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Episode 10 タイムトライアル 2

 そんなことを思っているうちに飛鳥先輩がラスト5メートルまで来ていた。

 飛鳥先輩は、顔を一瞬、水中に突っ込み、壁との距離を測る。そして、2回水を掻いた後、もう一度顔を一瞬だけ突っ込み距離を確認して、ちょうどフィニッシュで流れるように壁に触れた。


「飛鳥先輩、7秒28!」


 そこから少し空き、香奈もあと5メートル。香奈も飛鳥先輩と同じように水中に顔を突っ込み、距離を測る。それなのに、フィニッシュ時に頭を壁に、腕をコース台にぶつけて『ゴーン』と鈍い音を響かせる。

 見ただけで痛いのに、音を聞いて、さらに痛いだろうなと静かに思う。


「香奈、8秒30」


 ぶつけた反動で軽く水中に沈んでいた香奈に、浮き上がってきたタイミングでタイムを伝えた。


「とりまベスト~。それよりめっちゃ痛いんやけど。最後だけタイミングあえへんかったわ」


 脳天を押さえながら、苦虫を潰したように苦笑いをして言う香奈。1分38秒30でベストか。今までのベストってどれくらいだったんだろう?

 でも、これだけ元気なら大丈夫だろう。たぶん、練習のときよりもバサロキックが少し長かったことが原因だろうな。というのが安易に想像できる。たいてい、それが原因だったりするし。実際に私だってそうだし。まぁ、慣れてるから頭をぶつけずにフィニッシュできるけどね。


「そしたら部長、いっと来ます?」

「おお、せやな。ほんなら、福浦、一緒にいかへんか?」

「なんであんたと泳がなあかんねん。そもそもうちに勝てるん?」


 福浦先輩、めっちゃ部長にプレッシャーかけてるんだけど。それにたいして、何も言い返せない部長。どうやら、ここの水泳部は女子のほうが強いようだ。


「遊菜ちゃん、もう1種目何かいた?」

「1フリと1バッタですけど」

「それじゃあ1バッタで勝負しようや」

「わっかりました~!」


 ルンルン気分の遊菜だけど、1バッタって。遊菜にそんなパワーがあるとは思えない。

 だって、香奈に負けないかわいさで、スタイルもいいほう。もちろん、肩幅はあるけど、腕は細い。どうやってスピードを出すのだろう。そんなことを思いながらホイッスルを鳴らす。

 で、さすがに悩みながらいうのはどうかと思ったから気持ちをリセットして「よーい」といってからホイッスルを鳴らす。

 2人が飛び込んだ後、すぐはやっぱり、スタートが上手い遊菜が前に出る。ただ、パワーで勝る福浦先輩が遊菜の後ろにぴたっとくっつく。

 たぶん、ここは離されるところなんだろうけど、苦手と自分で公言しているバタフライは、そうぶっちぎってフィニッシュというわけには行かないみたい。

 唯一差をつけられるところといえば、ターンしてから浮き上がるまで。ここだと、ドルフィンキックの打ち方に差が出て、ちょびっとだけ差が開く。

 途中の50メートルのラップタイムは、遊菜が33秒33で、福浦先輩は34秒21となかなかいい勝負をしている。


 疲れが見え始めた後半はさすがにラップタイムを落とし、遊菜は1分12秒32でフィニッシュ。福浦先輩は1分16秒30でフィニッシュした。

 二人とも一応ベストなのかな。たぶん、そうだろう。2人とも顔がにこやかだし。


「やっぱり遊菜ちゃん速いわ。追いつけるかなって思ってたから、だいぶ離されたわ」

「うちもさすがにばてましたわ。めっちゃしんどい。やっぱり、バッタを久しぶりに全力はやるもんとちゃうわ」


 たしかにそうだよね。ずっと『エスワン』でメニューを組んでたから。

 遊菜はスピードがさらに速くなったけど、福浦先輩はスタミナとパワーがかなりついた。

 エスワンだとこういう差がつくのか。バッタで泳ぐメニューも入れたりしたほうが言いのかなと思ってしまう。

 そこから、組み合わせを変えたりして17人計51種目を測り終えた。すでにお昼の1時を回っていた。


「そしたら、各コース戻ってダウンです。今日は終わりにしましょう」


 えい。そういうのを見届けてからマネージャー陣も片付けに入る。


「美咲、プル板2つ置いといてくれへん?」

「はっ?」

「やから、まだ泳ぐから置いといてって」

「あんた、まだ泳ぐ気なん」

「再来週からレースが始まるからなぁ。今日みたいなタイムやったら、インターハイで優勝できひんからな。まだまだたらへんわ」

「そんな強がって怪我とかせんといてや」

「お前のメニューを信頼してるから。怪我せん程度にメニューを組み立ててくれてんの知ってるから」


 まぁ、マネージャーとしては当然よね。選手が怪我しないように見守るのもマネージャーの仕事だと思ってるし。

 でもね、最近思うことは、やってることがコーチみたい。ということ。マネージャーって、たぶん、ここまでしないはず。補佐的な感じで部が回っていくのを見守るくらい?と思ってたんだけど、まさか、沙雪先輩を差し置いてコーチングをするとは思ってもなかった。

 ただ、私自身も、もともと選手だったわけで、選手目線でどうしたらいいかって言うのがわかる。それを伝えられるのが幸いだよね。

 とりあえず、いつもよりきつめのメニューを組んでみるか。

 エスワンばかり入れて、2人のフリーのスピードを上げられるようにしてみよう。

 ちょっと意地悪で、スキップスを解体して、キック・プル・スイムをそれぞれワンテンで入れてやろうか。

それだと、結構面白いことになるかも。せっかくだし、アップ気分でもなさそうだから、思い切ってサークルを30秒ほど削ってやろうか。

 そんなことを考えていると、すらすらとメニューが浮かんでくる。

 こういうときの私はものすごく調子がいい。調子が悪いときは、いつまでも悩み、悩んだ挙句、前日とメニューが似ていたりする。


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