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Episode 124 Yuna side うちは行けるんやで

「大神、気負うなよ。行けんねんから」


 後ろから直ちゃんの声が聞こえて、ハッと後ろを振り返ると、まだラフな格好をしていた直ちゃんがうちの目をじっと見ながら言うてきた。

 そういえば、直ちゃん、うちの後ろにおったんやった。うちのレースが終わった後、すぐに同じ4コースで泳ぐんやんか。

 うちの真後ろにおることさえ忘れるくらいいろんなところから圧力を感じてたみたいで、まったく周りが見えてへんかった。

 でも、直ちゃんがすぐ近くにおるってわかったから、だいぶ落ち着けるかな。

 そんなことを思いながら、直ちゃんに「せやね。楽しんでくるわ」とだけ言うたら、うちは、招集の役員さんに呼ばれ、意気揚々とプールに入場する顔を作る。


「第4コース、大神遊菜、扇原商業」


 場内通告があった後、1発だけ吠えたくなったけど、周りに人がおることも考えて自重した。

 その代わり、レース前には、思いっきり吠えたる。

 たぶん、そうせな、うちはおかしくなるんとちゃうかって思う。


 場内に出るとき、目の前にテレビのカメラマンがいたことに少し驚きつつも、そういえば、昨日もそうやったな。なんて思いながら、それでも、そのカメラには不愛想な姿を見せた気がする。うちからしたら、「集中の邪魔すんな」そんな顔を見せていたと思う。

 まぁ、たぶん、昨日もそうやったやろうから、今更気にすることとちゃうと思うし。

 そんなことを思いながら、うちが泳ぐコースへと、ゆっくり歩いていく。

 暗示をかけるわけとちゃうけど、「うちが一番やねんから、楽しんでいくで」そう言わん限りに、堂々と歩いていく。


『以上の8名で決勝競技を行います』


 場内通告は、力強い声で場内を沸かせるけど、うちからしたら、なんも気にせぇへん。逆にそれほど集中してるって思ってくれてもええかもしれん。いまのうちはそれくらい集中してる。と思う。

 ゆっくりと歩いてきて、堂々と4コースの前に来て、優雅にジャージのズボンとTシャツを脱ぎ、レーシングウェア姿になる。


「シャア!」


 たぶん、吠えるタイミングは間違えた。やけど、急に緊張してきて、どうにもならへんっと思って、強がるように吠えてもうた。

 ただ、これをするだけでもものすごい心が落ち着く。

 たぶん、普段からのルーティンで入ってるからなんやろうけど、それでも、やるのとやらんのとではまったく感覚がちゃう。

 そこからは笛が鳴るまで、ふぅーっと息を吐きながら太ももやふくらはぎを叩き、攣らないように祈る。

 そして、いきなり動く事になるから、心臓の辺りを叩いて、心拍数を上げる。

 ここまでは本当にいつものルーティンやから、自然にできてることやと思ってるし、叩きすぎても別にかまへんかなって思ってるところはある。

 そして、ゆっくりと笛が鳴る。まるで場内の歓声を黙らせるように。

 短い笛が4回鳴ったあと、さらに空気を切り裂く叫びのように、鋭く鳴り響く。それと同時に「シャア!」ともう一回叫び、ゆっくりとスタート台に乗ったら、スタート台の前にの縁に手をかけ、スタートの体勢をとる。

 うちの脳内はクリア。変なことは一切考えてへんし、聴覚もスタートの合図だけに集中してる。まわりの雑音はなんも聞こえてへん。行けるからな。


「よーい」


 この一言で、いつものように体をほんの少しだけ後ろに倒す。

 身長の小さいうちがスタートへの弾みをつけるだけ。

 これも癖づいてもうたけど、咲ちゃんからの指導はなんもなし。たぶん、うちの反応速度が速いからっていうのと、身体を引かん状態からの方が飛んだ距離が短いからなんやろうけど。


ピッ!


 しっかりとうちの耳にスタートの合図が届けば、我先にと言わんばかりに思い切り飛び出す。

 たぶん、飛び出しは一番やと思う。それほどの自信がある。

 飛び出したからたった1秒くらいの間やったと思う。

 その1秒の間に姿勢を整え、しぶきを出さへんイメージで入水していく。

 ゴーグルも外れてへん。視界が悪いのは、度なしゴーグルのせい。うちに不足なし。入水してからほんの一瞬だけ待って、ストリームラインを取り直してから、思い切りドルフィンキックで加速を促す。

 咲ちゃん直伝のドルフィンキックは疲れこそ溜まるけど、その分、力強く打てて、グングンと進んでる感覚もしてて、ものすごくおもろい。

 この感覚は忘れられへんよな。なんて思いながら、抵抗をできるだけ少なくするようにして、15メートルラインまでには浮き上がってくる。


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