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Episode 103 サブプールでクールダウン

 そこからだいたい5分くらいして直哉と遊菜が同じタイミングで会場から出てきた。


「ごめん、遅なった。ゴーグルない~とか思ってたら、更衣室に忘れとってさ」

「ほんまに。なんぜゴーグルだけ忘れるかが不思議やわ。ポーチに入れとったんちゃうんか?」

「直ちゃんのレース見とったら、着替える時間無くなってもうてさ。ある程度身体拭いて、ゴーグルもポーチに入れんと、腰に挟んでたん忘れとってん。ほんで、着替えるときに思い出して、ベンチにポッと置いて、そっから忘れてた」


 まぁ、見つかったからいいんじゃない。と思いつつ、ここからどうするか2人に聞く。


「まぁ、さっきも言うた通りで、ダウンしたいわ。サブプールでええから」

「せやね。うちもこのままホテル戻ったら、身体バキバキになりそうな気がしてきたわ。それに、ターンの感覚も確認しときたい。今日までずっとスタート練ばっかりやったから」


 確かにそれもそうか。今日のレースが半フリだったから、ずっとスタートと浮き上がりを中心に確認させていた。

 明日のことだし、ターンの確認は気になるところだろうな。多少泳がせてあげて、感覚を調整してもらおうか。


「今日の表彰式が終わったら夕方の6時までメインプールで泳げるらしいから、そこでターンの確認しとく?」

「そうする~。サブプールで確認してもええんやろうけど、ちょっと感覚変わるから、なんやったら、上からワンウェイいったあと、フィニッシュの時に回りたいくらいやもん」

「それくらいやったらええんちゃうん?回って壁蹴らんかったら。蹴ったら蹴ったで逆走やでって注意されそうやけど」

「せやな。そうさせてもらうわ」


 そこからもう一度会場に入り、そのまま観客席を経由せずにサブプールに行って、ダウン兼練習として軽くメニューを組み上げる。

 たぶん、これくらいで大丈夫なはず。まぁ、メインプールで表彰式が何時に終わるかわかっていないけど。

 ……あっ、そっか。今日のメインプールでのラストレースは女子の8フリの予選じゃん。ってことは、言ってる間に終わるってことか。それなら、アップ感覚で泳がせて、そのままメインプールに移ればいいや。

 そう思うと、さっとメニューを書き換えて、乳酸を流すためのような1500メーターほどのメニューを組んで、タイミングよく着替えて入ってきた直哉にメニューを渡す。


「これのあとにメインプールで泳ぐから」

「オーライ。大神来たらスタートでええよな?」

「もちろん、それまでストレッチとかしとってもかまへんで」

「あぁ、そうさせてもらうわ。あいつが来るまでもう少しくらい時間かかるやろうし。来たらまた声かけてや」

「はいはい」


 私がそれだけ返すと、直哉は邪魔にならないところで大きな体をかがめてストレッチをしていた。

 そこから数分して遊菜も練習用のウェアに着替えて、サブプールにやってきた。


「あれ?直ちゃんは?」

「直哉やったら、あそこの隅っこでストレッチしてるわ。結構身体にガタが来てるんちゃう?知らんけど」

「そうなん?うちはそんなことないと思ってるんやけどな。まぁとりあえず泳ごうや。メニューはどんな感じ?」

「直哉に渡してる。ちょっと軽めにしてるわ。って言うのも、あとでメインプールで泳ぐし、そのとき、がっつり泳いだらええかなって思って」

「そのほうがええんちゃう?ってうちは思うで。なんせ、ターンの練習は全力で泳いでから回るわけやし、そのあとももっかいダウンするんやから」


 遊菜はそう言うと、てとてととペンギンのように直哉のところに行って、少しだけ話をした後、同じタイミングで同じレーンに入ったあと、ゆっくりと軽い力で泳ぎだす。

 ……さすがに軽い力で泳ぐだけじゃ、フォームに何も出ない。

 泳いでいる中で、たまに腕に乳酸が溜まっているのか、腕を振りながらリカバリーしていたり、たまにひっくり返って身体を揺らしていたりと、自分で思うように乳酸や疲労を流している。


 そこから、自分たちが思うように少し泳いだ後、私が渡したメニューをし始める。

 正直なことを言うと、あまり飛ばすメニューを入れていない。たぶん、レース後だから当たり前だと思っているけど、それでもいつも以上に数は減らしている。


「なんというか、あれやな。まだ優勝したって言う実感ないわ。普通に泳いでるって感覚が強いわ」

「うちもやわ。いつも通り、直ちゃんの後ろ泳いでるって感覚。インハイ制したって感覚はないわ」


 2人がそう言うってことで、私が夢の中にいるんじゃないかって錯覚を起こす。でも、まぎれもない現実で、2人はスプリントの高校覇者になった。しかも、まったく優勝候補に入っていない2組から、高1ながらに。

 さらに言えば、2人とも大会記録を更新している。これがどれほどありえない出来事かって思う。いまだに私が夢見ているんじゃないかって思う原因の一つがこれよね。


「うちが一番そう思ってるわ。2人とも大会記録を更新して優勝するとかどこの漫画やねんって思ってまうし。なにより、宮武選手と話したってのが一番夢みたいやのに」

「美咲も宮武選手と話したん?」

「ちょっとだけやけどな。練習メニューに興味持ってたわ。どんな練習してるんか知りたかったって言うてたで。直哉、あんた、なんか言うたんか?」


 さっき話した時も「優勝した男子」って言ってたから、直哉のことだとわかる。それに、こんなことを言うのは直哉しかいないし。


「まぁ、ちょっとちょっかいかけられたから、楽しまれへんねんやったら女神に見放されて負けるでって言うたくらい。まぁ、そこで大神が勝ち切ったから、言霊がガチになっただけや」


 そういうことか。宮武選手が「女神に見放されるよ」って言った意味がよく分かった。

 直哉がいつも言っている「楽しまんと女神は見てくれへん」って意味だと思った。


「そういうことね。ようやくつながったわ。なんで宮武選手が女神に見放されるよって言ったのか。やっぱりあんたやってんな」

「どういう意味や?」

「いろいろ話をしたんよ。でも、いろいろ吹っ切れた顔をしとったから、大丈夫ちゃう?」

「まぁ、どういう経緯かしらんけど、まぁ、ええんちゃう?咲ちゃん、まだ8フリってやってんの?」


 遊菜は、どうもメインプールで早く泳ぎたいみたい。まぁ、気持ちはわからないでもないけど、ウキウキする姿を見せる必要はないんじゃないかって思う。


「今は4組。あと2組くらいあるで。もう少し泳ぐんやったら、もうちょっと泳いでもええんちゃう?」

「ほ~ん。ほな、そうさせてもらうわ」


 それだけ言うと、遊菜はゆっくりと壁を蹴って単独で泳ぎだした。


「あんたは泳がんでええの?」

「好き勝手に泳がせてもらったからな。ちょっと身体のバランスをフラットにさせてもらうわ」


 そう言う直哉をよく見ると、オーバーフローに腕を組んで、その上に顎を乗せていて、すっと体の先を見ると、足の裏が見えていた。

 そう言う私は、2人と目線を合わすためにずっとしゃがんでいるんだけどね。

 何て言うか、濡れる濡れないはもう気にしていない。それに、濡れるのはいつものことだから、いつしか、気にしなくなったよね。

 部活関係で動くときは、下にスイムウェアを着ているわけだし。


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