Episode 112 Carin side 飛び出して来た先は
会場を飛び出すように出てきた私は、とぼとぼと歩いて、近くの公園までやってきた。
なんていうか、今は、プールから離れたかった。ここに来た理由はそれだけだ。
そんなことで。とか言われるだろうけど、うまく行かないことがあると、どうしてもだだっ広いところに来たくなってしまう。
たぶん、一番多いのは、会場近くの公演だと思う。
公園に来たからと言ってブランコに乗ったり、滑り台をすべったりなんてしない。ただ、近くにあるベンチに座って、レースを振り返って反省したり、こうしたほうがいいんじゃないかといろいろ考える時間に充てている。
「ほんと、どうしたらいいんだろう。気持ちが乗ってこない。こんなの、今までよりひどいよ。わからなくなってる」
こういうときって、ふいに叫びだしたくなる。
練習中とかレース終わりに納得のいくタイムが出なくて、水中で思い切り吠えることはあるけど、何て言うんだろう。こんな悲しい感情で鳴ったことはないから、どうしたらいいかわからない。
気付けば、私は申し子らしくなく涙を流していることに気づいた。
認めたくなかったけど、認めるしかないのかな。スランプじゃなくてイップスだって言うことを。
周りは必死にそんなことはないって言うけど、1フリの自己ベストから1秒も遅いタイムで低空飛行を続けていることに気づいている。
それでも、周りがイップスだと言わないのは、私が予選会からずっとトップを守ってきたからだろう。
だけど、その威厳は昨日で途切れた。
もしかしたら、そこで気持ちも同時に切れたのかもしれない。
目の前で私が持っていた大会記録を更新されて、女王に君臨することになる遊菜ちゃんを心のどこかで否定的な存在にしていた。
そこからは、私が反省しなきゃいけないところだけど、女王は私しかいらないと言わんばかりに嫌がらせを仕掛けた。
自分のことに集中できていない証でもあったし、そんなことをしても崩れるほど遊菜ちゃんは柔なメンタルじゃなかった。
むしろ、何も気にしないほどの能天気ささえサブプールで見せていた。
その作戦はむしろ倍返しになって私に飛んできた。
遊菜ちゃんと同じ高校に通う原田くんからは真理奈を通じて『競泳の女神は楽しんでいる方に微笑むよ』なんて言われた。
最初はその意味すら分からなかったし、気にしないようにしていた。だけど、決勝の招集のときからプレッシャーをかけていたけど、それもまるでなかったかのようにかわされ、さらには、ニコニコしながら招集に来た彼女は、レース直前までなにも顔は変わらなかった。
そして、レースが終わった時に原田くんが言った意味をようやく分かった。
これが「楽しんで泳ぐということ」と「競泳の女神は楽しんでいる方に微笑むよ」ってこと。
だけど、レースが終わって、遊菜ちゃんのところのマネージャーさんと話をさせてもらったけど、驚かされることばっかりだったから、話を聞いたうえで冷静に精鋭することにした。
そして今日。ある程度、理解した私はさらなる教えをもらうために扇原商業のマネージャーさんのところに話をしに行った。
さらに、いろんな情報をもらおうと借りたノートを見て、私は朝から驚愕した。
学校のプールは短水路だというものの、私のベストタイムとほとんど変わらないタイムでメニューの一部をこなしていた。
それに気着いた時、私のモチベーションは完全に途切れた。
それで会場を飛び出し、ここにいるって感じかな。
「もう、私も潮時だなぁ」
心の中でとどめておくつもりだったけど、ため息と同時にポロっと私の口から零れ落ちてしまったと同時に、頬を冷たい何かが流れた。
それが涙だって言うことに気づくのにそんなに時間はいらなかった。それに、今泣いたとしても、周りにはだれもいないからいいか。
……それにしてもさ、なんで私だけこういう目に遭わなきゃいけないんだろう。
わたしだって趣味で泳いでいたかったし、世界に飛び出さず、友だちと青春したかった。
こんなにくるって言ったのはいつからなんだろう。
……たぶん、高2のときに出た日本選手権かな。
そこでレーザーレーサー時代の記録を更新したから。もちろん、それだけじゃない。
中学の時から学童だったり、中学だったり、様々な記録を更新ばかりしていたからだ。それがなかったら、こんなに騒がれることはなかったはず。
でも、あれだけ記録を日本選手権で出せば騒がれるよね。
あ~あ、何でこんなことになるんだろう。中学でぐれたらよかったのかな。スクールをやめたらよかったのかな。そんな思いが頭を駆け巡る。
「宮武先輩、落ち着きましたか?」
花梨はいろいろ思っていたことが湧き出てきたのか、涙を流してしまったようです。




