Episode 129 Naoya side Vitory ceremony
「ナイスパフォーマンス」
そう言いながらグータッチを求めてくる大神。
さっきの予選とは打って変わって、3人で作った部活用のTシャツを身にまとっている。
まぁ、それもそうか。このあと表彰式あるもんな。そんなことを考えつつ、大神のグータッチに応える形で軽く拳をぶつける。
「そういうお前もちゃんと大会記録は更新してるんやからな」
「案の定、自分のタイムなんかわかってへんけどな」
「やのにもかかわらず、メガネもコンタクトも持ってきてへんってどういう神経してんねん。よう、度なしのゴーグルで突っ込めんな」
「これも、慣れってもんよ。まぁ、まだこのゴーグルにしてから4レースしか泳いでへんわけやけど、たまの練習中に同じ色のゴーグルを作って、そっちは度なしでみたいなことしてたから、そのお陰もあるんやろうな」
そんなこともしてたんか、こいつ。ただ、あえて美咲には何も言わんとくか。
たぶん、美咲が知ったら、色々言うやろうし。
とりあえず、大神と話しながら着替えて、いつでも表彰式に向かう準備は出来た。
髪の毛はもうちょっと拭いて、ワイルドな感じにしたかったけど、それはまぁしゃあない。
とりあえず、かきあげるだけかきあげて、目の前がちゃんと見えるようにしておく。
まぁ、たぶん、まだ時間はあるんやろうけど、こっちをチラチラ見てくる役員がおるから、たぶん、そういう事なんやろうな。なんて思いつつ、髪の毛はある程度セームで拭いて、そのセームは、ケツとジャージの間に挟み、ジャージが濡れへんようにする。
まぁ、こうやっとっても、濡れるもんは濡れるんやけどな。
『ただいまより、表彰を行います』
ほんまに、俺の準備が終わるんを待ってたんか、タイミングはめちゃよくアナウンスが流れた。
とは言うても、先に女子の表彰からやねんけどな。
『女子、100メートル自由形、第3位、山足遥さん、湘南昴。第2位、西園寺麗奈さん、巣鴨学園。優勝は、大神遊菜さん、扇原商業。今大会新記録を樹立しての優勝です』
こう聞くと、やっぱり、あいつもすげぇと思うよな。
表彰台に乗っても、2着の選手と身長が変わらへんもんな。
あんまりこういうの好きやないんやけど、あいつもちっこいのに、よう、ここまで来たよな。
もっと身長が高かったらこんなに苦労せんかったんかなって思ったりな。
『以上で女子100メートル自由形の表彰を終わります』
そうアナウンスされると、大神たちは表彰台から降りて、俺たちの方に戻ってくる。
それとほぼ同時に、入れ替わるようにして、俺たちも、表彰台の方へと向かう。
『続いて、男子100メートル自由形の表彰を行います。……』
正直、周りの目はどうでもよかった。早くダウンに行きてぇとしか思っていない節がある。
こんなことを言うのはちゃうし、祝福はちゃんと受けるべきなんやろうけど。と思いつつも、どこか、他人事のように感じてる自分がおるのも事実。
『優勝は、原田直哉くん、扇原商業。高校記録を樹立しての優勝です』
偉い人なんはわかってるけど、話を聞いてなかった俺は、その人が誰か分かっておらず、とりあえず、おっさんから、賞状と副賞を貰い、あまり好きでもないカメラに無愛想な表情で収まる。
時より、カメラマンの人から「もっと笑って」なんて言われるけど、あんまりカメラに対して笑いかけたくないっていうのがあって、最後までたぶん、仏頂面してたんやと思う。
『以上で表彰を終わります。活躍しました選手の皆さんに今一度大きな拍手でお送りください』
とりあえず、この拍手だけには応えとくか。そう思い、両サイドにある観客席に片手をそれぞれあげる。
こんなことする身分じゃないってのはわかってるんやけどな。
けど、やっとかな、あとで美咲になんて言われるか分からんしな。観客席に戻った時、声掛けたのに〜。とか言うてな。
まぁ、俺からしたら、知らんがなって終わるは話やねんけど。
後ろに引っ込んだ俺らは、自由に解散するかのように、それぞれが自分のやろうとしていることを始める。
「とりあえず、サブプール行ってダウンやな。それか、先に美咲と合流しとくか?」
「せやね。咲ちゃんと一応、賞状預けたいから、先生とも合流しときたいかな」
「あぁ、せやな。ほんなら、先に着替えてから客席行くか。道わかるか?」
「なめんといて。うちかて、ちゃんとわかってます〜」
まぁ、そらそうか。3日連続できてるわけやもんな。さすがに道は覚えたか。美咲も同じところしか座らんし。それがかえってありがたいところではあるんやけどな。
そんなことを思いながら、更衣室に入り、締めつけのキツイレーシングウェアから練習用の水着に着替え、さらにその上から、予備のシャツとジャージを着て、スマホを確認する。
『長浦先生から、賞状預かるファイル預かってるから、このまままサブプール行ってダウンしよか』
美咲からのメッセージが入っていた。
どうやら、こっちから行かんでも、向こうから俺らの意向を組んでくれて、こっちに来てくれるみたいやな。
そんなことを思いつつ、それならと、今着た服を脱いで、先にサブプールに行くことにする。




