Episode 111 Yuna side 感じる視線
エグイな。なんていうか、ものすごいジロジロみられる気がしている。
これほど気持ち悪もんはないけど、その理由はちゃんとわかっている。
咲ちゃんは「可能性があるかもな」なんて言うてたけど、そんな生ぬるいもんとちゃう。
何て言うんかな。周りの視線は「なんでこんなちっこいのが」とでも言いたそうな視線が突き刺さるのを感じる。
軽く触れられただけとはいえ、ニュースになったのは大きかったのかと思うくらい。
正直、うちのことをマネージャーやと勘違いしてくれへんかな。とは静かに思ってる。
うちにとってはそれが一番やねんけどなぁ。そんなことを思いながら更衣室に入る。
スイムウェアに着替えて、場内に入ると、さすがに周りの視線は気にならなくなる。というのも、扇商の人間ってわかるもんをなにひとつ身に着けてへんから。
それに、直ちゃんと一緒におったら、なんか強くなった気もするし。たぶん、気持ちだけで、周りから見たら、ペンギンのように見られるんやろうけど……。
とりあえず、直ちゃんと合流して、アップを進めていこうかなとは思ってる。
まぁ、メニューに関しては、直ちゃんに聞く形にはなる。その直ちゃんもどうやら、サインで咲ちゃんから伝えられるみたいやけど。
「出てきたか。変に緊張はしてへんみたいやな」
更衣室からプールに抜けると、直ちゃんが待ってくれていて、うちに声をかけてきてくれた。
「やっぱり、周りの視線は変わってるわ。何て言ううか、『お前みたいなちっこいのが』って感覚。ただ、シャツ脱いで、ウェア姿になったらそんな目も気にならんくはなったかな」
「ほんなら、また招集のときやろうな。昔とはちゃうやろうけど、変に緊張するやろうな」
それは、うちもひしひしと感じている。
むしろ、わかりきっていることでもあるけど、まだ予選は大丈夫なんちゃうかなって思ってる。
さすがに、周りから小さいから、その点で目立つかもしれへんけど、周りが壁になって、うちの姿は隠れると思う。なんなら、昨日の予選もそんな感じやったしな。
それに、予選2組におるっていうのも大きいんやろうな。なんて思いつつ、100メートルだけ軽い力で泳ぎ、水温に体を慣らす。
「とりあえず、アップでワンフォーチョイスやってよ」
「オーライ」
とりあえずいつも通りか。そんなことを思いながら、直ちゃんが泳ぎだしてから、ほんの少しだけ空けてから私もゆっくりと追いかける。
こうやってのんびりと泳いでるときって、ほんまに気が楽なんよな。それに、直ちゃんが掻いた水流の力も少しだけ借りて、ほんの少しだけ楽をしている。
これも、下手な人なら、普通に抵抗になるだけやけど、うちはさすがに、咲ちゃんのおかげで抵抗の少ないフォームを身つけたから、こういう少しの水流にも乗ったりする。
うちの中では、1本目は身体を慣らすために軽い力で楽しく泳いで、2本目からは、身体を大きく使って硬い身体をほぐしていくつもり。
まぁ、今日に関しては、4本しかないわけだから、最初の50メートルだけ身体を慣らすのに使って、残りは、身体を大きく動かすことにするか。
そう思いながら、最初の50を楽しむように泳ぎ、ターンをしたあとからは、さっきよりも身体を大きく動かし、本数を重ね、最初よりは身体が動くようになってきて、もう少しやのになぁ。なんて思いながら直ちゃんのすぐ後ろに立つ。
「なんていうか、昨日の疲れが残ってる感覚するな。ちょっと身体が重いわ」
半フリとはいえ、競泳の最短レースを2本、緊張感のある中でこなした分、いつも以上に負担がかかってたんやろうか?って思うことはあっても、うちは、そんな疲れが残ってる感覚はほとんどない。
どっちかというと、さっきの突き刺さる視線の方がしんどかったから、うちとしては、こっちの方が楽やわ。
そんなことを思いながら、直ちゃんが咲ちゃんからメニューの指示を受けている。
「ケーピーのワンフォーフリーやってさ。まだアップ感覚でええやろ?」
ケーピーってことは、キックとプルだけか。
咲ちゃんにしては珍しいな。普段やったら、スキップしにしてくるはずやのに。
「たぶん、緊張を解くためちゃうか?今、変に周りから見られるせいで、ちょっと疲れてるって思われてるかもしれんし」
「そういうことな。了解。ワンフォーフリーやね」
直ちゃんは「あぁ」とだけ言うと、また軽い力で泳ぎだす。
そんな直ちゃんの姿を見た後、うちもゆっくりと直ちゃんの後を追いかけるように泳ぎだす。このペースがいつまで続くかやなぁ。なんてのんきなことを考えながらも大きく体を動かし、アップを進めていく。
咲ちゃんのメニューやと、最初の50をキックだけで、そのあとの50をプルだけですすむことになってる。
サークルに関しては、フリーだと聞いてるから、うちとしてはやりやすいかなって。
ペースも直ちゃんに合わせるだけでええって思ってるくらいやし。そのかわり、じっくり身体はほぐさせてもらうけどな。
十分に身体がほぐれてきたかなってお思ったころ。ちょうどメニューも終わり、また少しだけ身体を休ませる。
その間に直ちゃんが咲ちゃんからメニューの指示を受けていて、その指示はうち視力ののせいで見えへんからその場でぷか~っと浮くだけ。
「ワンエイトフリーでクォーター単位のイーハーハーイーやってさ」
イーハーハーイーか。最初はゆっくりからのダッシュ、ダッシュ、ゆっくりといった形。たぶん、レース本番に備えた感じにしているんだろうな。とは思っている。
「了解。これが終わったらさすがにダッシュやろうか?」
「さぁな。ただ、そうなるんちゃうか?ただ、あれやろ。レース自体は昼からになるやろうから、もうちょっと泳ぐんちゃう?」
あぁ、そうか。昨日はリレーがなかったから、一発目のレースやったけど、今日はメドレーから始まるんやったな。
しかも、そのあとに4混(400m個人メドレー)があるから、かなり待ち時間がある。
その間は少しサブプールで調整したほうがよさそうやな。
そんなことを思いながらゆっくりと泳ぎだす直ちゃんについていく。
最初は軽い力で泳いでいく直ちゃんやけど、ハーフラインを超えたあたりからは一気にスピードが上がる。
うちも負けへんようについていくけど、まぁ、力の差は歴然よね。わかりきっていたことだけど、直ちゃんがターンして、遅れること10秒ほどしてからうちもパシャン!とターンをかまし、直ちゃんを追いかける。
たぶん、咲ちゃんは、このターン後も意識しなさいよってことでこのメニューにしたのかなって思うよね。
さて、それじゃあ集中しなおして、アップをしていきましょうか。




