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Episode 117 Naoya side 集中モード

 レースは順調に進んでいるようで、気付けば、待機列は進み女子の前におったはずの男子がおらんくなっていた。

 もう少しか。そう思うのは俺だけやないはず。

 俺の前におるはずの大神も緊張で震えていることだろうとは思う。

 あいつの過去を聞いている限り、これより早いタイミングで結構ガチガチになってるんちゃうかなって思う。

 ただ、ここからは自分の力を信じるしかないやろうな。俺と話している間に列が進むやろうしな。


「それでは、女子100メートル自由形の2組に出場する選手は移動してください」


 どこか事務的なんやけど、少しだけでも背中を押すような言い方。

 この声がどれだけ心を落ち着かせてくれるか。

 昨日の俺もギリギリやったしな。あの声がなかったら、あんなタイム出てへんかったやろうな。なんて思いつつ、ひとつずつ前に移動する。


 そこからはほんまにあっという間で、大神のレースが始まろうとしている。

 女子は大神のレースを含めてあと5レースある。俺的には十分な時間や。

 後ろの奴らから放たれる中途半端なプレッシャーが面倒に感じ、一度プールの方に目をやり、女子のレースを見る。

 大神は手前側の9コースで泳ぐことになってる。

 さすがにここからやと、あいつの表情や行動は見えへんけど、たぶん、集中しきってるんやろうな。とか考えつつ、わずかなざわめきを聞く。

 場内は笛が鳴り終わってるにも関わらず、相変わらず応援の声が飛んでいるよう。

 さすがにこれをされると、気が滅入るよな。まぁ、俺は周りの世界をシャットアウトして、スタートの音だけに集中しているから、まったくもって関係ないんやけどな。

 そして、ほんの少しして、スタートの音が俺の耳にも聞こえ、それと同時に、場内が我慢していたものを放り出すかのように騒がしさが俺の耳にも届く。


 さらにしばらくすると、右から左に泳いでいく選手たちの姿が見えた。

 俺の目の前を通り過ぎていこうとする選手たち。

 手前から2人目が大神。

 平面に近いところからやと意外と見にくいんやけど、たぶん、大神が身体ひとつくらいのリードを取ってるんやと思う。

 ここからやと、飛沫ばっかりでほとんど見えへんけどたぶんそれくらいやと思う……。

 ちょっとどれくらいの差なんかわからんけど。

 そんなことを思っていると、あっという間にターンしていき、ちらっと見える限りで、28秒以内で全員が折り返していく。

 その中でも大神は群を抜いているようで、唯一26秒前半で折り返していった。

 やっぱり昨日のレースがあったからか、かなり調子がよさそうに見える。そのうえで豪快に飛ばす大神やから、成長した大神が鬼で、調子がいいところは金棒ってところやろうか。

 後半にも強い大神は、折り返して浮き上がってくると、さらに突き放そうとする大神。

 ほんまに鬼に金棒ってところなんやろうか。えぐいくらい突き放しているようにも見えるけどどうやろうか。

 そんなことをもいつつ、順調に飛ばしていく大神を見ていると、もう大丈夫そうやな。と思い、俺は、場内から視線をはずし、自分のことに集中し始める。

 たぶん、頭を6秒前半で入ることなんて今までなかったんとちゃうかな。やから、大神が息切れしてなかったら、自己ベストは堅いんとちゃうかなって思うよな。

 そんなことされたら、俺も狙いに行かざるを得んやろ。とか思いながら、大神の本番の強さを改めて思い知らされた。

 そこから、前におる組の選手が次々にレースへとむかっていき、もう少しで俺の番。

 たぶん、臆することと言えば、後ろの組で待っている奴らやろうな。


 女子のレースはそろそろ終わりかけ、それと同時に、俺も含まれている2組に出る選手は一斉に第2召集の場所まで行くことになる。

 というのも、第1招集場所からスタート地点が遠く、先に行かんと、変に待つことになるから。それを防ぐために、先に一度コンディションがええところで競技出場者全員を招集をして、そのあと、組単位で移動し、もう一度点呼を受ける。この大会ではそんな感じかな。

 大会によっては、プールサイドで招集を一回だけして、そのあとは、レースに集中しなさいよって感じ。

 だから、今回がちょっと特殊なところがあるんやろうなとは勝手に思ってる。


 俺も一応、ここで招集漏れしてレースに出られへんみたいなダサいことにはなりたくないから、簡単に点呼を受けて、俺らのレースがいよいよ間近なんやな。っていうのを改めて実感する。

 そして、前の組のレースが始まったと同時に、招集係の人の声で移動し、自分が泳ぐコースの前に来る。

 ここからほんの少しだけ時間があるわけで、自分のルーティンをこなす時間もある。

 そんなことを思いつつ、先にジャージやシャツを脱いで、ゴーグルをしてから近くにある椅子にドカッと座り、レースが終わるのを待つ。

 別に威嚇をしてるわけとちゃうけど、これが俺のルーティンやから許してほしい。


 さて。前の組のレースも残り少しか。そろそろ俺も最終段階に入ろうか。

 この段階で、目を閉じ、周りのざわめきを徐々にシャットアウトしていき、通告の声と審判長の合図の音だけに耳を貸す。

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