Episode 133 ちょっとした騒ぎ
インターハイが終わって約2週間の月日が経った。
王者、女王の冠を手にした直哉と遊菜は、インターハイが終わった当初こそ、少し騒がれたものの、それも、お盆が過ぎれば、無名の2人がトップ選手の仲間入りしたことを騒ぎ立てるメディアはほとんどいなくなった。
むしろ、話題は、不死鳥のごとく復活し、パンパシフィック大会という海外の大会で出場したほとんどの種目でメダルを獲得した宮武選手のことに向いていた。
正直、2人が悪目立ちしなくて助かったと思った反面、扇商水泳部のマネージャー陣が変に注目されることになってしまった。
というのも、復活した兆しとして、濁してくれたものの、宮武選手が私のこと、直哉や遊菜のことについて言及してしまったから。
いろいろ話が上がったものの、そのマネージャー探しの火が点いて、パンパシフィック大会から1週間ほど過ぎたにも関わらず、鎮火していなくて、扇商水泳部のマネージャー探しがいまだに続いている。
そのことが分かった瞬間、個人がわかってしまうSNSについては、名前を変え、扇商水泳部のマネージャーだということを隠した。
というのも、騒動になる前に、宮武選手から詫びメールが届いていたから。
『ごめんなさい。メディアの取材を受けていた時に、復活の理由として、伊藤さんのこと、名前は伏せたけどしゃべってしまいました。もしかしたら、影響があるかもしれません。さっき、悪いのは承知の上で、エゴサーチをしたら、伊藤さんのものと思うSNSのアカウントを見つけてしまったので、変更したほうがいいかもしれません。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ほかにもマネージャーがいらっしゃるのであれば、共有をお願いいたします』
ご丁寧に、メディアが報じる前の前日にメールが届いていて、私は名前とプロフィールを慌てて変更したし、同じマネージャーの沙雪先輩と愛那にも話を伝え、もしということを伝え、変えてもらった。
そのおかげか、宮武選手が復活したキーマンが私だと気づかれることなく、迷宮入りしている。
ただ、それをいつまで隠しきれるかってところだろうな。って感じ。
正直、テレビ中継はあったらしいとはいえ、たいていの時間はプールを移しているだろうから、客席の最上段にいた私に気づくことはないだろう。
まぁ、私を探し出すなんてコアな水泳ヲタクはいないだろうと思って普通に部活には参加しているけどね。
さすがに、周りにマンションはあるものの、オートロックのマンションだって聞いているし、よほどのことがない限りは、スーパーマネージャーの正体はバレないと思っている。
「スーパーマネージャーは大変やね。いつ正体がバレるかわからへんのに」
こんな感じで沙雪先輩はおっとりした言い方で私をからかってくる。
もちろん、おっとりした言い方のときは本当に楽しんでいるだけで、悪気は何もないこともわかっている。むしろ、最初に説明した時は、本当に心配してくれて、周囲に気を配ってくれるほどだった。
それが4日ほど過ぎたころからこんな感じ。
私のことは口外しないというのが、ちょっとしたお決まりになった。
もちろん、いろいろメディアの取材依頼は来るけど、顧問の長浦先生が全面拒否して、騒動は落ち着いている。
水泳部も対策として、制服で登下校するのはもちろんだけど、お昼ご飯を買いに行くときも、水泳部とはわからないような服装をしていくようにとお達しが出ている。
そのおかげか、私服のTシャツに学校指定のジャージかハーフパンツで外に出ていい代わりに、メディアが取材してくるだろうけど、それは無視しなさい。というお達しが運動部に出ている。
文化部にないのは少し可哀そうかなって思ったけど、この夏休み、活動をしているのは、吹奏楽部と軽音楽部しかいないから、あまり関係ないかと思ってしまった。
ただ、そこまでしてくれるんだと思う反面、バレたときがヤバいかなって思うくらい。
逆に、そこまでしてもらって申しわけないな。なんて思う始末。まぁ、そうだとしても、部長たち3年生は喜んでいたけどね。
「また今日も朝から正門でスタンバってたよ。生徒が普段は通用門から出入りしているって知らないのかわからないけど、こんな朝早くからスタンバイしてるって、なんだか気持ち悪いね」
そんなことを言いながら更衣室から出てきたのは、唯一、標準語でしゃべる鈴坂香奈ちゃん。
東京から入学とほぼ同時のタイミングで大阪に来て、同じ水泳部に所属している。
タイムは……。たぶん、チラッと初めの方のタイムトライアルのときに出てきているから、それからは伸びたと思うけど、察してくれたらありがたいかな。
「こんな朝早くからおるんやね。モノ好きも大変やなぁ」
「笑い事じゃないですよ。まさか正門で張ってるとは思ってなかったので、遠回りしてわざわざ通用門から来たんですから」」
確かに、こうやってほかの生徒への影響も出てきている。かといって、私が出てしまえば、それはそれで大騒動になるかもしれない。
やっぱり、ここは先生にお願いして、警察を呼んでしまうしかないかな。
「やっぱり、ことを大きくしたくないですけど、先生に言って、警察を呼んでもらって対処しましょうよ。さすがに、いつまでも同じ人が正門の前で立っているのも気持ち悪いですし」
「せやねぇ。さすがにほかの部活にも影響でそうやもんね。……ちょっと伊藤ちゃん、部活任せとってもええ?うち、長浦先生と生徒指導に言うてくるわ」
「すいません、うちのせいでこんなことになってしもうて」
「ええってことよ。それに、これも上級生の仕事やしね。あと、ちょっと中山くんだけ借りてくな」
部長か。たぶん、自以上説明して、責任者という立場を使うのだろう。なんて思ったよね。
ただ、この不審者騒動は思った以上に話は早く解決したらしく、ほかの部活の生徒がすでにほかの先生に申告していたようで、そこに、沙雪先輩と部長が長浦先生に話をしているのも聞いた教頭先生が警察に通報し、それと同時に、学校の通用門と北門から挟み撃ちするように男性の先生が複数人出勤、教頭が正門から出て、取り押さえたみたいで、話を聞くと、フリーのジャーナリストと名乗り、私のことを調べていたみたいだ。
まぁ、もちろん、なにもわからなかったみたいだけど、何もしてなかったということで、厳重注意ということで解放されたらしい。
それも、近くの交番に行っていろいろ確認した後らしいけど。
まぁ、扇商の制服がかわいいということでも有名だから、盗撮の可能性もあるっぽいから交番に行ったって話だけど。
あとは、これが変な形で噂として拡がらなかったらいいな。と思うくらい。
ただ、私たちも高校生だ。この噂が尾びれ背びれついて変な形に拡がっていくだろうな。




