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Episode 108 何か変わった?

「話はそれだけか?」

「ですね。私もコーチたちに確認してみるんで」

「そうか。わかった。ほんなら、また今日も1日よろしくな。ちょっと朝飯食ってくるわ」


 それだけ言うと、長浦先生は階段を降りていく。

 その姿を宮武選手と一緒に眺めた後、宮武選手は口を少しだけ開く。


「あれがここまで来たチームの監督なの?」


 ボソッとつぶやいているけど、私の耳にはしっかりと届いている。それに応えるかどうかは迷っているけど、とりあえず返しておこうか。


「一応、あぁ見えても学校の責任者です。本人も言ってた通り、名ばかりで、基本的には、私たち学生が主導になってますが」

「どおりで、威厳がないなと思ったし、ノートにものすごい量の書き直しがあるのも納得だわ」



 それだけ言うと、宮武選手はプールの方に視線を移した。


「ほんと、すごい才能よね。もう1回ノートを見せてもらってもいいかしら?」


 宮武選手はまた私の持っているノートを見せて欲しいって言ってくる。

 とは言っても、見せないわけもなく、素直にノートを渡すと、宮武選手は、パラパラと見ながら「はんと、これだけでよくここまで来たよね」と呟くのを聞き逃さなかった。


「1番は、直哉たちのポテンシャルだと思いますけどね。ただ、フォームチェックだけだと、さすがにタイムが伸びないので、100メーター6本3セット1分30秒サークルとかいう無理難題をやってもらいましたけど。その中で最初の1本は遊菜でさえも55秒をクリアしていきますし、直哉も52で回ることもあるくらいですし」


 そう言うと、宮武選手の顔が一気に変わり、笑いが止まらなくなった。


「アハハハハ。ヤバいね、それ。私だって、こんな時じゃないと55なんて出ないのに。……なんで、私はこんなに頑張っているのに、1年制に練習のときから負けているなんて。私、何と戦っているのかわからなくなってきたわ」


 そう言うと宮武選手は、高笑いした顔から、かなり悲しそうな顔に変わった。


「ほんと、私、何で競泳なんてしてるんだろう。こんなに心もおられたこともないから、どうすればいいのかわからなくなってきちゃった」


 何て言うか、私は宮武選手の言葉に返すことができなかった。

 私だって、一時期競泳から離れていた過去はあるものの、私とは境遇が違うだろうからっていうのを思ってしまったから。


「たぶん、2人なら大丈夫だよ。今日も派手にやってくれるよ。心配しないで見守ってあげてもいいかもね。さて。私もちょっとコーチにさっきの話をしてくるね」


 そういうと、宮武選手は、椅子から立ち上がって階段を降りて行った。

 その姿は急だったから、私が声をかける暇もなかった。

 ただ、コーチに相談するって言ったあの顔。なんというか、ものすごく怖い顔をしていた。

 そういえば、昨日、あの人は、自分から「スランプ」だって言っていた。

 一素人の意見だから、大きな声では言えないんだけど、あの顔、もしかして、競泳をやめてしまうんじゃないか。そう思ってしまった。

 宮武選手がこの先どうするか、それはさすがに私でもわからない。そんなことはわかっている。今は、宮武選手が競泳をやめないかどうかだけヒヤヒヤしたのも覚えている。

 本音を言うのであれば、遊菜のためとは言わないけど、スランプから復活して、また世界で活躍する姿を見せてほしい。

 そう思ってしまった。


「あの人、まだまだいけると思うんだけどなぁ」


 思わず私は口から言葉がこぼれてしまったけど、周りがざわついていることにより、私の言葉は、誰にも聞かれることはなった。

 そこは少し安心していいのかな。なんて思ったり。


「扇原商業のマネージャーさんかしら?」


 そう言われて、また顔を上げると、別の女子選手?が立っていた。


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