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Episode 157 フィナーレ

 ……なんていうか、半フリの時と同じくらい鋭く鳴り響く審判長の笛の音。

 まぁ、最終レースだっていうこともあるからか、ものすごい声援の数があるし、参加人数が少ないこの大会だからこそっていうのはあるんだろうけど、いろんなところから声が跳ね返ってきて、鎮めるためには、これくらいしないといけないか。なんて思いながら、鋭い笛の音に耳を澄ませる。

 そして、笛の音に反応して、ファーストスイマーの10人がスタート台に乗る。

 その表情については、ゴーグルで隠れているとこもあって、全部を読み取れるわけじゃないけど、両端のレーンに行くにつれ、集中はしているんだろうけど、緊張しているのかなと思ってしまう。

 そんな考えをよそに、出発合図員の「よーい」という声が、今までよりも低く聞こえ、レースが始まると、一気に緊張感を持たせる。

 やっぱり、この感覚は嫌だな。なんて思いながらも、スタートの合図が鳴り、一斉に飛び出す選手たちを見る。

 改めて、じっとスタートするタイミングを見ていると、当たり前のように感じるかもしれないけど、センターレーンに近づくにつれて、スタートが早くて綺麗。

 そして、センターレーンから離れるほど、言い方が悪いアkも知れない毛おd、反応青苧くて、スタートのフォームもぐちゃぁっとしている印象。もちろん、その中にも、きれいなフォームをした選手もいるから一概には言えないけど、やっぱり、実力差はすごくあると、こういうのも目についてしまうよね。


 さて。レースだけど、扇商のファーストスイマーは、今までのレースとは変わらず、鮎川先輩をおいていて、できるだけ離されないように。という部長のメッセージが込められている。

 それは、セカンドスイマーに入っている自分が遅れたら責任を取るから。とも言っていたような気がする。

 そして、それを隣で聞いていた直哉は、部長がいなくなったところで「リレーで抜かれるのはアンカーの責任やねんから、気にせんでええのに」なんて男前なことを言っていた。

 そんな鮎川先輩だけど、まぁ、隣を泳ぐ今津高校について行こうとするものの、やっぱり、実力差がはっきりと出ていて、ハーフラインの時点で身体半分の差。そこから必死に食らいつくものの、じわりじわりと差が広がり、セカンドスイマーの部長に繋ぐ頃には、身体ひとつの差になっていた。

 ここからは、ずっと離される一方になって、ここから見える限り、セカンドスイマーのハーフライン時点でだいたい3秒差くらい離されているんじゃないかな。なんて思いながら見ている私がいる。

 その扇商の横を泳ぐ今津高校は、さらに隣泳ぐ毛馬高校とデッドヒートを繰り広げていて、どっちが前に出てもおかしくはない状態。

 これくらいのレースが扇商でもできたらいいのにな。なんて思ってしまうけど、直哉はそんなことを望んでいないんだろうな。なんて思いつつ、さらに進むレースを眺める。


 セカンドスイマーの部長も、精いっぱいのパフォーマンスを見せて、サードスイマーの成東先輩に繋いでいった。

 すでに、トップを泳ぐ毛馬高校、今津高校とは5~6秒ほど差が開いていて、さらに後ろを泳ぐ八雲西高校とは4秒ほどの差。これがどうなるかな。

 まぁ、たぶん、順位はこの3校の後ろについて4位で確定だろうな。なんて思いながらも、ちょっと気を抜かずに見守る。

 さすがに、隣を泳ぐ今津高校と身体3つほど離れだしてしまったら、もう直哉でも追いつけないだろうな。と少し諦めてし始めてしまっているところがあるかな。

 それでも、なんとか前との距離を縮めようとする成東先輩。相変わらず、スプリントらしさを見せて、最初から全力で飛ばす。

 それを見て、まだ気持ちは切れていないんだ。なんて思ったりもしたけど、もしかしたら、高校生活最後のレースだから、後悔したくなかったのかもしれない。

 たぶん、人それぞれ考えることは違うだろうけど、少なくとも、3年の先輩たちは、そう思っているのかもしれない。

 泣いても笑ってもこれが最後の公式戦になるわけだから。

 それに、このレースが終われば、3年生の先輩たちは同時に引退という形になる。

 やっぱり、思うのは、最後の最後まで後悔はしてほしくないって思いだけ。

 それ以外は今は考えないようにしたいかな。なんて思ったり。


 そして、“超”がつくほどスプリンターの成東先輩は、だいたい自己ベストに近い28秒台でアンカーの直哉に繋いでいった。

 ただ、やっぱり、強豪3校も26秒台から27秒台で泳いでいったみたいで、差はおおよその概算でしか計算できないけど、少し広がったようにも見える。

 それでも、ここからは、直哉が派手に泳いで、少しでも差を縮めてくれるだろうな。なんて思いながら、テンションがあまり上がっておらずちょっと不安なアンカーの直哉にほんのわずかな期待を寄せる。

 たぶん、直哉はそんなことを何ひとつ思っていないだろうけど。


 その直哉は、どうやら、テンションが上がり切っていないけど、先輩のラストレースということがわかっているのか、少しでも全力を出しているように見せている。

 というのも、いつも以上に、キックの飛沫が派手に出ているから。

 それさえも錯覚なのかと思ってしまうけど、たぶん、それはないと思う。

 そんな直哉も、一応、プライドがあるんだろうな。豪快に泳ぐところは泳ぎ、スピードに乗らないのをごまかしてラストまで泳いだ。

 それを見て、私としては、誤魔化し方さえも覚えたか。なんて思いながら、電光掲示板に視線を移し、トータルタイムを確認。

 2分14秒10か。

 この前の八商大会に比べるとだいぶ速いタイムだ。あとは、個人のタイムを出すだけなんだけど、直哉以外はベストが出ているんじゃないかと思う。

 これで、しっかりと鶴商とも差をつけてフィニッシュしているわけだから、3年男子の先輩たちも納得して終われたんじゃないかなって思う。……個人に関しては、わからないけどね。



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