Episode 151 因縁のプール
「おつかれ。直哉、遊菜、2人ともイマイチやったな」
「あんまりやわ。燃え上がらん。たぶん、今までギリギリのレースばっかりやったからとちゃうかなとは思うんやけど、どうも張り合いがないわ。マジでトップ通過できひのとちゃうかって一瞬ひやってしたわ」
「せやね。たぶん、今日は無理やと思う。弱気になるわけないけど、あまりにも環境が違いすぎるわ。とりあえず、うちは昼からの1フリで大会記録を狙うつもりではおるけどさ、やっぱ、どうなるかはわからんわ」
どうやら、厳しい戦いを勝ち進んできた2人とっては、少々物足りない模様。まぁ、それは仕方ないか。なんて思いながら、直哉と遊菜のタイムを確認する。
インターハイから1週間ほどしか経ってないけど、半フリでコンマ5も落ちている。
正直、それだけだとなんにもおかしいことはないんだけど、やっぱり、今までド派手にギリギリのレースを重ねてきたこともあって、やっぱり張り合いがないと、これだけ落ちるのか。なんて思ってしまった。
今日は、これ以上のタイムは見込めなさそうだな。このあと、直哉も遊菜も1フリの予選を控えているけど。
「とりあえず、俺も大会記録やな。さすがにどんなタイムが出るかってところやな」
かなり自信喪失になってきているようにも見える直哉。
ちょっとメンタルがやられはじめているか。
ただ、私としても、ここまで来るとは思ってもいなかったな。
そんなことを思いつつ、スプリットブックを閉じ、軽くメニューを作ることにする。
こういうときは、気楽に泳がせるのが一番だろうけど、ただただ泳ぐんじゃなくて、フォームチェックをさせながら、記録を出すために渡しも手伝う決心をする。
「とりあえず、早く食べてまいな。この昼休憩中はメインプール使えるから、ちょっとでも泳いだほうがええんちゃう?」
「せやな。そうするわ。気分転換とはわけがちゃうんやろうけど」
何かを察してくれたのか、直哉は食事のスピードを少しだけはやめて、すぐに食べ終わろうとする。
「遊菜はどうする?一緒に泳ぐ?」
「せやね~。咲ちゃんが泳ぐんやったら、うちも泳ごうかな」
最初から、愛那がいいよって言うなら、私もメインプールで泳いでみたかったし、ちょうどいい機会だなって思ったから、私も泳ぐことにした。
そのことを伝えると、遊菜は速攻で「泳ぐ」って言って、私も泳ぐことにしている。
ただなぁ。私がどこまで泳げるか。なんだよなぁ。なんて思いつつも、泳ぐ準備を進める。
そこからものの3分でお弁当を書き込んだ遊菜と一緒に更衣室に行き、着替えてから、しれっとメインプールに入り、ゆっくりと泳ぎだす。
さすがに私だって、ほかの選手の邪魔にならないように泳ぐつもりだから、堂々と真ん中のコースは使わず、細々と橋のコースで泳ぐ。
ついでに言うと、直哉と遊菜の邪魔にならないように、2人の後ろをのんびり泳ぐようにしてね。
それにしても、公認長水プールで泳ぐのが久しぶり過ぎて、つい、こんな感覚だったっけ?っていう感覚に陥ってしまう。
それは仕方ないことなんだろうけど、この感覚を楽しんでいる私がいる。
「久々ちゃうん?長水で泳ぐの」
スタート側に戻ってきた私を待っているかのように2人が私の泳ぎを見ていた。
「あの事件以来やね。しかも、なんの因果関係やろうか。まさか、長水をここで泳ぐことになるとは思ってへんかったし、めっちゃ悔しいって思ってまううち「悔しさを忘れてへんかったらええやろ」がおるわ」
「悔しさを忘れてへんかったらええやろ。まぁ、まだ飛ばれへんと思うけど」
「さすがにどう頑張っても、ここは無理やな扇商の飛び込み台はさすがに慣れたし、恐怖感もなくなったけど、さすがにここはな……」
「やろうな。まぁ、今はスーパーマネージャーって立場やし、無理に慣れる必要はないやろうし」
「そう言うてもらえるとありがたいな。まぁ、俺は選手に戻れるんやったら、戻ってもええと思うけどな」
直哉はそんなことを言ってくるけど、たぶん、それはないだろうな。なんて思いつつ、まだ泳ぎだす直哉たちの後ろをゆっくりとついて行く。
ただ、あれよね。わかりきっていたことだけど、スピードの差がハッキリとでているから、はっきり言って、おいて行かれる感覚はものすごく強い。
だけど、私の前を泳ぐ遊菜も、ゆったりとしたフォームで泳いでいるわけで、意外とスピードは出ていない。
ゆったりと泳ぐことを目的にしているのか、前を泳ぐ直哉を追いかけることは何もしないようにも見える。
さて。私もゆったりと泳ぐことはやめないけど、クロールから背泳ぎに変えるか。
それだけ思うと、50メートルのターンをした後、仰向けのままバサロキックを打ちながら、背泳ぎで泳いでいく。
さすがに、人が少ないこともあり、波は立っていない。むしろ、遊菜が泳いだ後の水流に乗っていた、あまり力を入れずともある程度進む。
これくらい気楽に進めれば私としても、あまり力をいれずに進むなら、それだけでオールオッケーだと思っている。




