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Episode 127 Naoya side 今度は俺の番やな

 なんていうか、これが定石になってきたんかなって思う。

 あいつのレース見てたら、こっちも怖いもんなしに思えてくるよな。どういう効果があって、こんな気持ちになるんかわからんけど。

 やけど、こんなん目の前で見せられたら、昨日と一緒で、こっちも全力見せてテッペンとらなあかんよな。

 なんて思いつつ、こっちとしても、十分に温まってきてる。この思いを冷やさんうちに、早よレースがしたい。


 ただ、そうさせへんのは、タイミングの悪い表彰式よな。

 まぁ、女子と男子の間にやるのは、男子のレースが終わってから、体を拭いたり身支度する時間に使えるからって言うのは、今までの決勝競技で表彰された身としてもわからんでもないけど、ここから集中しなおすのも、ちょっと面倒なんよな。

 そんなことを思ってると、表彰式のときにいつも流れる曲が流れてくる。

 それが終われば、決勝の時の曲が流れるんやろうけど、そこまで行ったら遅いわけで、もう今のうちに集中力を高めておきたいよな。

 そんなことを思いながら、場内から目を逸らし、招集場所でもある控え室をくるっと見渡す。

 さすがに、男女ともに殺気立ってるよな。

 まぁ、そりゃそうか。こんな中で楽しくおしゃべりしてる奴はおらんやろうな。ましてや、予選の遅い組やないんやから。

 ひとりになった大神が怯えていた理由もわかるわな。ひとりでこんだけ後ろから圧力を抱えてたんやから。

 ちょっとだけ同情しつつも、気持ちを切り替えるために、服の上から、足とか腕が攣らんように叩いて強ばっている筋肉を解していく。

 あいつはかなりの音を響かせとったけど、そこまではさすがにせんよな。とも思いつつ、パーで叩くと言うよりは、グーで殴るような感じ。

 ただ、そんなに本気で殴ると言うよりは、擦るくらいの感じ。


「それでは、男子100メートル自由形決勝に出場する選手は準備してください」


 さて。いよいよやな。そんなことを思いながら、役員の話を軽く聞き流しながら、メッシュキャップをかぶり、ゴーグルをしてから、シリコンキャップをかぶる。

 そして、どうやら、場内では表彰が終わったみたいで、決勝用の音楽が流れている。

 ここから一人ひとり呼ばれていくんか。

 あんまり好きとちゃうんやけどな。なんて思いつつ、自分の荷物を持って、自分の名前が呼ばれるのを待つ。

 漏れて聞こえてくる歓声は、各校の応援。これもええんやろうな。とは思いつつも、こんなん、こんな大会やと望まれへんしな。

 声がないだけで、寂しいやつとは思われたくないけど、そこは実力で黙らせたらええやろ。


「第4コース、原田直哉。扇原商業」


 よし。行こうや。

 パッと視線を上げると、色んなところの部旗が掲げられていて、内心、こんなに学校が出てるんや。としか思えへんかった。

 たぶん、ここにはないところもようさんあるんやろうから、どんだけ来てんのか調べてみたいくらい。やけど、そんなんはどうでもええやろ。とりあえず、目の前のレースに集中や。

 歩きながら、大きくひとつ伸びて、気持ちをリセットさせる。

 そして、挑発するわけとちゃうけど、スタート側の辺に来て、準備が終わってる選手の目の前を横切り、自分が泳ぐコースに向かう。

 自分のコースの目の前に来たなら、スタート台の羽の位置をチェック。

 その後に、自分の着てる服を脱いで、レーシングウェア姿になる。

 そこからは、軽くジャンプしてから、どっしりと構えるようにして椅子に座る。

 もうここからは、周りの音をシャットアウトしていきながら、いつものルーティンに入る。

 ゆっくりと目を閉じたあと、大きく深呼吸を繰り返し、聴覚から雑音を消し、審判長の笛にだけ集中する。


 短い笛が4回。しかも予選の時より、かなり鋭く。

 まるで、場内のざわつきを上から抑え込むかのような感じ。この感覚、嫌いになられへんよな。これからレースを始めるでって言わん限りの音やねんから。

 そんなことを思いつつ、長い笛が鳴る中で、まだイスに深く腰かけている。

 いつも長い笛が鳴ったあとに動き出す。これもいつものルーティンよな。

 このルーティンもいつからやってんねんやろ。たぶん、中学の時に初めて行った決勝で堂々としたかったからっていうのがあるんやろうけど、詳しいのは俺も忘れた。

 やけど、さすがに、長い笛が鳴ってから動き出すと遅いのはわかってるから、最近では4回の笛がなった後に、ゆっくりと動き出すようにはなってる。

 今回もそれでいって、長い笛が鳴る直前くらいに動きだし、長い笛が鳴ったのと同時に、スタート台に上がる。

 そして、流れるように、そのままスタート台の前の縁に右手をかけ、左手は左太ももの上に。

 ここまでがいつもの流れよな。こうせな、なんか気がすまんっていうか、これが流れになってるから、俺としても、気持ち悪いんよな。なんて思いつつ、スタートの合図が鳴るのを待つ。


 ピッ!


 いつもの音が聞こえて、できる限りのスピードで反応し、スタート台を蹴るのと同時に指先でスタート台の淵を押す。

 瞬発力が重要なスプリントレース。

 昨日のハーフレースに比べたら、まだ重要な割合は小さいけど、それでも重要なのは変わらんから、集中して飛び込む。

 入水の時は、弧を描くと言うよりは、直線に近い感じで飛んでいく。

 ロスはできるだけ少なく、なおかつ、できるだけ遠くにというイメージ。

 そのせいか、美咲には、「見てて腹打ちとかしてそうやのにな」とか言われることも多々。

 まぁ、俺的には腰の負担が少ないからこのままでええやろとは思ってる。

 だいたい2メートル付近で指先から入水すると、水中に身体全体が沈んだと思ったところからほんの一瞬だけ我慢して、ストリームラインを取る。

 ここも、美咲から口酸っぱく言われたことや。

 やけど、あいつのあいつのお陰でここにおるようなもん。今では感謝してるけどな。


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