Episode 126 Yuna side インタビュー
「大神選手、おめでとうございます。優勝者インタビューがあるので、正面から上がってもらって、インタビュースペースへお願いします」
そう言われて、しばらく考え込んでもうたよね。昨日も同じことしてんのに。
やけど、理解すんのに時間がかかって、声を絞り出すのに5秒くらいかかったと思う。それも、短く「はい」とだけ言ったような気がする。
さすがにうちかて、いつまでもこんなところで浸かってられへんのはわかってるから、最後の力を拭き絞るわけとちゃうけど、弾みをつけて、一段高くなっているプールサイドに、何とかして腰を掛ける。
身長が小さいことか、力のない子やったら、この高ささえ、昇るのに苦労する。そのときは、競技役員の人に手伝ってもらい、引き揚げてもらう。
その様子のことをうちは、マグロの水揚げなんて言うたりしてる。
悪い言い方に聞こえるんは、堪忍してほしいんやけど、重いマグロを水揚げしてるように見えるから、うちはそう言うてるだけ。
もしかしたら、ほかの人は別の言い方をしてるかもしれへんけど、これは、あくまでもうちの言い方やでってことを強調しとくな。
なんとか上がれたうちは、携帯型の酸素ボンベが欲しくて、役員さんの制止を振り切って自分の荷物を漁り、携帯型の酸素ボンベを取りだし、それを口に当てたまま、インタビュースペースに向かう。
さすがに、昨日と同じ人がインタビューをしてくれるみたいやねんけど、まぁ、昨日の今日やけど、困惑してるよな。
やけど、それさえも無視するようにして、大きく深呼吸をする。
そんなことをしていると、横から「始めても大丈夫ですか?」と声が聞こえた。
もちろん、うちは準備できてるわけやから、酸素ボンベは口に当てたままやけど、ゆっくりとうなずき、準備できてる意思表示をする。
「放送席放送性、昨日に引き続き、予選2組からの大躍進、女子100メートル自由形を制しました、大神遊菜選手です!おめでとうございます!」
「ありがとう、ございます」
自分で改めて喋ってわかる。
これ、しばらく肩で息するやつや。っていうことに。
やからこそ、質問の合間に酸素ボンベを口に当てて大きく深呼吸をする。
「昨日と同じ予選2組からの下克上。しかも、大会記録を更新しての優勝です。今の気持ちはいかがでしょう?」
「そうですね。普段やってきた、ことを、存分に出せた、結果やと、思ってます」
「さらには、昨日に引き続いて大会記録も更新。こちらは狙っていましたか?」
……大会記録も更新したん!?全くそんなつもりなかったのに。ヤバすぎん?
えっ、どうしよ。変なこと答えられへんし……。どないしたらええんやろ……。
「えっと、マジですか?うち、タイムみてへんから、わからんのですけど、マジなんやとしたら、自分でも、ドン引きですけど……」
そう答えた後、恥ずかしくなって、口元の酸素ボンベで隠す。
ただ、そんなことをしても、80メートルほど先の大型画面にうちの映し出されてるから、あんまり意味ないかもしれんけど……。
「記録は狙ってなかったということでいいのでしょうか?」
「あ~、そういうことにしといてください」
誤魔化すように言うと、場内は少し笑いに包まれたような気がした。まぁ、それはそれでええんやけどね。
「それでは、最後に一言お願いします」
なんか、ものすごく曖昧な質問というより、言い方やねんけど、どうしよ。
まぁええか。適当にやり過ごして終わるか。そんなことを思いながら、息を吸い込み、質問に答える。
「あ~、何言うたらええんやろ。うちはうちらしく楽しむってモットーを持って挑めたレースになったんちゃうかなって思ってます。それを教えてくれたマネージャー、戦友、学校の仲間に感謝したいと思います。うちはやったんやで!次はあんたやからな!ええとこ見せてや!」
「女子100メートル自由形を制しました大神遊菜選手でした!」
なんやろ。直ちゃんへの宣戦布告になってしもうた気もする。まぁそれはそれでええか。
これで直ちゃんも優勝したら、とんでもないアベックペアが誕生するんやし。まぁ、今の時点で、とんでもないアベックペアができてるんやけどね。
とりあえず、こっから直ちゃんのレースを見るとして、先に荷物だけ引き上げるか。
「ただいまより、表彰を行います」
……あっ、そっか。女子の種目が終わったタイミングで表彰があるんか。
ほんなら、寒くなるやろうし、服だけ着るか。うちも表彰式に参加するんやから。




