六
「綺麗……!!」
ピンク色の花びらがひらひらと落ちてくる。花織さんの行きたい所とは、県内でも有名な桜の名所だった。大きな川の両端に、桜の木が沢山生えている場所だ。現在はすっかり暗くなったが、満開の桜はライトアップされており、幻想的な雰囲気である。
「花織さん! 私ここ初めて来たんです! あ! 水に桜の花びらが沢山浮かんでますよ! めっちゃ綺麗じゃないですか!」
「灯さんに喜んでもらえて良かったです」
花織さんは微笑みながら言った。
いけない! ついついはしゃいでしまった! ここには花織さんへのお詫びとして来たのに……。
「いやその……何か飲み物でも買って来ましょうか?」
「今は要らないです。ありがとうございます」
「そうですか?それじゃあ……」
あれ……待てよ?
私……そういえば……。
「そ……そういえば、おばあちゃんに恋人だって紹介してすみませんでした! おばあちゃん元気だったし、恋人だって言う必要なかったですよね?! すみません!!」
私は土下座をしようと思ったが、踏みとどまって頭だけ下げた。これなら周りに笑われまい!
「あぁ、そのことですが、僕達本当に付き合いませんか?」
「え……?」
私はパッと顔を上げた。思考が停止する。花織さんの言ってる意味が理解できない。
「今日僕のことを恋人だと紹介してくれて、とても嬉しかったんです。だって僕、灯さんのことが、ずっと前から好きだから」
「本当ですか?」
「本当です」
花織さんが私を好きだと言う。これは夢だろうか。
「いやだって花織さんはみんなに優しいから! その、私に特別な感情は無いのかと……」
花織さんは笑った。眉を八の字にして、困ったように、悲しそうに。
「僕、灯さんだけには特別優しいですよ。気づきませんでしたか?」
全然気づいてなかった……。
ずっと手の届かない存在だと諦めていた花織さんが、私を好き……?
「改めて言います。灯さん、僕と付き合ってくれませんか」
花織さんは真剣な表情で言った。
風が吹いて桜の花びらが舞う。花織さんと桜。あまりにも美しく幻想的で、これはやっぱり夢なのかもしれないと思う。
しかし、色々ぐるぐる考えたって、私の答えは既に決まっているのだ。彼に釣り合う自信は全くないけれど。
もしこれが美しい夢でも構わない。
「あの……私で良ければ……ぜひ」