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Episode 113 Carin side 現れた人物

「宮武先輩、落ち着きましたか?」


 会場を飛び出して、近くの公園まで出てきた私。気づくと、ベンチに座っていて、その後ろから2年生のマネージャー、相谷優子ちゃんがいた。ハンカチを差し出しながら。


「落ち着いていたらここにいないよ」

「ですよね。わかりきっていました。でも、言葉にしないと伝わらないこともあるので、一応聞いてみました。あと、なにが潮時ですか?私は、まだ宮武先輩の時代が続いていると思っていますよ」


 慰めか何かわからないけど、優子ちゃんが声をかけてくれる。


「なんでここに?」


 たぶん、優しさで来てくれているんだろうけど、私の口からは冷たい声が出てくる。


「優子知っていたんです。その日のレースが終わるたびに近くの公園のベンチに座る宮武先輩を。ベンチでぶつぶつ一人でつぶやいて反省している姿を。それを見てこの人は、こうやって強くなるんだって。速くなるんだって。でも、昨日はそれをしなかった。宮武先輩、相当うっぷんが溜まっているんじゃないですか?もしよかったら、優子が話し相手になりますよ?」


 どういう経緯で私がここに来ていることを知ったのかわからないけど、彼女は、私がここに来ることを見越していたみたいね。


「……後輩に弱いところを見られるなんてね。最低な先輩だね。私って」

「何言ってるんですか。優子から見たらすごい先輩ですよ。いいレースをしても反省点を見つけてさらに伸ばそうとする。そんな先輩のお手伝いを優子はしたいんです。わがままでお節介なのは元からです。でも、最初は優子だって、先輩に憧れて、肩を並べようとしてここに来たんですから、まぁ、今は怪我をして、挫折してマネージャーですけど」


 そういえばそうだったな。てっきり練習についていけないけど、水泳が好きだからやっているものだと思い込んでいたけど、新入生挨拶で、私と肩を並べることが目標なんてことを言っていたかな。


「……マネージャーなら、話を聞いてくれる?」

「もちろんです。それしか今の優子はできませんから」


 なぜかわからないけど、この子になら弱音を吐いても口外はしない。そう思えた。

 ……ここは甘えてもいいのかな。……うん。甘えようか。そうじゃないと、本当にどうにかなりそうだ。


「でもなぁ、何から話そうかな。そうだ。優子ちゃんから見て、最近の私、どこか変わった?」

「そうですね……。他の人からも言われたことがあるかもしれないですけど、練習のときに比べてレースの方が硬い。そんな気がします」

「主にどのあたりが?」

「全体的にですね。なにかに縛られて無理やり泳がされてる。そんなイメージです」


 何かに縛られている。たしかにそんな気はする。レース前になると、あれやこれやといろいろ考えてしまうし、直前にフォームのイメージを固めることさえある。

 むしろ、それがルーティンになっている。気が自分でもしている。


「言いたいことは何となくわかった。じゃあさ、私、どうしたらいいと思う?」

「そりゃ、簡単な話です。明日のレースを棄権して、誰かを連れて遊びに行けばいいんです。先輩、スケジュールを思い返してください。日本選手権が終わってから、代表の強化合宿に行って、時間を空けずに中国の大会に出て、また強化合宿。短水路に出るからといって、出なくていい地区大会、県大会。そのあと休みなし強化合宿。帰ってきて関東大会。部の強化合宿に行って、途中で切り上げてパンパシフィックで計14レース。そして今のインターハイ。さらにこのあとにアジア大会ですよ。そのあとは少しインターバルがあって、国体、短水路の世界選手権、と続くんですよ。いつ休むんですか。そんなことしてちゃ、やっぱり、身体が持たないですよ」


 そういえばそうかも。たしかに、今年はやけに忙しい。全然遊びに行けてない気がする。

 海外にはよく言ったけど、全部レースだったり、高地での強化合宿。楽しんでいたというよりも、負けたくない。その一心だったかも。

 私がしなきゃいけなかったのは、技術面じゃなくて、精神面だったのかもしれない。


「あと、フォームを去年までの物に戻したほうがいいと思います。今のフォームは練習のときは意識しているのか形になっているんですけど、レースやタイムトライアルになると、固めきれてないのか、フォームが混ざって、ぎこちない感じになってる。そんな気がします」


 フォームか。たしかに、練習では意識しているけど、タイムトライアルってなると、違和感を感じたりして、タイムが出せなかった。

 無理なフォームの矯正が不調の原因だったりするのか。

 ……次のアジア大会の半フリの予選、優子ちゃんの言う通りにしてフォームを戻してみようか。それでダメだったら、これ以上の成長がないとみて本当に引退する。


「ありがとね、優子ちゃん。だいぶ軽くなったし、不調の理由もわかった気がする。何もかも求めすぎてた。それで力んだのかも」

「お役に立ててよかったです。優子ももっと早く人気づいて言えていればよかったです」

「ううん、いいの。馬鹿な私が勝手にイライラしていたから。とりあえず、今からやることは、去年のフォームを思い出すこと。優子ちゃん、手伝ってくれる?」

「はい!そしたら、コーチに一言伝えてきますね。あっ、明日のレースはどうします?やっぱり棄権します?」

「いや、出る。出るって伝えといて。明日くらい優勝しないと意味がないでしょ」

「そうじゃなくちゃ先輩じゃありませんよ。いつでも強気で泳ぐ姿じゃないと先輩じゃないですし」


 その本当の意味はわからないけど、楽しまないとね。楽に勝てるのはこのレースくらいしかないんだし。……とかいいながら、昨日は負けたんだけど。

 そんなことを思いつつ、優子ちゃんを近くのコンビニに連れて行き、スイーツとドリンクをおごってあげた。

 本人はものすごく遠慮していたけどね。


「ありがとうございます。優子にここまでしてくれなくてもよかったんですけど……」

「いいのよ。私のやる気を取り戻してくれたからね。でも、このあと、もう少し付き合ってもらうからね」

「もちろんです。憧れた先輩のフォームも完璧にまだ覚えていますから、思い出してもらうことくらい手伝えますよ」


 それはそれで逆にすごいな。と思うところはあるけど、一緒に見てくれるなら、それはものすごくありがたいことだろうけど、上からだとどうすればいいかわからなくなるだろうから、ちょっと遠慮しておこうかな。

 そんなことを思いながら、私は、しれっとチームの荷物がおいてあるエリアに戻り、自分の荷物だけ取って、サブプールに移動。

 表にいるコーチや真理奈には気づかれていないはず。そんなことを思いながら、優子ちゃんにつきっきりでフォームを取り戻しに行く。

花梨に声をかけたのは、マネージャーの相谷優子ちゃんでした。

どうやら、花梨の表情を見て、どうやら勝手に後をつけてきたようでした。

それが功を奏したのかもしれませんね。

花梨もいろいろ悩みを聞いてもらって少し安心したようです。

課題もちゃんと見えてきていますし、花梨が復活するのも時間の問題ですかね?

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