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Episode 109 Carin side チームは私をわかってくれない

 はぁ、やっぱり、才能といい、努力といい、あの2人は本当にすごいよね。何て言うか、私の努力を一瞬で裏切られた。そんな気がしてしょうがない。


「何て言った?」


 総監督に明日のレースを棄権したいというと、当然か。という反応を示した。


「もう、インターハイはどうでもいいと思ったんで。3連覇を逃した今、こんな大会にしがみつくより、次のパンパシに焦点を持って行きたいので」

「そんなことを言ってもリレーはどうする。お前が盛り上げてくれないと、逆転優勝もできないだろう」

「正直、どうでもいいと思ってます。リレーに勝ったところで、すでに30ポイントも離されている状態で、チームを勝たせるなんて、無理な話ですよ」

「それでも、チームを盛り上げる役目が、エースであるお前にあるだろう」

「エースだなんて思ったことなんてないですよ。みんなが持ち上げるから、勝手に乗ったっていただけで、エースだと思ったことは一度もありません」


 総監督は、しばらく考え込んだあと、絞り出すように言葉を発した。


「お前の考えはわかった。それだけの覚悟があるって言うことだな?それなら、棄権届けは自分で書きなさい。私が書くのは違うだろう」

「わかりました。失礼します」


 自分でも驚くほど冷静な声が出たことにもビックリだけど、周りの視線が特にびっくりしているようにも感じた。

 だけど、そんな視線を気にすることなく、私はマネージャーの真里奈にプログラムについている棄権届けをもらおうと思い、真里奈の元に近づく。


「ちょっと花梨!そんなこと許されないよ。無駄に楽しそうな顔で笑いながら全部出るって言ったのはどこよ誰よ。スケジュール的に無茶になるのは承知の上だったんじゃないの」


 いつになく厳しい表情の真里奈。まぁそうだろうな。こんなスケジュールになることをわかっていて、全部出るって言ったのは私だ。

 でも、無理なものは無理だ。これだけプライドをズタボロにされて、黙っていられない。気持ちを切り替えないと、彼女のいないレースに集中できない。

 それに、今の私は、調子が良かった去年に比べたら、目も当てられないくらいタイムが悪い。そう考えるなら、もう私の時代は終わったのかもしれない。私もいろいろ考える時期にあるだろうから、ちょうどいい時期なのかもしれない。


「もう無理よ。今の未熟すぎる私には。どう考えてもキャパオーバーだし、今日もしっかり心を折られたし。それなら、数少ない時間を新しいことに集中する方がいいと思っただけ。だから早く棄権届けちょうだい」

「……やっぱり無理。私は花梨にひとつでも冠を取ってほしい。もちろん、本調子じゃないことも分かってる。それでも、今までしっかりと優勝してきた女王の威厳を見せて欲しいと思ってる」


 真里奈は、色々考えた挙句、私がレースを棄権することを拒否してきた。

 もちろん、真里奈が言っていることもわかる。私だって、行けるものなら、3年連続2冠を達成したかった。

 でも、それはあっという間に消し飛んだ。それもニューヒロインのせいで。

 3年連続の2冠はニューヒロインに任せて、私は次のパンパシで引退する。そう決めた。


「悪いけど、私にはその気力は無くなってる。もう、引退の時期だと思っているくらい。あとは、あの彼女に私の夢を託すわ」

「何馬鹿なこと言ってんのよ!あんたの夢にみんなどれだけ応援してたと思ってんの!?海外にもライバルが居るんでしょ!?そのライバルたちになんて言うのよ!フォームが分からなくなったからやめる?馬鹿なんじゃないの!?」


 私の心情も何も分からない真里奈が意味もなく私に切れてくる。それに反発するように、私もレース前なのに大声で怒鳴り返してしまう。


「正直言ってこれ以上どうしたらいいって言うのよ!私だっていろいろ悩んでるのに、いつまでたっても出口が見当たらないし、きっかけもない。これ以上どうしたらいいのよ!これ以上悩みながら競泳なんてできないから辞めるって言ってんの!なにも知らないくせに話に入らないでくれる!?」


 たぶん、初めてこれほどキレ散らかしたかもしれない。普段から選手やマネージャー、コーチたちとはニコニコしながら接しているから、こういうところを見た人はビックリしたかもしれない。

 でも、ここまでなにか言われる筋合いもない。

 私はただ、周りの空気に流されていただけ。それを辞めるだけだ。

 今になって思う。みんな、私に過度な期待をしていたんだって。でも、それを気にしなかったのは、気づいていなかっただけだと今では思う。


「……もういいよ。明日、私は意地でも出ないから」


 それだけ真里奈に伝えると、チームの応援席から立ち去り、会場の外へと出た。


美咲に心を折られた花梨さん。

自身の競泳人生を終わらせる選択をし、マネージャーにいろいろ言われながらも翌日のレースに出場しないことを選択。

本当に競泳人生を終わらせてしまうのでしょうか?

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