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Episode 118 Naoya side 本気の一本

『同じく2組の競技を行います』


 相も変わらず冷たい場内通告の声。でも、これが逆に緊張を上げてくるけど、冷静になれる。

 ここで、最後のレースプランの確認。

 とは言うても、俺は最初から飛ばすことしか能がないから、後半をいかに粘れるかってところやろうな。まぁ、レースとしては、頭から飛ばす。それだけや。

 そう思ったのと同時に、審判長の笛の音が聞こえ、そこでゆっくりと目を開け、ずっと奥を見る。

 50メートルほど向こうには、折り返しの壁。その上には、電光掲示板がある。そこは、レースの終わりに確認することとして、視線をグッと手前に戻してくる。

 そこには、これから俺が飛ぶことになるコース台がある。

 目標とか、目指すものに関しては、とりあえず無視。今は、自分の完璧なパフォーマンスができたらそれでええと思ってる。

 そう思ったと同時に、審判長の長い笛が鳴り、俺はスタスタとコース台に向かい、サッとスタートの準備を取る。

 ここからは、スタートの合図が聞こえるのを待つだけ。

 まだ場内はざわついているように感じるけど、それも徐々にシャットアウトして、スタートの合図に集中する。


「よーい」


 そんな声は聞こえたと思う。せやないと、どのタイミングで行けばええかわからへんから。

 そこからはほんの一瞬やった。

 わずかな間だけ開けてスタートの合図が出され、それにできるだけ早く反応して飛び出していく。

 さすがに、反応速度は、動物みたいな大神には負けるけど、俺もかなり速いほうやと思う。

 この辺に関しては、美咲にかなり鍛えられたからな。

 そんなことを思いつつ、飛び出した俺は、イメージをノースプラッシュで入水。その後、ほんの少しだけ待ってから美咲直伝のドルフィンキックで加速を促し、15メートルまでにゆっくりと浮き上がってくる。

 そんな感じ。

 浮き上がったなと感じた瞬間に思い切り右手で水を掻く。

 この感覚がずっしり重く、リカバリーの時に持ってくる腕が重くなければ完璧な証拠。

 もちろん、これには俺もかなりこだわってきたから、俺としてもミスは許されへんよな。なんて思いつつ、しっかりと浮き上がりが決まりほっとしたと同時に、豪快に飛ばしていく。

 前半型の俺は、ここでリードもかなり持っとかんと、後半に追いつくことできひんし。

 そんなことを考えながら、必死に足を動かし、肩と肩甲骨を使い、大きく腕を回していく。

 ワンウェイ(50m)はものすごくあっという間に感じ、壁まであと2mのラインを超える。

 なんというか、ものすごいあっという間すぎて、俺が間違えたかな。なんて思いながらも、壁との距離を測りつつ、素早く力強くターンしていく。

 実際にやってることはちゃうんやろうけど、俺の感覚は、自分の身体が回り切る前に壁を蹴り始めているような感覚。だいたい角度は150度くらい?知らんけど。

 それで壁を蹴った後に、少し深く潜るような感覚。

 そこからゆっくりと上がって来て、15mラインに到達するまでずっとドルフィンキックを打ちながら浮き上がって来て、また限界になるまで腕を回す。そんなイメージ。

 力強くターンをしたら、またドルフィンキックを打ちこみながら、ラスト50mを突っ込んでいく。

 感覚は全く悪くない。むしろ、昨日と同じように完ぺきに近いかもしれん。

 こういう時の完璧な感覚が一番ヤバいって言うのはわかってるけど、レースが進むにつれ、ほんまにいけるんちゃう?って思えてくる。

 やけど、なんやろ。身体は正直なんか、全くそんなそぶりは見せんと、グイグイと進んでくれる。

 スタミナがかなり増えたからやろうか。そんなことは後になって考えたことやけど、そんな気はした。


 途中の記憶はほとんどない。唯一覚えていることと言えば、あまりしたくないブレスをしたとき、昨日と同じ景色が見えたこと。

 ほんの一瞬にしかブレスには時間を使いたくないけど、その時にちらっと見えたのは、隣で飛沫がなんも見えへんってこと。

 昨日はわずかに見えたんやけど、そんな素振りがないってことは、ベッタやないってこと。

 それさえわかれば、あとは俺のもんやろ。知らんけど。

 ラストの5mラインが見えたら、ここから呼吸が苦しくなろうががむしゃらに突っ込み、手のひらをタッチ板に叩きつけ、フィニッシュ。

 感覚的には、自己ベストに近い、53秒台前半が出てると思う。

 そんなことを思いながら、パッと振り返り、自分の名前とタイムを探す。

 後ろとの差がちょっとあったんか、俺が振り返ると同時にベッタの選手がフィニッシュしたようで、パッとタイムが表示された。

 ただ、それは、真逆の1レーンを泳いでいた選手で俺には関係ない。

 俺は下から2段目の9レーンで泳いでたからな。

 俺の名前は……あった。


『9 ハラダ ナオヤ 1 51.30』


 ……はっ?こんなタイムありえんのか?計測ミスとちゃうんか?

 今までの俺のベスト、53秒前半やで?2秒近くも早なってるわけやん?そんなんありえてええんかなって思ってまうよな……。

 そんなことを思いながら、ちょっと茫然としながらも軽い力でプールから上がる。

 こんなタイムが出たんやったら、前半がどれだけのタイムで入れたんか見たいよな。

 まぁ、それを見たところで俺のレースプランは変わらへんねんけど。……まぁ、この先のレース結果次第やろうけど。


「さすがやね。直ちゃん」


 プールサイドに上がり、ほっと一安心しながら、歩いてサブプールに向かおうとしている途中に大神が話しかけてきた。


「お前もな。身体ひとつ開けて折り返していったのにな」

「そうなん?うち、周りとか気にせぇへんからなんも思えへんかったけど」


 まぁ、こいつのことや。そうやろうなと思ってたけどな。

 ただ、俺も大神のタイムに関してはわからへんから、美咲が客席から降りてきて、俺らにタイムを教えてくれたらええんやけどな。

 なんて思いつつ、少しだけ2人で話ながらサブプールに向かう。

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