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Episode 121 Carin side 今は戻すことに集中

 なんとか私に気づかずに出て行ったようね。なんて視線はあのふたりに向いているけど、そんなことを気にしている余裕は私にはない。

 私の頭の中にあるのは、どれくらいで元のフォームに戻せるか。

 正直、早く元のフォームに戻さないと、明日のレースでも次のパンパシでもとんでもないタイムが出てしまう気がしている。

 はやく、元のフォームを思い出して、元のフォームを固めたい。


「花梨先輩、焦ってもなんにもありませんよ。昨日のふたりが気になるのもわかりますが、自分のことに集中しましょう。時間は限られてますよ」


 今ではマネージャーというより、コーチ的な仕事を始めた優子ちゃん。その姿を見ていると、少し頼りに感じる。


「ごめんね。今の感じでいいかな?」


 多少は自分で考えてください!なんて言われるかもしれないけど、いろいろ考えてみてくれているから、私としても、むげにはできないし、考えを聞いてみたいという思いもあって、いろいろ聞いている。


「さっきのダッシュと、去年のレースの映像です」


 そう言って2台のスマホを私に向けてきた。どうやら、古いスマホに私が今泳いだ姿を収めたようだ。


「まだストロークが伸び切ってないのかな。っていうか、今の私って、こんなにストレートアームだったのね」

「みたいですね。これでもだいぶ戻ってきた方ではあると思いますけど、まだ荒々しさが残っているようにようにも見えますね。今の花梨先輩って、レースで泳ぐとき、なんていうか、オーラに加えて、威嚇するような泳ぎをしていたんですよね」


 威嚇するようなって……。私、そんなつもりは一切ないのに、そんな風に見られていたんだ。

 それに気づいた時、少しばかりショックを受けたよね。

 これじゃあ、水の申し子というよりは、別名がついてもおかしくないんじゃないかって思ってしまった。

 それが、人から印象を聞いた私の感想よね。


「海に生き物に例えると、昨日、花梨先輩より速い選手だった人は、イルカのように見えましたけど、花梨先輩はサメですよね」


 サ、サメ!?そんな風に見られていたの?

 なんだか、それを聞いた瞬間、よりショックが大きくなっている。


「わ、私ってそういう風に見られていたの?」

「あっ、誰にも言わないで。って言われてたのに言っちゃった……。えっと、私の感想です。誰も思ってないとは思っていますけど」


 たぶん、優子ちゃんの話は嘘だろう。もしかしたら、真理奈がそう言ったのかもしれない。まぁ、私としては、どう思われてもいい。記録が残ればそれで。


「まぁ、それはいいけどさ。えっと、もう少し腕の力を抜いて、落ち着いてローリングを意識して、泳いでみるか」

「そうですね。テンポは動画を見る限り、もう少し落としてもいいかもしれないですね」


 テンポ……か。


「ごめん、もう一回動画を見せてもらっていい?」


 そう言って、もう一度レースと今泳いだ動画を同時再生で見せてもらう。

 ……そういうことか。動画を見てわかった。今泳いでいるほうが若干テンポが速い。これで完全にバランスが崩壊していたわけか。

 それなら、確かに練習のときはハードメニューだとしても、わずかに力を抜いていた。それでバランスがそろっていたように感じていたのか。

 それで、レースになると、普段とは違うアドレナリンが出て、ストレートアームがキックのタイミングを狂わせ、中途半端な泳ぎだと感じていたのか。

 それがわかれば、なんとかなる。ただ、ここでフリーの調子が悪かったのかがよくわかった。

 あとはバッタか。バッタもフリーの調子が悪くなった時から、ほぼ同じタイミングで調子が悪くなった。これも、どこが悪いのかわからないから、一からやっていかないのはわかっているけど、フリーの調子が戻れば、どうにかなるかなって思っている。


「優子ちゃん、ありがとね。何とかなりそうな気がしてきたよ。まさか、新しいフォームになってから、テンポが悪くなったとは思っていなかったから、助かったよ」

「優子も花梨先輩の動画を並べて初めて気づいたんで、なんとも言えなんですけど、お役に立ててよかったです」


 まさか、スマホを2台も持っているとは思っていなかったから、ビックリしているところはあるんだけど、でも、それが役に立ったから、本当に助かった。


「もう少し手伝ってもらっていい?バッタも調子が悪いから、見てもらえたらどうにかなるかなって」

「もちろんです。今の優子は真理奈先輩に変わって、花梨先輩の専属ですから」


 真理奈が私の専属って……。まぁ、確かに私と真理奈が一緒にいることが多いけどさ。なんて思いつつ、去年の動画も見せてもらえないか聞いてみたら、パッと出てくるからびっくり。

 それを見て、なんだか、この子は私のファンなんじゃないかって思ってしまったよね。

 でも、それはそれでありかもね。なんて思いながら、なんとなくだけど、そのうち、ストーカー化しないかどうかが心配なところだけどね。

 そんなことを思いつつ、去年のレースの動画を見せてもらった後に、いろいろと試行錯誤をしながら、私が泳ぐ姿を動画に収めてもらう。


「やっぱり、こっちもストロークピッチが速いですね。泡まで一緒に掻いてしまってますね」


 それは私も薄々感じていた。ただ、パワーがない日本人で海外勢に対抗するとなると、パワーよりストローク数を増やして、スピードに乗るほうが得策だと思い、かなりストロークピッチを上げた。

 おかげで失ったものは、フォームとスピードだった。

 それを今更戻すことなんて、かなり至難の業かもしれないけど、今は頼もしいコーチがいるわけで、どうにかなると思う。


直哉「えらい花梨さん、ゆったり泳いでるやん。俺らの言葉が効いたんか?」

遊菜「さぁな。でも、明日のレースに備えるのは当たり前ちゃうん?うちらもそうやったやん」

直哉「せやな。でも、鬼みたいな気迫が消えてるから、楽しもうとは努力してるみたいやな」

遊菜「それで結果が出たら最強なんやろうけどね」

美咲(たった数時間で何があったんやろう。数時間前、ものすごいやめそうな雰囲気しとったのに……)

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