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Episode 9 タイムトライアル

 そして、順番にメニューは消化されていき、迎えた土曜日。

 直哉はいつもどおりだけど、遊菜のテンションがいつもに比べて相当高い。

 タイムを測る前にばてちゃうんじゃないかというような勢い。

 まぁ、そんな遊菜もかわいいんだけどね。


 朝のうちは、いつもより少し軽めのメニューで調整。だいたいトータルが2300メートルくらいかな。

 アップして、スキップスを解体して、キック・プル・スイムをそれぞれワンフォーずつ。クォーターダッシュを8本。ルースン100メートルでメニューを組んで、一通り終わらせ、ここから記録会が始まる。

 時間もないから、全員に泳いでもらう半フリ+泳ぎたい2種目を作った用紙に記入してもらって、それをもとに進めていく。


 あっ、ちなみに、またこれも専門用語で、○フリとつけば、○メートル自由形、○ブレは、○メートル平泳ぎと言うように、ほかに、『バタ』『バック』『コン』という言い方があり、それぞれ、バタフライ、背泳ぎ、個人メドレーの略称になる。

 例えば、さっき私が口にした『半フリ』は50メートル自由形で、だいたい100分の1にしていうのが多いのかな。例外なのは、50メートル競技と1500メートル自由形くらい。それぞれ、50メートル競技なら『半フリ』とか『半ブレ』『半バック』『半バタ』といい、1500メートル自由形なら『センゴ』と言う。なんで、そういい方になったのか知らないけど、競泳がある程度理解できたところからこの言い方を使っている。


 とりあえず、直哉と、タイムで少しは張り合えそうな遊菜をトップにもってこようか。


「直哉~、遊菜~、半フリ~!頭やからさい先よく頼むで~」


 そういうと、タイムトライアル用のスイムウェアに着替えた直哉が3レーンに、同じくタイムトライアル用のスイムウェアに着替えた遊菜が5レーンに入る。

 それをみると、本番さながら、ハンドホイッスルを短く4回鳴らし、そのあとに1回長く鳴らす。

 直哉はスタート台に上がるまでのしぐさはよく知っていたけど、遊菜のしぐさを見るのは初めてだった。

 直哉は、長い笛が鳴るまでずっと同じところにいるけど、遊菜は、短い笛が鳴っている間に手を大きく横に広げてから、長い笛と同時にコース台の上に立つ。そこから、遊菜は右足を前に、左足を後ろに持ってくるクラウチングスタートの体勢で、コース台の縁を持ち、直哉は相撲の立会いみたいな感じで私の声を待っている。

 よーい。静かに、かつ2人にしっかり聞こえるように声を出す。

 そして、もっているストップウォッチがゼロになってることと、直哉と遊菜がしっかりと静止していることを確認して、鋭く短くおもいきりハンドホイッスルを鳴らす。

 その瞬間、2人は待ち構えていたかのように飛び出す。そして、2人ともぐんぐんと加速していく。

 もうね、この2人が泳ぐと、25メートルがものすごく短く感じられるね。

 飛び込んでから浮き上がってくるまでにハーフラインを超えて、そこからたった7掻きで2人とも折り返し。

 直哉が一足先にターンして、遊菜が若干後れてターンをする。

 スタートしてからたったの10秒。遊菜も12秒で折り返す。

 スタートした側でストップウォッチを持って待ってるから、反対側はちょっと遠い。だから、勘でラップタイムを刻む。


「やっぱり速いな~。あんなん、叶わなへんわ。まさか中央大会を突破したりしてな」


 成海先輩、大いにその可能性があります。だって、短水路ですけど、直哉が25秒を切りそうな勢いですもん!

 勢いよく壁にタッチしてフィニッシュする直哉。

 隣のレーンから覗き込むようにして見ていたから、フィニッシュと同時にスプラッシュを浴びたけど、気にしていない。そして、3秒ほど遅れて遊菜がフィニッシュ。


「くぅ~!やっぱ直ちゃん速い!勝たれへん!」


 遊菜がフィニッシュして早々、ちょっと大げさに言う。けど、その顔は笑っているから、少し冗談も入ってると思うけど。


「直哉、4秒8で遊菜が8秒ジャスト!」


 あっ、直哉たちが50メートル自由形を4秒8で泳いだわけじゃないからね。私だけじゃないかもしれなけど、スイマーの一部は、十の位をすっ飛ばすくせがあるから、実際には50メートル自由形を24秒8で泳いだ。ってことになる。

 十の位をすっ飛ばすくせがあるから、初めて泳いだ子に十の位をすっ飛ばして言うと、「はっ?」って顔をする。まぁ、当たり前っちゃ当たり前なんだけど……。


「ほんなら、成東くんと鮎川くんも半フリいっとこうや」

「中元さん、マジで言うてんの?あんなん見せられたあとに泳げ?泳ぐ気失せるっちゅうねん。ええタイムなんてでるわけないやろ」

「じゃあ、先に香奈ちゃんと飛鳥、先に1バックいこか」

「あいよ」

「はーい、すぐ行きまーす」


 この2人は、言い方が悪いかもしれないけど、だいぶ遅いほうに分類され、ベストタイムは、地区大会の記録が何とかクリアできるほど。それなのに、飛鳥先輩に関しては、人数の関係でメドレーリレーのメンバー。これは、人数的な関係で仕方がないところがあるんだけど……。

 二人の準備ができたことを確認すると、短くホイッスルを鳴らし、長いホイッスルを1つ鳴らす。

 それを合図に、2人が水の中に入る。

 バックだけは、ほかの3種目と違って、唯一水の中に入り、仰向けでスタートする。

 2人がプールの中に入り、スタートできる体勢が取れたとみると、もう1度長いホイッスルを鳴らす。ここでやっとスタートの体勢をとらせる。それまでは、水の中にいないといけないけど、スタートの体勢でいなくてもいい。

 そして、さっきと同じように「よーい」と言って、ホイッスルを鳴らす。

 2人は、ホイッスルの合図に飛び出す。

 さすがに、綺麗とはいえないスタート。綺麗なのは、このあとのフォームと2人のフェイス。

 飛鳥先輩は、たまに「また告白された~」って自慢げに言うし、香奈に関しては、入学3日後に男子の間でファンクラブができるほど。

 そんな2人が泳いでいる。けど、やっぱり、直哉たちに比べると、スピードの差は歴然。まず、キックの強さが違うし、腕を回すスピードも違う。

 2人とも全力なんだろうけど、私から見たら、フォームが綺麗だから、ゆったりフォームを確認しながら泳いでいるように見える。

 こんなにフォームが綺麗なら、香奈の伸びしろはまだ期待できる。今年までの飛鳥先輩はどこまで伸びるかわからないけど。

 2人は似たタイミングで泳ぎ、25のターン、50のターンはほぼ同時。ただ、ここから差が開きだす。後半型だった飛鳥先輩が前に出て香奈が遅れだす。

 じわりじわりと差が広がっていく浸り。目視できる範囲でだいたい3秒。最後の折り返し時点では5秒ほどまで広がっていた。粘られるならできるところまで香奈には粘ってほしいところだけど、難しいだろうな。


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