Episode 155 そろそろフィナーレ
そうなんだ。そんなレベルだったんだ。そう思ってしまったのはナイショの話にしておいてもらって、プログラムに書いてあるタイムの横に王冠のマークをそれぞれに付ける。
なんて言うか、タイムを書いたり、選手に声をかけるので精いっぱいになっていたのか、誰がどれだけの順位に収まったのかをまったく把握していない。
あとで、記録の写真を撮りに行こうかな。そう思ったくらい。
人によっちゃ、タイムより順位を気にする人もいるだろうし、直哉や遊菜みたいにタイムも順位も気にしない人だっている。正直、それは人それぞれだし、私がタイムを気にしろ、順位を気にしろ。なんて言える立場じゃない。
それで競泳が嫌いになってしまったら、それはそれでもったいない。あと、直哉が気にしていないのは、自身が競泳を楽しんでいるだけだから。
あと、遊菜に関しては、直哉のタイムを抜かすことだけを考えているから、自分のタイムには関心はあるけど、周りのタイムや順位はどうでもいいって考えてるタイプ。
だから、プログラムに書かなくてもいい。とは入れるものの、私としては、書いておかないと、管理ができないから書いているだけ。
それは、直哉のことだけじゃなくて、選手全員に言えること。
私はそれでいろいろとメニューを考えているわけだし、自己ベストのタイムによって、コースを分けているわけだし。
まぁ、行っても、直哉と遊菜が特異なだけだと思っているけどね。
「ほんなら、あとは男女それぞれのリレーだけやな。どんなタイムでゴールするんやろ」
愛那は、少し目をキラキラと輝かせて、レースが今か今かと待ちきれない様子。
まぁ、気持ちはわからなくもないかな。なんて思いつつ、プログラム最後のページをめくる。
レーン順がなにも書かれていない最後のページ。
さすがに、どこの学校が出てくるかわからないから、なにも書いてないプログラムにひらがなで高校名を先に書いていく。
そこから、レースがスタートすれば、ノートにラップタイムとトータルタイムを書いていき、ラストのトータルタイムだけプログラムに書いていく。……つもりだった。
場面は女子の2継。学校は8つしかない状態で、一発決勝でレースをするから、正直、どこまで差が広がったり縮まったりするのかはわからないぶん、どうなるんだろうな。って思っている。
「扇商ゴーハイ!」
扇商の学校名と選手名がコールされると、愛那を中心にして、声を豪快に飛ばす。
さすがに、そのすぐあとに紹介される今津高校に声はかき消されるけど、遊菜がこっちに向けて手を振ってきたのが見えた。
相変わらず見えていないのに、よく手を振ってくるよな。なんて思っていたけど、いつものことだから、あまり私は気にしていない。
あれだけラフな顔でこっちに向いてくれたなら、いつも通りだなって思うよね。
「遊菜っち、いつも通りそうやな。あんだけテンション低いって言うてたのに」
「どうなんやろうね。そこは本人にしかわからへんことやから、うちもなんも言われへんけど、まぁ、本人次第やからな。表情かくしたりすることもあるやろうな」
正直、あまりタイムは伸びきらないだろうなら、っていうのが私の見解よね。
それでもあまり気にしないようにするのは、他の選手に気を向けさせないためよね。いろいろ本人たちも気を使うところはあるだろうけど、本人たちが納得のいくレースをしてくれたらって思う。
そこから、審判長の鋭い笛が鳴り、私たちは声を潜め、緊張の一瞬を待つ。
「えらい審判長も慎重に笛吹いてるな」
「まぁ、ラスト2レースとはいえ、男女それぞれ花形の2継やからな。各校も応援に力入るやろうし、威厳は見せなあかんやろ」
「まぁ、そうか。そらそうやな。とくに毛馬と今津は声出るもんな。それを静かにさせるわな」
選手の集中を保たせるためにも、もちろん必要なことだからっていうのは、扇商は、笛が鳴ったら静かにしなさいとは言っている。
自分も集中したいなら、自分が静かにしようよ。って直哉がそういった。
そこから、1年ももちろんだし、3年の先輩たちも静かにするようになった。
「よーい」
この声で完全に静かになるのはもちろんなんだけど、少しザワつく声がものすごく響くように聞こえる。
もちろん、私はこの声に惑わされるほど集中できないわけじゃないし、普段から、レースのときは周りの声を聞こえないようにしている。
スタートの合図が鳴って、豪快に飛び出していく選手8人。もちろん、強豪3校が前に出て、扇商、鶴商がその後ろに、またその後ろに3校が団子になっている。
やっぱりこうなるだろうな。なんて思っていたけど、やっぱりファーストスイマーの福浦先輩と鶴商のファーストスイマーが競り合っている状態。
ここでリードがほしかったな。って思ったけど、まぁ、ここは八商大会と同じようなレース展開に近い状態かな。
ここからだと、上から見ている分、誰がどれだけ離されているかもよくわかるんだけど、なんとなく、福浦先輩のほうが頭半個くらい前に出ているかなって思う。
福浦先輩だったら、もう少し差が欲しいかなって思ったりもするけど、どうなんだろう。
このあとのことを考えると、もうちょっと差がほしかったな。なんて思ったりもしたけど、まぁ、ひとり50メートルだけだったら、さすがに差が開きにくいか。なんて思いながら、セカンドスイマーの川上先輩に繋いでいく。




