Episode 152 お昼休み
そんなこんなでのんびり泳ぎながら、ちょっと楽しく、懐かしい感覚を味わわせておmらったな。なんて思いつつ、30分くらい泳いで、私は先にプールサイドに上がる。
正直、この30分はただただゆっくりするためだけの時間で、私も何もすることがなかったから泳がせてもらっただけ。
でも、ここからは、もう一度レースに気持ちを持って行くために、ほかにも、リスタートをかけるためにアップをやっていく。
まぁ、今日の直哉たちは、気持ちが切れている以上、私から鞭を入れるのは難しいんだけど。
そんなことを思いつつも、長水プールなのに、クォーター単位のメニューを入れたりして、工夫をしながらアップを進めさせる。
「とりあえず、ワンフォーツーハーフ、イーハーハーイーで」
「25単位か?」
「せやね。ターン後のスピードも持って来いって話やから」
「オーライ」
「なんか、ギュイン!とテンション代わってきたな。切り替え速すぎやって。咲ちゃんも直ちゃんも」
まぁ、それは否めないと思う。
なんせ、スーパーマネージャーですから。という一言で片づける気はないけど、切り替えの早さはかなり早いほうだと思っているし、直哉も、泳ぐ速さだけではなく、気持ちの切り替えも早いほうだと思っている。
「これくらいせんと、1日に何回もレースできひんやろ。お前は、ずっと『楽しかった~』で終わってるかもしれんけど」
「まぁ、競泳やってて凹むことは、あれからあんまりないけどさ、そこまで一瞬で気分は変えられへんわ。今日に関しては、朝の感覚のこともあるしさ」
まぁ、そうだろうけどさ。私としても、クヨクヨしていても仕方ないって中学でわかったわけだし、気持ちの切り替えって言う面では、ちょっと勉強した。
そこからどうやったら気持ちを切り替えられるのかは自分でもよくわかっていないけど、オンオフの入れ替えははっきりさせるようにしたかな。
でも、楽観的に考えると、私がやりたいことに対してのやる気スイッチなわけだから、自然に切り替わるのは当たり前になっているのかもしれない。
そこからしばらくまた泳がせ、ダッシュメニューも入れ、その中でタイムを1本だけ採る。
まぁ、結果は言わずもがなッて感じだけど、あまり刺激しないように何も言わないでおく。
「ほんなら、ラスト、ダウンで。ワンワンラフ。泳ぎ終わったら、そのまま招集行ってもええし、戻るんやったら、戻るでかまへんし」
「オーライ」
そこからものすごくきれいなフォームで泳ぎ、直哉も遊菜も一度メインプールから上がり、スタスタスタと招集場所とは反対側に歩いていったと思ったら、バスタオルを持って来ていたのか、それを敷いて、その場にぺたんと座った。
「そのまま柔軟すんの?」
「ちょっとだけな。短時間でレースを何回も泳いでるわけやし、ちょっと身体も楽にしとかんと、出せそうなタイムもでぇへんからな」
「せやね。ここからあと3レース待ってるって考えると、ちょっとうちもペース配分を考えてまうところはあるかも」
「そういいながらお前は、どこでもレースは頭から全力やないか」
「それもそうやねんけど……。やけど、ラストのリレーくらい、疲労が軽い中で全力を尽くしたいわけよ。別に、個人はどうでもええわけとちゃうんやけど」
まぁ、気持ちはわからなくもない。
大会のフィナーレを迎えるレースなんだし、そこのアンカーなんだから、悔いは残したくないだろう。その気持ちは十分にわかるし、私だってそうなるだろう。
「ほんなら、うちはスタンド戻るな」
「オーライ。またなんかあったら合図出すわ」
「了解。楽しんでおいでや」
「言われんでも」
簡単に会話を交わした後、私は、着替えるために更衣室に入る。
そして、スタンドに戻った私は、マネージャー業務に戻ることになる。
「おかえり。めっちゃ気楽に泳いどったな。そんだけ泳げるんやったら、選手復帰もありちゃうん?」
「愛那までそんなこと言うてから~。直哉にも同じこと言われたわ。やけど、選手復帰はないな。いまだにあのスタート台から飛び出されへんし」
「あっ、そっか。咲ちゃんにはそのハンデがあんのか。ごめん、忘れてたわ」
「別にかまへんよ。気にしてへんし。まぁ、一緒に泳いでみた結果やけど、あんまり直哉と遊菜のタイムは伸びひんと思うわ。テンションが全く上がり切ってへんかったし」
「そうなんや。ちょっと残念やね。せっかく王者・女王の力を見せつけるときやのにな」
「まぁ、そこはしゃあないんちゃうかな。全然張り合いないって言うてたし、ちょっともうそこは諦めてたし。極めつけは、上から飛ばした時、まったくって言うていいほどタイムが伸びひんかったし」
「ほんなら、ちょっと渋いレースになるかもってことやね」
「さすがにトップは取りきるって言うてたけどな。珍しく、タイム捨てて順位を撮りに行くみたいやな」
いつもやったら、タイム重視で来るのに」
「さすがに威厳をは守りたいってことなんやろうな」
2人がアップで泳いでいるとき、ポロっと言葉がこぼれていたのを聞き逃さなかった。
さすがに、インターハイでトップに立ったからには、さすがに小さい大会でもトップに立っておかないと立場的にまずいやろうなって話をしていた。
さすがに、立場は気にするか。なんて思いながらメニューを進めさせたけど、なんていうか、テンションが上がり切らなかったせいもあって、たぶん、立場を気にしたんだと思う。




