総合でも1位、2位フィニッシュした今津高校が総合2位、八雲西高校が3位に入る結果になった。
そして、女子についても、上位5チームは変わらず、扇商女子も4位が確定したことで、女子も大歓喜の輪ができかけていた。
これも、みんなが自己ベストを出した結果だと私は思っている。
来年は、これより上に行けたらいいな。そんなことを思いながら静かにプログラムを閉じて、場内を見る。
さすがに、いろんなところから声が上がっていたけど、それはあっという間に消え去る。
そして、そのまま歓声が無くなることも気にすることもなく、淡々と閉会式は進んでいく。
『異常で閉会式を終わります。一同、礼』
ここからは自然解散になるようで、プールサイドにいた人たちは、みんなばらばらと散って、直哉と遊菜たちもそそくさと戻ってきたいのか、ひょいひょいと人を交わしながら観客席の下に姿を隠した。
「やっとおわった~」
「ほとんどなもしてへんやん」
「そんなことないやろ!?レース結果全部写真撮って渡したやん!」
ちょっと笑いながら冗談で言っただけなのに、かなり食いついてくる愛那。
反抗はしたいみたいね。なんて思いつつ、笑いながら「冗談やん」と声を返す。
「ほんま、咲ちゃんは冗談なんかちゃうんかわからんから怖いねん」
私としては、そんなつもりはないんだけど、愛那はそう聞こえてしまうみたい。
その姿に少し笑いつつ、私もカバンの中に自分の筆記用具を片付け、プールサイドに降りた部長たちを待つ。
「よし、あとはみんなで打ち上げやな」
沙雪先輩は少しにこにこしながら食事会を楽しみにしているみたいだ。
そして、そこから数分くらいしてから、部長たち6人が戻ってくると、1年が中心になって座席の周りを確認して、忘れ物がないかだけ確認して、会場を出る。
「うぇっ、あつっ」
ずっと冷房の効いた屋内にいた関係で、外の熱気に身体が負けそうになる。
外って、こんなに暑かったんだ。そんなことを思いながら、長浦先生が来るのを待つ。
「長ちゃんが来る前に先に最後のミーティングしとこうか」
部長がそう言うと、みんな自然的に円なる。
これも、なんというか、見慣れた光景でもあって、明日からはこれがないのか。なんて思うと、少し寂しく感じる。
「正直、この1年は俺ら3年が経験したこともないくらいしんどい時間ばっかりやったと思うけどさ、こっから見る限りさ、みんなの顔が充実してんねんな。めっちゃ笑顔やねんな。やから、しんどい練習ばっかりやったと思うけど、こういう時のためやったんかなって思ってんのよね」
しんみりした顔で言う部長は、いつもの笑ってる顔とは違って、やりきった感を出していた。そこに少し火を注ぎたくなるのが私の性なんだけど、やってもいいかな?
まぁ、いいか。いっちゃえ。
「えっと、マネージャーからもうひとつ面白いことを言うとするなら、直哉と遊菜以外、みんな自己ベスト更新してます。夏休みの間、結構しんどいメニューを作ってきましたが、みなさんが諦めず、ついてきてくれたことでこういう結果になったのかなって思ってます。みなさん、お疲れ様でした」
私がほぼ全員、自己ベストを更新していることを伝えると、みんな「おぉ〜」という反応と、拍手が巻き起こった。
でも、ここまで行くとは思っていなかったのも事実なんだよなぁ。なんて思っているところもあるし、たぶん、一気に伸びたのは、宮武選手から八大三郷高校の練習メニューを貰えたからだろう。
「ほんなら、長ちゃん待って、飯行くか」
そこから数分くらいかな。長浦先生が来るのを待って、この代最後のミーティングをすることになる。




