Episode 100 Misaki side 初日の振り返り
待って。マジでありえへんねんけど。こんなことあってほんまにええん?って思うくらい、私の頭はいろいろ理解することを拒んでいる。
一つずつ整理するなら、まず、遊菜と直哉がそれぞれ自己ベストを大きく上回って、予選トップで通過。それぞれ100分の1ながら、大会記録更新というおまけ付きで。
そもそも予選2組での登場だったから、私とすれば、「インターハイに来れてよかったね」って感じで終わると思っていた。
それが、ふたを開けてみて、予選が終わってみれば、みんなが知ってるような結果に。
で、さすがに予選はまぐれだろうと思って迎えた決勝。
テンションが上がったのか、何が起きたのかわからないけど、こっちもレースが終わってみると、2人とも大会記録を更新して、直哉に関しては、高校記録を更新して優勝してしまった。
その姿を長浦先生と目の当たりにしてしまい、2人で顔を見合わせてしまった。
「やってまいましたね……」
「せやな……。こんなことありえてええんか?」
2人そろって唖然としていて、2人に対して、どういう反応をするの正しいのかわかっていない。
たぶん、2人とも一言放った後無言だったって言うのがその表れだと思う。
そこから少しした後、スプリットブック、プログラム、練習ノートそれぞれに、大会記録を意味する「GR」と、直哉のところには、高校記録を意味する「HR」と書き込む。
……これで来年度のプログラムから、日本記録一覧のところに、直哉と遊菜の名前が載るのか。
そう考えたら、話しがかなり壮大になってくるな。
そこから、何をするでもなく、ただただ、現実を少しずつ受け入れようとしながら、表彰式を待った。
……ただ、ちょっと、私が待ちきれないかもしれない。
というのも、私たちが座っている少し前。背中に大きく『京都藍本水泳部』と刺繡が入ったジャージを着た選手が大泣きしていて、その周りをほかの選手が囲って慰めていた。
なぜか、悔し泣きだろうな。そう思えたのは一瞬で、タイム順に並び変わった時に撮った男子半フリの結果を見てみると、京都藍本の選手も出ていて、100分の1秒差で表彰式から漏れていた。
スプリントレースなら、少なからず起きてしまうことだから、しかたがないとはいえ、これほど悔し泣きしていると、少し同情してしまう。
それと同時に、あの時の記憶を思いだしてしまう……。状況は全く違うって言うのに、なんでよ。
そう思いながら、必死に自分の記憶の奥深くに閉じ込めて封印しようとする。
『ただいまより、表彰を行います』
この声で少し助かったと思えたかもしれない。
無理に記憶と格闘することなく、すーっと表彰式の方に思考を持って行けたから。
そして、表彰式のプレゼンターが紹介された後、先に女子の半フリの表彰。
3位に入った選手の名前が呼ばれ、賞状が渡される。そのあと、2位に入った選手の名前が呼ばれ、同じように賞状が渡される。
3位の選手は、自分のチームだろうか。大きな声をかけられたことに対して、大きく手を振ったりしてアピール。
2位の選手に関しては、何か気に食わなかったのか、大きな声が飛んできても、あまり応えることなく、少しだけ首を横に振った。
『第1位、大神遊菜さん、扇原商業。今大会新記録を樹立しての優勝です』
「遊菜~!おめでと~!」
その場で立ち上がり、出せる限りの大声で思い切り叫び、遊菜を祝福。帰ってきたら、もっと言ってあげないとな。なんて思いつつ、遊菜がこっちに気づいてぬいぐるみと賞状をフリフリしている姿を見て、本当に優勝したんだ。って思えるようになった。
たぶん、ここからだよな。なんて思いつつも、続いて行われる男子半フリの表彰式。
そして、ここも同じように、同じプレゼンターの紹介がされたあと、3位に入った選手の名前が呼ばれ、賞状が渡され、そのあと、2位に入った選手の名前が呼ばれ、同じように賞状が渡される。
そして、今度は、2位の選手、3位の選手、ともに、自分のチームから飛んでくる声に応えていた。
『第1位、原田直哉くん、扇原商業。今大会新記録ならびに、高校新記録を樹立しての優勝です』
「直哉~!ナイスガッツ~!」
直哉にももちろん、声をかけてあげる。だけど、照れているのか、何もしてくれなかった。
ちょっと寂しい気分になったものの、これはこれでこいつらしいや。とも思ってしまった。
そして、写真を撮る間もなく式が終わり、メインプールでは新たにレースが始まろうとしている。お祝いの空気は一瞬で吹き飛んだ。
とりあえず、今日の仕事はここまでかな。あとは、たぶん、ダウンとかしてくるだろうから、そっちに付き合って、明日に備えることになるかな。
あっ、そうだ。あの2人が戻ってくる前に、沙雪先輩たちに伝えておこうっと。直哉たちがインターハイ優勝したことを。
そう思ってスマホを取りだすと、水泳部のラインが大暴れしていた。
どうやら、部活中に予選突破した話を長浦先生から聞いて、昼からはどこかの教室を借りてテレビの前で観戦していたらしく、遊菜と直哉、それぞれの優勝の瞬間を見ていたらしい。
たぶん、直哉も遊菜もラインは暴れているのが水泳部のものだけじゃないだろうな。なんて思いつつも、直接私に連絡が来ているのは、自分のお母さんと直哉のお母さんから。
とりあえず、ひとつずつ返信していこうか。
『みなさんご存じの通り、遊菜が女子の半フリを25秒25の大会新記録を、直哉は22秒49で大会記録と高校記録を更新して優勝しました。みなさんのご協力のおかげです。ありがとうございました』
『美咲ちゃんもお疲れ様。すごいサポートでとんでもない結果が出てもうたな。でもおめでとう。そして、お疲れ様』
私がメッセージを送って少ししてから、一番最初に返信をくれたのは沙雪先輩だった。
そのあともポンポンと次から次にメッセージが帰って来て、私も丁寧にひとつずつ返していく。
そうこうしているうちに、男子の1バックの決勝が終わりかけのころに直哉と遊菜が戻ってきた。
思ったより早いタイミングでびっくりしたけど、ダウンしたのかな。なんて思いながら、2人に話しかける。
このお話もようやく100話。直哉も遊菜もまさかの大成長を遂げ、インターハイを制するまでになってしまいましたね。
美咲のコーチングがぴったりはまったようです。
さて、3人にとってインターハイ初日が終わりかけていますね。まだ残っている種目、何とか言いタイムを出してほしいと願いながら……。
*直哉と遊菜が出した大会記録、高校記録については、とあるお話との整合性を取るために、2014年当時の記録を参考にお話が進んでいます。今の記録ではありませんのであしからずご了承ください。




