四
土曜日の夕暮れ時、私達は病院へと向かって歩いていた。
まずは受付へ行こうとして、病院前のベンチに座っている祖母を発見する。祖母は漫画を読んでいた。最近流行ってる恋愛漫画だ。
あれ……? 思ってたより元気……?
「おばあちゃん……?」
「灯ちゃん! わざわざお見舞い来てくれたの?!」
「う、うん」
祖母は私の手をぎゅっと握ってブンブン上下に振った。
あれ? あれ?
「あと数日で退院できるって!」
「私、もっと、その……体調悪いのかと思ってた。寝たきりとか想像してたんだけど」
「やっだー! 重体とか危篤とか思ってたの? もしかして病状を百合子に聞きにくかったとか?」
全くその通りだった。俯いて黙っていると、祖母は大口を開けて笑った。
「やっぱそうなんでしょ! あなたたち気が合わないもんね〜! ウケる!」
「まあ元気そうでなにより」
……じゃない!! 元気なのは嬉しいけど、花織さんどうしよう。
花織さんを見ると困ったような顔をしてる。そりゃそうだ。
「で、そちらの方は?」
やっぱり祖母も花織さんのことが気になったようだ。
どうしようどうしよう頭が回らない……。何と言うのが正解だ?
と、とりあえず予定通り恋人だって紹介するか。
「あ……あのね。こちらお付き合いしてる花織さんです……」
彼の方をちらっと見る。彼は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「初めまして。花織です。灯さんとは同じ会社で働いています」
「えーーー!!! 恋人ですってーーー!!!」
祖母は叫び飛び上がった。そしてクルクルと回っている。本当に元気だな。
でもなんで祖母はこんな所にいるんだ?
「寿美子さん! やっと見つけた! 病室で安静にって何回言えば分かるんですか!」
看護師さんが息を切らしながら慌てた様子で走って来た。
「えー、だって寝てるだけなんて暇だもん! たまには春風に当たりたかったし!」
え? 病室抜け出したの? しかも常習犯じゃん。看護師さん、本当にごめんなさい。
「もう! 病室戻りますよ!」
「灯ちゃんまたね!!」
祖母は大きく手を振りながら、病院の中へと連行されていった。