Episode 141 Naoya side 余裕はあるやろうな
「それでは、50メートル自由形1組の選手は移動してください」
まだ3組もある女子の半フリが始まってもないけど、俺らは移動を促される。
まぁ、理由は単純よな。
半フリのスタートはターン側やねんから。やから、半フリに出る選手に関しては、衣服などを置く篭がターン側ではなく、ダイビングプールの近くに用意されていて、俺もその中にジャージとタオルを入れ、軽くジャンプを3回、思い切りジャンプを4回してからターン側の待機所に向かう。
女子の半フリの最終組が始まった瞬間、俺らは移動を促され、俺も、自分の泳ぐコースの前に来る。
なんと言うか、泳ぎなれたセンターレーン。まぁ、エントリータイムは23秒頭で提出しているから、こうなるのは当たり前か。今津も毛馬も25秒台やろうから、まぁ、気楽なところではある。
やけど、俺の後ろで成東さんが控えてるから、ええ感じにバトンを渡せるならそれでええかな。なんて思ったり。
まぁ、たぶん、成東さんのベストタイムは30秒台やから、決勝はむずいやろうけどええ感じで繋げたらええやろ。なんて思いつつ、女子のレースが終わり、予選の結果が俺の後ろで表示されているよう。
いろんな声が聞こえる中で、扇商のブロックから「イエーイ!」という声が飛んでくる。
まぁ、そうやろうな。大神がトップで決勝に進んだんやろうから。それ以外はどうもわからんけど。
『プログラムナンバー10番、男子50メートル自由形、予選1組の競技を行います』
その声のすぐあと、審判長の笛が鳴り、いつものように、長い笛が鳴るまでずっとじっとして、いつものルーティンをひとつずつこなしていく。
このルーティンをひとつずつこなさんと、どこかおかしくなるのも事実やしな。なんて思いつつ、長い笛が鳴り、ゆっくりとスタート台に乗り、インターハイ覇者の威厳を見せる。
そして、いつもの相撲のような立ち合いをとってから「よーい」の声を待つ。
「よーい」
その声ですぐに左の太ももに乗せていた左手をスタート台の前の縁にかけ、スタートの姿勢をとる。
それでも、これもいつも通りに練習通りに行く。
スタートの合図が鳴り、俺は思い切り瞬発力の限り飛び出す。
スタートはあまり得意にしていない分、多少遅れてるかもしれへんけど、そこは美咲に叩きこまれた技術でカバーよな。
入水はノースプラッシュのイメージ。そのあとは、一瞬だけストリームラインを撮って、姿勢を落ち着かせる。そこから美咲直伝のドルフィンキックをいつも通り打ち、グングンと加速を促す。
ほんまに、ここまではいつもの流れと変わらへんと思う。むしろ、いつもの流れとちゃうかったら、えらいことになると思う。
とりあえず、いつものように、規定ギリギリの15mまでにドルフィンキックを打ちながら浮き上がってくる。
いつもとちゃうのはここから。
今日に関しては、ある程度浮き上がりにミスが出たとしても、ある程度技術でカバーしてトップをキープできると思う。
ただ、やっぱり、縁起は担ぎたいから、ミスはできるだけしたくない。そんなことを思いながら、浮き上がり一発目に腕を回し、水を掻く。
……よし。水のキャッチからストローク、プッシュまで完璧な重さやし、そこからのリカバリーの軽さも完璧。これなら、23秒台は堅いな。なんて思いつつ、あっという間にハーフラインを超えていく。
いつもより気持ちも楽やし、余裕もあるせいか、ハーフラインで一度右側にブレスを挟む。
もちろんというべきか、しぶきはちらっと見えたけど、俺より前におる選手はおらへん。まぁ、当然っちゃ当然なんやろうけど。
そのあとすぐに左側にもブレスを挟み、こっちもレースの状況を確認する。
たぶん、インターハイのときはできひんかったことやけど、このレースはかなり余裕があるからってことで調子に乗ってるところがあるかもしれん。
まぁ、案の定というべきか、両サイドは俺のスピードについて来れてへんみたいやし、ちょっとこのまま余力残すように流して終わろうか。
そんなことを思いながら、少しだけキックのピッチも落とし、ストロークピッチも少し落とす。
こんなんしたら美咲に怒られるかもしれへんけど、半日で8レースはきつすぎるから許してほしいところではあるけどな。なんて思いながらも、いろいろピッチを落としながらラスト5メートルラリンを超えた。
本来なら、ラスト5メートルではブレスなんてせぇへんけど、今回に関しては、体力温存のためにハーフブレスを入れて、余裕のフィニッシュ。
フィニッシュしてからゆっくりと後ろを振り返り、自分のタイムを確認する。
……うん。4秒3でトップ。それでも1秒以上空いてるのか。参加する高校が少ないと、これだけ差が広がると、ちょっと俺としてもやる気がそがれてまう。
正直、ここで優勝したとこでってなってきたな。
決勝もこれくらいのレースになるかと思ったら、なんていうか、テンション下がってくるな。
大神が余裕のトップ通過しとったとしても、いつも以上に燃え上らへん。
ちょっと気持ち悪いな。
とりあえず、決勝でさくっと大会記録だけ確認して更新して終わろうかな。そんなことが頭の中をめぐってる。




