表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/241

Episode 146 遊菜の決勝

 そこから予選を突破した決勝、元から1決の決勝レースといろいろ理由はあれど、とりあえず、決勝のレースは本当にあっという間に進んでいき、時間調整のような表彰式があり、ようやくと言っていいのかな。スプリント覇者が出てくるレースになる。

 扇商の中ではお祭り騒ぎになる種目でもあるかな。なんて思いつつ、すでにターン側のスタートラインで準備をしている遊菜を見る。

 ……相変わらずと言うべきか、恐れ知らずというべきか。両サイドが頭半分くらいの身長差がある中でずっとニコニコとしている。

 これが女王の余裕と行ったところなんだろうか。


『プログラムナンバー12番、女子50m自由形決勝のコース順を申し上げます』


 各コースの名前と学校名が呼ばれ始めるのと同時に、私は伊丹くんを呼んで耳打ちする。


「ごめん、これから先、決勝の時、ここにおるときだけでええから、扇商の選手が紹介されたら指笛吹いてくれへん?ちょっとでもチームの士気を盛り上げたい」

「いや、ごめん、それだけはやめとくわ。さっきは、あんなに響くと思わんかったからやったけど、あれだけ響いたらいろいろ苦情もらいそうやから」


 まぁ、確かにそうなんだけど、今津や毛馬に声で勝とうとするなら、伊丹くんの指笛があれば完璧なのに。って思ってしまったよね。

 ただ、本人が嫌がっている以上、無理強いはしない。そんなことしちゃかわいそうなのもわかりきってることやし。


『第5コース、大神さん、扇原商業』

「遊菜っち~!行け~!」


 声出し番長の愛那を筆頭に、観客席にいる部員たちが口々に大きな声を出し、遊菜のことを応援する。

 この決勝のレースにも、インターハイに言った実績がある選手はいるものの、そこまで気にする必要はないのかなって。

 というのも、その選手は予選落ちで、その時のタイムを比べても、遊菜とコンマ7から1秒ほどの差があった。そこまで敏感にならなくていいのかなって。


「遊菜っち!行ったれぇ~!」


 選手全員が紹介された後、どこよりも早く、愛那が声を張り上げ、さらに遊菜のテンションを上げていこうとする。

 その姿は本当に盛り上げ役のひとりとしてカウントされるだけのことはあるよね。

 選手全員の準備が終わったのを見てから、審判長の笛が鋭く鳴りだす。

 今までのインターハイや近畿大会とは違って、それほどの緊張感はない。それでも、似たような雰囲気を作ろうと真似をしているようにも聞こえる。

 ただ、やっぱり、本場を経験した私からすると、やっぱり、人数が少ないからって言うのもあって、かなりの迫力不足を感じる。それでも、やっぱり、身体は強張るものなんだんけど……。

 いつもの笛が鳴り、準備万端の選手たち。スタートの構えをすdに撮っている選手やまだ構えていない選手もいる中で「よーい」という声が聞こえたら、全員がクラウチングスタートの構えを取り、合図を待つ。

 ただ、こうやって改めて見ると、遊菜はこんなに細いのに、よくインターハイで優勝できたなって思えてしまう。それほど両サイドが大きく見える。

 極端に聞こえるかもしれないけど、土佐健斗柴犬くらいの差は感じられる。

 こんな遊菜が全国のトップスイマーを押しのけて、スプリンターの頂上に立ってしまうんだから、練習は裏切らないって言葉、まるっきりそうなのかなって思ってしまうよね……。

 そんなことを思っていると、インターハイよりも威厳がないのか、いい加減なのか、スターターが慣れていないのかわからないけど、「よーい」のあと、ある程度空けてからスタートの合図が鳴った。

 もちろん、遊菜にはどんなタイミングだろうが関係ない。

 ほぼ野生の瞬発力を活かして飛び出していく。

 本当に野生児なんじゃないかって思うくらいのリアクションで、唯一ひとりだけコンマ5秒台で飛び出す。

 たったコンマ1でも遊菜の動き出しが早く見えた。

 でも、このコンマ1秒が運命を分けると言っても過言ではないことはわかっているものの、それにしても早い。

 しかも、スタートだけ見ても、一番遅い選手とコンマ2ほどの差がついている。

 ここからどれだけの差が開くのかなって楽しみなところはあるものの、遊菜の実力がどこまで発揮されるのかってところ。

 たぶん、遊菜のことだ。絶対に楽しんで大会記録を更新するに決まっている。

 予選こそ、いつもとは違った感覚だっただろうから、少し周りを見ていたところもあったかもしれないけど、決勝ではそんなことはないだろう。

 先にもう泳いで感覚はわかっているんだろうし。

 そんなことを思いながら、浮き上がってくる遊菜の姿を見ていた。

 その遊菜に関しては、周りのことはまるで無視しているように泳いでいく。

 その姿はまるでイルカのよう。気持ちよさそうになおかつ、私が今まで言ったことを全部覚えているかのように飛んでいる。

 インターハイのときよりは多少、動きは重そうに見えるものの、それでも、ハーフラインを超えたあたりで、すでに身体半分の差を奪っている。

 ここでこれだけの差か。フィニッシュするころにはどれだけの差が開いているんだろうな。なんてちょっとした期待も込めつつ、全力で飛ばしていく遊菜の姿を見ている。


「ほんま、これが遊菜ちゃんやねんな。こんだけ近くでレース見るのは初めてやから、めっちゃ新鮮やわ」

「せやね。遊菜ちゃんがこんなに躍動するとは思ってへんかったわけやないけど、こうやってみると、インターハイの覇者って感じよな」


 そうか。沙雪先輩も愛那も久しぶりに遊菜のレースを見るのか。

 それに、2人とも、前に見たレースも、かなり高いところから見ていたから、これだけ近いところから見るのは初めてに近いのか。……とか言う私も、これだけ近いスタンドから見るのは初めてか。

 レース前の公式ウォーミングアップだとか、サブプールで2人の面倒を見ていたことはあったとはいえ、普段から高いところで見ていたから、私としてもちょっと新鮮だな。

 なんて思いつつ、あっという間に終わるラストハーフを見ていた。

 大会記録は、そこまで早くない。正直、普段の遊菜が泳ぐタイムとほとんど変わらないから、最後まで油断せずに飛ばしきれたら、完璧なんだろうな。なんて思いつつ、みんなの応援を背中で聞きながら、ラストのフィニッシュまで見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ