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ハルは水花火  作者: 田作たづさ
魚の住む水に桜
23/26

 外からドーン──ドーン──と大きな音が聞こえてくる。


「なんだろうね、この音。お姉さんわかる?」


 この音は多分……。今日は8月の第2土曜日。ああ、なるほど! この場所、この窓の向きならきっと!


 私は立ち上がり、カーテンをバッと開いた。


 ほらね、私の予想通り!


「水桜君! 花火……綺麗だね!」


 窓の外では、巨大な打ち上げ花火がばんばん上がっていた。


「うわ、すご。近すぎ」


 迫力がありすぎて、水桜君が若干引いてる気がする。


「電気消すね。そっちの方が見えやすいから」


 私は電気を消した。そして2人で窓の近くに立ち、花火を鑑賞する。九州最大級の花火大会だ。大学生時代は、友人と毎年見に行っていた。久しぶりに見たが、やはり見事である。


「打ち上げ花火久しぶり見た……」


 水桜君がぼそっと呟いた。その横顔をチラッと見る。うん、やっぱりかっこいい。


 私は目線を花火よりも下の方へ向けた。大きな川の水面に花火が映っている。


「うわー! 水桜君あれ! 水面に花火が映り込んで綺麗だよ!」

「あ、本当だ。ああいうのを水花火って呼ぶんだっけ」


 水花火。初めて知った。


「あ、いや待って。信じないで。今言ったこと忘れて! ソースが茶道の先生なんだけど、あの人適当なことばかり言うから。造語の可能性が高い」


 私はうんうんと頷いた。


 水面に映り込む花火……水花火。とっても綺麗な名前だ。「水」と「火」という真逆の存在が、同じ場に共存できる奇跡の言葉。もはや造語だとしても構わない。私はじっと水花火を見つめる。


「お姉さんさ〜、ホンモノの花火見れば良いのに!」


 水桜君は空を指さした。


「もちろん空に浮かぶ花火も綺麗だと思うよ! でも……」


 空に浮かぶ花火がホンモノなのだとしら、水花火はニセモノなのかもしれない。あまりにも美しく幻想的なニセモノ。それはそれで魅力的だと、私は思う。


「あ……さどう。水桜君、さっきは軽く聞き流しちゃったけど、茶道やってるの? すごいね!」


 水桜君は少し気まずそうな顔をする。


「別に凄くないよ〜。兄弟がみんなやってたから、俺も流れでやっただけ。それに、やってた……って言うのが正しいのかもしれない。大学生になって1人暮らし始めてからは、1度も先生と顔合わせてないし」


 茶道についてはあまり詳しくないが、茶室で行うものだと認識している。


「先生のお家に茶室?があるの?」

「あぁ、先生の家にもあるけど、俺の実家にもある。離れの一部が茶室になってるの。大抵は先生にうちへ来てもらって、指導してもらってたな〜」

「ふ〜ん?」


 茶室ってよくあるものなの? いやまあ水桜君の家はお金持ちそうだし、茶室の1つや2つあるか。


「茶道以外に習い事はしてたの?」

「他には習字と華道と日本舞踊とお箏と……」


 まじか……。もしかして水桜君はとんでもない名家のお坊ちゃんなのかもしれない。


 しかし、これで1点ハッキリとしたことがある。


「水桜君は立ち振る舞いが綺麗だな〜と思ってたんだけど、そういった習い事の賜物なのかもね!」


 私はニコッと笑った。


「え?!」


 水桜君はあわあわしだした。顔を真っ赤にして、見るからに恥ずかしがっているのがわかる。私はどうしようもなくキュンキュンしてしまう。


「い……いきなり変なこと言うなよ!」

「変じゃないもん! 本当だもん!」

「もうなんでこの人は……」


 水桜君は両手で顔を覆ってしまった。


 窓の外を見る。もう少しでこの花火もフィナーレだ。花火が終わったら水桜君ともバイバイかな。うん、そうだよね。忘れていたけど、水桜君はレンタル彼氏。お仕事でやっているんだから、こっちもちゃんとわきまえないといけない。


「水桜君、今日はありがとう! おばあちゃんの所に一緒に行ってくれて、お母さんから助けてくれて、私の気持ちに寄り添ってくれて……ありがとう」


 今日のことは一生忘れない。


 水桜君はしばらく黙ってから、躊躇いがちに口を開いた。


「あのさ〜お姉さん……できればまた会いたいな〜なんて」

「……え?」


 あー! 営業トークか! またレンタル彼氏利用してね!ってことか! 焦った……。


「違うよ! そうじゃなくて。えっと、ほら! ハンカチ洗ってから返したいし!」

「ハンカチなら別に返してくれなくても大丈夫だよ! わざわざ申し訳ないし!」


 私は微笑んだ。私とは対照的に水桜君は悲しそうな顔をする。


 あれ……?


「……じゃあさ。俺のハンカチは?」


 俺のハンカチ。あ、さっき私が泣いた時に貸してくれたやつ。


「ごめん! 借りっぱなしだったね。えっと、コインランドリーで洗濯するか、新しいの買って……」


 私は押し黙った。なんか違う気がする。違う違う。彼が言わんとしていることは多分もっとシンプルだ。


 でも……本当に良いの?


「お姉さん。遠回しに言わずにはっきり言うね」


 水桜君は一息置いた。


「俺と友達になってください!」


 彼は頭を下げて右手を差し出した。


 水桜君、告白みたいなことするな〜。それなら!


 私は彼の右手を両手でギュッと握った。水桜君がパッと顔を上げる。


 窓の外では、ひときは大輪の美しい花が咲く。


「えぇ、喜んで」


 私も告白を受けたみたいな返答しよっと。

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