Episode 138 男子200mメドレーリレー
『プログラムナンバー2番、男子200メートルメドレーリレー、予選1組の競技を行います』
さて。扇商男子のメドレーリレーだ。さすがに、八商大会みたいにいかないだろうけど、体育科のある学校が2校もある上に、意外と水泳部が強い高校がもう一校あるらしく、あわよくば、その下くらいかな。なんて部長と成海先輩が話していた。
もちろん、それは、直哉と遊菜のスピードを持っての話。ただ、ひとり100m泳ぐレースなら、はっきりと差が出てくるだろうけど、ひとりたった50mのレース。あまり差が開かないまま終わるだろう。なんて思いながら、レースが始まるのを待つ。
「ここでええとこに付いときたいな。たぶん、決勝はこの1組とほとんど一緒なんやろうし、タイムだけ気にしたいかな」
私の隣で沙雪先輩がプールに目をやりながら言う。
「たぶん、直哉はあまり気にしないでしょうけど、周りの先輩たちが気にするでしょうね」
「せやんな。正直、八商大会のタイムが目標で、あわよくば、それを超えたいって話しとったもんな」
「夏の間でかなり伸びてると思いますよ。部長のタイムだけわかりませんけど」
「せやな。中山くんはずっとあたしが見てるレーンで泳いでたもんな」
この夏、意外にも沙雪先輩は忙しそうにしていた。ただ、それは、たぶん、直哉たちが部活を引っ張っていたからっていうのもあって、直哉たちが全力で打ち込んでいるのに、周りは遊んでいられず、一緒について行くような感じでみんな本気で部活に打ち込んでいた。
「こんだけみんな頑張ってんから、あとは総合で鶴商の上に来られたら完璧やねんけどなぁ」
競泳って、一見、個人戦に見られるところがあるかもしれないけど、学生の間は、意外と学校対抗の団体戦っていう一面も持ち合わせている。
沙雪先輩は、この団体戦のことを言っている。
そして、得点は決勝の順位が1位が8点、2位が7点の順に、8位が1点貰えるシステムになっていて、リレーはその倍になっている。
確かに、リレーも永遠のライバルでもある(らしい)鶴橋商業より上に来るだけでかなり優位に立つことができるだろう。
それに、個人では、男子では直哉、女子では遊菜が、フライングをしなければ、個人で16点を稼ぐことはほぼ確定だろう。
沙良に言えば、ひとりで16点も稼ぐことができれば、部長たちが所属した3年間の中でも、最高得点を狙えるだろう。みたいな話をしていた。
そして、ここでも相変わらず、鋭い笛の音。しかも、今までの大会に比べ客席にいる人が少なく、余計に響く。
それは、笛の音だけじゃなくて、レースに出る選手の内、ほぼ全身が身体を叩いている音もいつもより派手に響く。
これだけ人が少ないとこんなに響くんだなぁ。なんて思いながらも、始まるレースに向けて私も集中し始める。
そんな扇商のファーストスイマーはいつも通り部長。そして、ブレには成東先輩、バッタには鮎川先輩、フリーに直哉という布陣。
たぶん、このチームの初戦のときとはオーダーが少し違うと思う。
その理由は単純で、ブレが速くなった成東先輩とバッタで更に伸びた鮎川先輩だから。
でもそれは、バッタに専念したい鮎川先輩が成東先輩に持ちかけて決めたことらしい。だから、私から何も言うことはなかったけど、それでも、まさか、本当にタイムを伸ばしてくるなんて思ってなかったもんね。
リレーのエントリータイムを測ったとき、本当に伸びたタイムを見た私がビックリした。
場内は、長く鋭い笛が一度鳴り、バックを泳ぐファーストスイマーが水中に入る。
扇商はいままでのこの大会からは考えられないほどの好位置だという3レーンでのレース。
エントリータイムが鶴商よりも早いことは確か。だけど、正直、鮎川先輩が泳ぎ終わる時点で6着か7着争いをしていたらいいほうだと思っている。
あまり他力本願な言い方はしたくないけど、インターハイ覇者の直哉がなんとかしてくれるんじゃないかって思う。たぶん、3年の先輩たちもそう思っているかもしれない。ただ、それはひとり100mであればの話。
そのうえで、もし、鶴商のアンカーがギータと同じタイムであれば、直哉との差が15秒近くあるから、そこで追いつけるだろうし、もし、リードを奪った状態で引き継げば、もちろん、直哉が抜かれることはない。むしろ、差をグンとつけてくれるだろうとは思うけど、今日はワンウェイのたった50m。
これもギータを引き合いにして申し訳ないのは承知の上だけど、ギータの半フリ28秒。
だいたいこれくらいのタイムで泳ぐのなら、直哉は、インターハイのときに出した23秒台で、差は5秒ほどしかない。
さすがにこの5秒という壁は意外と高いだろう。そう思うのは、八商大会の結果を見ている限り。
ただ、そこからみんなタイムを伸ばしてきている。たった50とはいえ、それなりのタイムを出して喜んできた。
私としては、報われてほしいと思う限り。




