表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/238

Episode 107 申し子のお願い

「何回も言うようで申し訳ないんだけど、まだアップ段階なんだろうけど、きれいなフォームよね。スプリンターって、意外とパワーで進んでいくって言う選手は多いのに、丁寧に泳ぐもんね」

「パワーがないのにそんなことしても意味がないことはわかっていますから、抵抗の少ないフォームで泳ぐことを一番の優先にしていますし、パワーアップはそのあとかなって思いながら、少しずつ筋トレを入れてるところです」


 宮武選手はそう言うと、珍しそうな顔を向けてきた。だけど、直哉たちもメニューが終わっているようで、私は先に直哉たちに向けて、ファーストハーフダッシュ、ラストハーフイージーのメニューのサインを出す。


「筋量が少ないのに、スプリントで優勝しちゃうんだから、それがまたすごいと思っちゃうのにね。私には絶対真似できないことだろうしさ、なんていうか、2人が羨ましいなって思ってしまうかな」

「それがわかっているうえでフォームチェックを一番にしてますから。たぶん、これからも変わらないでしょうけど」


 そこまで言うと、誰かが階段を一番上まで上がってくるのがわかった。

 よくよく見れば、長浦先生だった。


「先生、おはようございます」

「今日も今日とてここか。また1番高いところで。まぁ、お前のことやから、ここやろうとは思っとったけど」


 先生も私の性格をわかってくれているみたい、


「せや、ホテルで原田には言うたんやけど、夜のニュースを見た学校の教師たちが祝福のメールを一斉に送ってきたんや。しかもみんなビックリした表情していたらしいけど。あの水の申し子って呼ばれた日本代表に勝って優勝するとは思わへんかったって」


 長浦先生が『水の申し子に勝った』という単語を飛ばした瞬間、宮武選手の顔が少し険しくなったようにも見えた。


「本人を目の前にして、それを言いますでしょうか?初対面ですけど」

「うわっ!なんで本人がここにおるんや!めっちゃびっくりしたわ」

「何でいるって言われても……。遊菜ちゃんと仲良くなったからとしか言いようがないんですけど……」

「……そういうことか。あっと、言うの忘れてたね。扇商水泳部の長浦って言います。軽はずみな発言、失礼しました」

「いえ、気にしてませんから大丈夫です。ただ、私のことに気づいていないのにビックリしただけなんで」


 まぁ、最初、上がってきたとき、私も宮武選手のことに気づいていなかったから、人のことは言えないんだけど。

 そして、その宮武選手は、ちょっと煌めいた目で長浦先生を見ていた。


「長浦先生って、顧問なんですよね?それじゃあ、水泳部の中でもトップってことですか?」

「まぁ、名ばかりだけどな。実質的には生徒たちに任せているから、俺はなんにもしてへんよ」

「それでもいいや。ちょっとだけお願いがあってお邪魔してるんですけど、合同練習をさせてもらえないでしょうか?」


 私も初耳で、頭の中にクエスチョンマークがものすごい数並んでいて、どういうことなのかなって思っている。

 それは、長浦先生も同じような反応で、首を少しかしげていた。


「……それは、部員全員が来るってことか?」

「いえ、代表で私と、後輩で女子水泳部の部長候補の子と一緒に」

「それは、そっちの顧問の先生は知っているのか?あと、その子はこの話を了承しているのか?」

「私がその子を誘っているのは事実で、どこかの高校と合同練習をしたいって言うのは、コーチや総監督に話をしています。ただ、私がいるからなのか、どこも受けてくれないって言うのが実情ですね」

「伊藤はこの話聞いとったんか?」

「いえ、初耳です」

「すいません。雑談ばかりで伊藤さんにもお話はできていないです。もちろん、原田くんや遊菜ちゃんにも」

「そうか。伊藤はどう思うよ」


 そんなこと言われてもなぁ。って言うのが本音ではあるけど、ほかの部員たちの技術連取ってことにしてもいいのかもしれない。それなら、うまく時間が使えると思う。


「ありっちゃありやと思います。1年を中心に技術講習って方にも取れると思いますし、私としても、強豪校がどんな練習をしているのか気になりますし、教え方も気になります」

「確かに、伊藤と福森だけやと、教えるのも限界があるもんな。なんやったら、そっちのコーチにうちらの子に教えてくれるんやったら、ありかもしれんな」

「そ、そこまではコーチと相談してみないと何とも言えないのであれですけど、もし可能ならそうしたいですね」

「ほんなら、そっちのコーチが了承したんやったら、また伊藤か大神にでも連絡入れてぇな」

「あ~っと、それなら伊藤さん、連絡先を交換してもらってもいいかしら?」

「あっ、はい。えっと、ケータイは……あった」


 そんなこんなで、ラッキーなことに宮武選手の連絡先をゲットすることができた。

 内心、こんなラッキーなことがあるんだ。と思いながら、宮武選手の連絡先を登録し、メッセージアプリに『お願いします』と言ったスタンプを送る。

 そのすぐ後に、宮武選手から『ハロー』というようなスタンプが送られてくる。それはちょっとかわいらしく、私もちょっと頬が緩んでしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ