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Episode 104 夜のニュース

「いつからそんなラフな格好してんねん。ほんま、こういう姿を見ると、王者には見えへんな」

「悪かったな。やけど、浮力に任せるのも楽やで。自分のバランス崩れとったら、どっちかが沈んでいくんやからすぐにわかるし。それに、こうやって浮いてるほうが立ってるときより楽に感じるし」


 知らんわ。と思ったけど、まぁ、背の高い直哉だからって言うだけなんだろうけど、よくわからない。


 そこから少しの間、遊菜の直哉も好きに時間を過ごし、女子の8フリが終わるまでとしていた。

 ここから本気で泳ぐことになるのに、これだけ緩くていいのか?なんて思うかもしれないけど、遊菜も直哉も切り替えはとんでもなく早い。

 一部分を切り取るなら、へらへらしながらタイム取りの順番待ちをしていても、自分の番になったと思えば、ゴーグルもして、一気にレースモードに入る。本当に同一人物か?と思うほどに。

 だから、今回もスタート台に乗った瞬間、人が変わるように集中すると思っている。


 そして、女子の8フリの予選が終わり、少しした後、メインプールで泳いでもよくなったみたいで、パッとメインプールが映るモニターを見ると、ほんの数名だけメインプールで泳いでるのが見えた。


「予選終わったみたいやけど、メインプール行く?」


 ちょうど泳いでいた直哉が戻ってきたタイミングで声をかける。


「もうそんな時間になるか。ほな、そっちに移動するか」

「ほな、遊菜が戻ってきたら向こう行こか。とりあえず、感覚取り戻すために2混2本入れてるけどかまへんよな?」

「待てや。バックで感覚狂うやんけ。それやったら、ツーツーフリーがええわ」


「あんたら、ここ来てからフリーしかやってへんやん。ついさっきダウン感覚で仰向けに浮いとったけど、たまには広い天井が見えるとこでバックやってもええやん。きもちええで」

「やとは思うけどさ、上見てるより下見てるほうがええわ。バックは最初の5メートルとラストの5メートルしかわからへんのに、ずっと青空で、進んでるんか進んでへんのかわからへんし、バランス悪かったら、斜めに進んで、指突くし。それがかなんねん」


 それでも、元専門の私が言うんだよ?ちょっとくらいは信用してくれてもいいじゃんね?って思うのは私だけなんだろうか。

 たまには息抜きで一番楽なバックをやってもいいと思うんだけど、まぁ、スプリントバカの2人には到底できないことなのかな。なんて思いつつ、遊菜に声をかけてメインプールに異動する。


 メインプールはレース後ということもあり、まだまだ人はまばら。

 たぶん、サブプールで泳いでゆっくり体を休め、明日に備えるって言うのが大多数なんだろうけど、うちらは明日のためにターンの確認をしたいがために、メインプールに残っている。

 明日もレースがあるのに、早く休めば?って声があることもわかってる。だけど、不安を残したままじゃゆっくりと休めないよね?っていうことで、わざわざ残って練習を重ねる。

 もちろん、私もマネージャーだし、ちゃんと2人の練習の様子も見守る。


 2人は、サブプールで泳ぐときと変わらず、ゆったりとしたペースで泳いでいる。

 本当に、何と言うか、物怖じしないよね。2人とも。そこは本当にすごいと思う。

 私なら絶対に上がり切ってる。それか、滅多にこんなところで泳ぐ機会なんてないから、むしろ、遊び感覚でワイワイしているかもしれない。

 そう考えたら、2人が本気で調整しているっていうのはすごいと思う。

 そこから、時間いっぱいの夕方6時まで感覚慣らしからダッシュとターンの確認を済ませ、2人の顔がすっきりしたところで、クールダウンさせて、着替えてから、ホテルに戻る。

 明日もあるから、さすがに祝勝会は明日することにすることにして、近くのご飯屋さんで食事をした後、それぞれの部屋に戻り、就寝までの間、思いのままに時間を過ごす。


「ほんま、メールの返信とかラインの返信とか多すぎ。下からやっても、全然上に行く気配ないんやけど」


 どうやら、遊菜はメールの返信をしているみたいで、あまりにも多く届いたメッセージに困惑している様子。

 でも、その様子を見ていても、楽しそうに返信したりしているから、迷惑そうな話ではないみたい。それなら、いいんだけどね。なんて思いながら、パッとテレビをつけると、スポーツのニュースをしている途中だった。

 あんまり関係ないかなって思っていたら、さっきまでいた競泳場が映し出されていた。どうやら、ここからインターハイの競泳競技のニュースが始まるらしい。


『それでは続いて全国高等学校総合体育大会、通称、インターハイから競泳の話題です。競泳日本代表にも選ばれているの宮武花梨選手が千葉県で行われている同大会の2日目に出場しました』


 映像は、どのシーンかわからないけど、誰かがクロールで泳いでいるシーンが流れていた。


『本日注目の宮武選手は、女子50メートル自由形に出場。予選を25秒89で難なく予選を突破、決勝競技に進みます。そして、迎えた決勝。予選を2位で突破した宮武選手は黄色と黄色で挟まれた奥のレーンで泳ぎます。スタートして浮き上がり。レースは隣の4コースで泳ぐ高校1年生の大神選手がほんの少し前に出てレースを引っ張ります』

「うわっ、こんなところまで映ってるん?すごいな。しかも、超僅差。こんなとこでよううちも勝ち切ったな」


 いつの間にかテレビに視線が釘付けになっていた遊菜がボソッと声を出した。


『なんとか追い抜きたい宮武選手ですが、大神選手も粘りを見せます。ですが、レースはそのまま動かず、高校1年生の大神選手が大会記録を更新して優勝。ほんのわずかに届かなかった宮武選手は準優勝です』

「ニコニコ(25秒25)の大会記録ってなんか、ゴロええな。これがうちの記録か」


 初めて知った。と言わんばかりの遊菜。

 私の頭の中で、タイム知らなかったっけ?と思いながら、記憶を思い返しても、言った記憶がない。


「遊菜、うち、タイム言うてなかったっけ?」

「……そういえば、聞いてへんな。戻って来てほんの少ししたら咲ちゃんが先に出たいって言うて、降りて行ったし、合流してすぐにサブプールに戻ったし、聞く時間がなかったんちゃうかな」

「やとしたらごめん。先言うたらなあかんかったな」

「ええよ、タイムは別に気にしてへんかったし、楽しかったし、ええ思い出しかないわ。明日の1フリがもし予選で落ちたとしてもな」


 何と言うか、遊菜は心の底から楽しんでるだけみたい。

 もちろん、タイムを追いかけ続けるのもいいだろうけど、そうすると、絶対に行き詰った時、どうしたらいいかわからなくなる。

 それがスランプってことになるんだろうな。一番身近な例としたら、今日の宮武選手ってところだろうか。


『その宮武選手、レース後にコメントを残してくれました』

『今日のレースと言うか、代表合宿の後、正直、自分のフォームにしっくりきてなくて、力でごり押ししていたんですけど、それだけじゃ足りないってことがわかったので、そこは収穫かなと。あとは、次のレース、その先、パンパシに向けて調整していきたいと思います』

『また、大会記録を更新したことについて問われると……』

『優勝した選手のほうが早いし、記憶に残るけど、私はパーソナルベストとして、見えない記録として残ることになるでしょうし、あまり気にせず、次に向けて頑張ればいいかなって思ってます』

『そして、大会記録を更新して優勝した大神選手ですが、なんと、予選2組からの逆転優勝。直後に行われた、男子で同じ種目、50メートル自由形の予選2組で出場し、高校記録を更新して優勝した、同じ高校に通う原田選手とともにダークホースのような存在で会場を沸かせていました』


 男子のレースは簡単に紹介されるだけで、レースの映像が出なかったのは残念だったけど、そこで少しでもニュースになれば、また遊菜のスマホがピロンピロンと鳴りだす。


「もう~、タイミング~。まだ半分も返せてへんかったのに~。……明日もまた増えそうやな。面倒くさなってきたし、明日のレース終わった後にまとめて帰そうかな」


 なんていいつつも、律儀に全部返そうとしている遊菜を見て少し笑ってしまった。


 直哉と遊菜の反響はものすごく大きいみたいです。

 この反響がどこまで力に変えてどこまで記録を残すのか。

 楽しみなところですね

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