Episode 145 いい音が場内に響きます
ブレに関しては、完全に成海先輩のフォームを参考にしたうえで、そこから自分が一番スピードに乗りやすいストロークを探していた。
まぁ、そこに関しては、2週間という短期間では間に合わなかったものの、試行錯誤しながら泳いでいたのは間違いない。
私としたは、うまく行ってくれたらそれでいいわけで、あとは、ブレを何とかこなして、ラストの得意なフリーに弾みをつけるだけ。
ピューイ!ピューイ!
間隔よく鳴る指笛は伊丹くんのもの。
めちゃくちゃ反響して、私もビックリしたけど、それでも、愛那を筆頭に、何人かの女子が一緒に声を出している。
そのおかげかわからないけど、福浦先輩は言って家のリズムを刻めていると思う。ここから見ても、今までよりは少し速いピッチだけど、それでもいいペースで泳げているかな。
そして、今の時点でだけど、順位を1つ落として8番手で泳いでいる。
ただ、その後ろとは差がはっきりしていて、下手なことをしない限りは、今の順位より落ちることはないと思う。
そこだけは安心してもいいのかなって思ったり。
ただ、見るからにかなりバテてきている福浦先輩。
成海先輩のフォームを真似していたこともあって、かなり腕に来ているんじゃないかって思う。
まぁ、そうなるのも仕方ないか。なんて思いつつ、ブレを泳ぎ切るまで見ていた。
ラスト50mに入るとき、タイムを確認したけど、それでも、今までより早い入りになっていて、高校最後の大会、いいタイムで終えられそうかな。なんて思いながら、少し重くなっているターンを見送る。
「えらい響いてもうたな。こんな響かせる予定やなかったのに」
「いや、かまへんよ。しっかりと福浦先輩の耳に届いとったやろうし、しっかりとタイムは残せてるから大丈夫やろ」
「そうか。俺もええタイム残せたらええかな」
「大丈夫やろ。しっかりと夏の間泳いだんやし。しかも、なにより、天下の咲ちゃんのメニューやで?早くなってるに決まってるやん」
どういう信仰があるのかわからないけど、私を崇めても何も出ない。
タイムが伸びるのはみんなの頑張りなんだから、もっと胸を張ってもいいんじゃないのかなって思ったり。
「ラスト!ラスト!行けっ!行けっ!ゴーゴー和海!」
愛那と杏里ちゃんがラスト15メートルまで来ている福浦先輩を応援している。
タイムを見ると、大幅に自己ベストを更新できそうな勢い。
こりゃ、ファイナル初っ端から縁起のいいことで……。そんなことを思いながら、ラストまで泳ぐ福浦先輩の姿を見ていた。
愛那たちの応援が変わってから、ものの10秒で福浦先輩は、フィニッシュ。
気付けば、フリーでひとりだけぬかしていたようで、7位フィニッシュを決めていた。
「5秒くらいベスト伸ばしたんちゃう?」
タイムが表示される電光掲示板を見た愛那が早々に私に聞いてくる。
「ちょっとくらい待ってや。まだ転記も終わってへんのに。でも、10の位が変わってるから、それなりのタイムは出てそうやな」
その福浦先輩は、フィニッシュした後に自分のタイムを確認したようで、両手を上に突き上げ、喜びを爆発させていた。
あの様子だと、あそこまでタイムが出るとは思っていなかったって言うところかな。
まぁ、ブレで少し崩れかけたかなって言うのはここから見ていても明白だったし。
それでも、たぶん、指笛がないまま突っ込んでいたらおそらくもう少しタイムが遅くなっていたかもしれない。
そう考えたら、愛那はものすごいファインプレーをしたんじゃないかってバカなことを考えるけど、ここから次々に決勝レースを泳ぐ選手たちが出てくる。
正直、このペースでさばききれるかな。なんてちょっとした不安も入り混じるわけだけど、私としては、やるしかないな。なんて思っている。
まあ、愛那もいるし、最悪沙雪先輩もいる。もし手に負えないときは、2人に手伝ってももうっと。と割り切ることにした。




