Episode 115 Naoya side 怒らせたらあかんやつを怒らせたな
「ちんたら泳いでんとちゃうぞ」
そんな声で威嚇してくるのは、どっかの高校の男子選手。
そんなことを言われてもなぁ。なんて鼻をほじる思いで、少し小さいそいつを見下ろす。
「なんやね。そんなに飛ばしたいんやったらほかのとこ行けや。俺らはこの後のレースに向けて調整してんねん。てめぇに合わせる筋合いはねぇよ」
「じゃかあしい。早いもんに道譲れってこと知らんのけ?」
どこのどいつか知らねぇけど、癪に障る態度をしてくるのが腹立つ。
「直ちゃん、落ち着いて。無視していくで。言うてる間に5秒前やねんから」
大神にそう言われて、我に返る。
しょうもない喧嘩をしてる暇があるんやったら、自分の調子を整えなあかんやんか。昨日の今日で、自分自身をおごるつもりはない。むしろ、もう一回気を引き締めなあかんと思ってるくらい。
今日のレースで予選敗退したらほんまに恥ずかしいと思ってるくらいやし。
とりあえず、弱い犬みたいにキャンキャン吠えとるやつは無視して、自分のことに集中しよか。
そう思い、また泳ぎだし、2本目を泳ぎ終わったころ。
「マジでうざいんやけど。そんな女子の足触って何なん?きっしょいわ」
俺の後ろでさっきまでは冷静やった大神が大爆発してる。
どうやら、嫌がらせで触られれているようだ。ここは、ちょっと男を見せるために出るか?
「ほんま、なんやねん!早い奴に譲れってほざくんやったら、テメェがどっか行けや!どこの誰かは知らんけど、この負け犬野郎が!」
サブプールにも関わらず、大声を張り上げた大神。どうやら、フラストレーションは相当溜まっているようだ。
そして、みんな、小柄な大神を見てびっくりしている様子。むしろ、美人というよりは、かわいいに分類される大神がドスを利かすように放った言葉は、泳いでいる奴以外の視線を総取りして、場内はシーンと静まり返った。
そして、その静寂を切り裂いたのは、その男子の学校のコーチだろうか、先生だろうか。パタパタと足音を鳴らしてやってきた。
「お前なぁ。自分より遅いじゃろうからて、自分のペースすら考えられへんのけ?いつも言うちょるじゃろ?おめぇだけいいんじゃって思っとるんじゃ殺さるどって。ええ加減周りと強調すること覚えろや。すいません。うちのバカが迷惑かけて」
「ほんまええ迷惑ですわ。さっきからなんか知らんけど、うちらにちょっかいかけてきよって。しかる処分はしてくれるんやろうね!?」
まだまだ声が大きい大神は駆け寄ってきた人にかなり詰め寄ってる。
さすがにこれ以上行ったらマズいな。そんなことを思いながら、俺が間にはいろうとしたけど、その前に大神がさらに距離を詰めた。
「見てたんちゃうん?うちらフリーでメニュー通り泳いでんのに、そっちはバッタ。しかも、うちらスピード落としてんのわかってんのに、煽るようにバシャバシャ言わせてさ!しかも、今日、バッタのレースないんやろ?うちらレース前やで!?こんなんされて調子狂わされて、ええタイム出んかったらどない責任とってくれるん!?ほんまふざけんといてや!学校とこいつの名前教えて。後で正式に抗議するから!」
今までのほほんとした大神しか見たことなかったから、めちゃくちゃ焦ってる俺がおる。
やけど、思い切って、大神とコーチらしき人の間に入る。
「すいません。こいつ、レース前に集中してんんおに邪魔されたらブチギレるところあって」
「あんたもガツンと言わなあかんやん!あんだけ調子乗った言動されてさ。ほんま、棄権してくれんと、気は治まらんで!」
ブチギレている大神を横目に、コーチらしき人は、奥におる選手の顔を見ながら話す。
「厳原、なんでまだそんなことしとる?ええ加減にやめろって何回も言うたじゃろ?」
コーチらしき人がそう聞いても、だんまりを続ける男子。その態度を見て、俺もあることを決める。
「そんなことするんやったら、俺らも容赦なく抗議させてもらうわ。テメェのとこから、なんもしてへんのに危険行為を働かれたってな。あと、招集のときにも喚いたろか?俺らは集中したいんや。てめぇもちゃうんか?なにがしたいんか知らんけど、まぁ、一発で行かれるやろうな。俺らはお前の成績なんかどうでもええから知ったこっちゃないけど」
さすがにそこまで言うと、いろいろマズいと思ったのか、ぽつりぽつりと話し始めた。
「おめぇ、扇原商業の原田じゃろ?昨日のレースを見て正直ブチ怖ぇ存在やと思うた。やけん、ちょっとでも邪魔して調子崩してくれへんかなって思っただけじゃ」
待って。マジで理由がガキすぎる。そんなんあってええんか?




