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Episode 106 思わぬお客様

「かなり不安そうな顔をしているのね」


 そんな声が聞こえてきたと思って、顔を上げると、すぐ隣に宮武選手がいた。


「お、お疲れ様です」

「なによその驚き方。昨日よりビックリしてるじゃない。私のこと嫌い?おっと、隣座らせてもらうね」」

「あっ、いや、そういうわけじゃなくて、またなんで来たのかなって、疑問で」

「今日は私、レースに出ないから2人の応援をしようかなって思ってね。なんったって、私の価値観を変えてくれた人たちだからね」


 どういう事情なのかはわからないけど、まぁ、楽しくやれそうならいいんじゃない。って個人的には軽くそう思った。


「で、伊藤さんが不安そうな顔をしていた理由って聞いても大丈夫?」

「う~ん。なんていうか、昨日、2人とも下剋上をかまして優勝したじゃないですか。それによって、遊菜たちを見る目が変わるんじゃないかって思って。本人たちは気にしてないんでしょうけど、やっぱり、会場の外で待っているとき、私も一緒の目で見られていたから、私も同じ高校の人だと認識されているのかなって」

「それはちょっと自意識過剰なんじゃない?それに、伊藤さんはマネージャーなんでしょ?伊藤さんはあまり気にしなくていいんじゃないかって思うけどね。勝負を楽しむのは原田くんと遊菜ちゃんなんだし」


 まぁ、もちろん、それは正論。だけど、挑発とかで私たちに絡んでくる人たちもいるんじゃないかなって思っていて、年上の選手が主に絡んでくるんじゃないかって思っている。


「いろいろ思うところはあるだろうけどさ、ここに来る人たちってみんな自分たちのことで精いっぱいなこともあるからさ、そういう人はいないと思うよ」


 そう思えるなら一番いいんだろうけどね。なんて思いながら、ゆっくりとプールの方に視線を移す。

 開場してからまだそんなに時間が経っていないって言うこともあって、まだ泳いでいる選手の数はまばら。

 そのなかで、直哉と遊菜の姿を捉えることができた。

 そんな2人は、一番人の少ないレーンに入って、軽く泳ぎだす。アップ前のアップだろう。


「なんていうか、ここから見ると、本当に2人、フォームが綺麗よね。昨日もテレビのニュースで泳いでる姿が流れたけどさ、私とフォームがまるで違ってさ、これであんなタイムが出せるのかって思ったくらいだもんね。正直、見ほれたって言うのが本音かな」


 私のこだわりが間違ってなかったんだって思える言質。こだわってよかったって思えるくらい。

 これがもし間違っていたら、たぶん、ここまで宮武選手と話すことはなかったのかもしれないな。なんて思いつつ、直哉がこっちを見て右腕を高く上げてきたから、私はすっとその場で立ち上がって、ハンドサインを色々出していく。


(ツーフォー、エンドレス、チョイス)


 それだけ伝え終わると、今度は直哉が左手を『了解』のサインを出してきた。

 そして、2人は、軽い力で泳ぎだし、私はその姿を見ていく。


「えっと、ごめん、今何があった?」


 不思議そうな顔をして私の方を見てきた宮武選手。

 まぁ、無理もないか。これは私と直哉と遊菜の3人の中で決めたハンドサインなんだから。誰かがわかるハンドサインでもない。なんなら、このハンドサインは、こういった大会で、私が上から、見ているときにしか出ないから、ハンドサインを人前でやることはめったにない。


「たぶん、私も人に見られることはないことなんであれなんですけど、基本的に公式アップって、下にコーチがいて、マネージャーがいて、選手が泳いでって感じじゃないですか。でも、私たちは、コーチはいない。選手も2人が同じ種目に、マネージャーも私だけしかいないんで、私もここを離れちゃうと、荷物番もいなくなるし、席もなくなるしで、どうしようもなくなっちゃうんですよ。だから、せめて私がここにいるようにして、荷物番も兼ねて。だけど、直哉から要望があって、アップも管理してほしいなんて言われて、どうやって伝えようかって思った結果がハンドサインなんですよね。それなら、大声も出さなくて済むし、伝え間違いはあるかもしれないですけど、まぁ、ある程度伝えられたらそれでいいと思っているんで、そうしてます」

「ほえ~。いろいろ考えてるんだね。私たちはみんなコーチの言うことばっかりやっているだけだからさ、アップのときは自分の身体と相談しながらって感じかな。あとは、スタートと浮き上がりの動画を撮ってもらって、それを確認するだけだからね」


 やっぱり、人によってアップのやり方は違うものの、やっていることはそう変わらない。

 もちろん、私たちもスタートと浮き上がりは動画に収めるつもり。だけど、それはやっぱり、すぐに直哉たちに見せられないから、その分ラグはあるだろうから、すぐに伝えられないっていうのが残念ポイントなのかもしれない。

 でも、これが私たちのやり方なんだから仕方ないって言うのはある。


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