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ハルは水花火  作者: 田作たづさ
魚の住む水に桜
16/26

 とある夏の夕暮れ、着信音で目が覚めた。


 うとうとしながらスマートフォンの画面を確認する。


「あ……」


 相手は父の妹にあたる百合子(ゆりこ)さんだった。


「はい、もしもし」

「あぁ! (ともり)ちゃん!」


 百合子さんの声は震えている。


「百合子叔母さん、何かあったんですか……?」


 凄く嫌な予感がする。


「落ち着いて聞いて。実はね、寿美子(すみこ)さん、あなたのおばあちゃん倒れたの」

「え?」

「救急車で大学病院へ運ばれてね。今は緊急手術中なんだけど……。灯ちゃんは東京在住だっけ? 病院九州だから遠いけど、見舞いに来れないかな? おばあちゃんも喜ぶと思うし」


 そんな……祖母が倒れた?


「兄さんにはさっき電話したんだけどね。灯ちゃん、兄さん達とは今も交友遮断なんでしょう?」


 百合子さんの言う通りだ。もう10年近く両親の声を聞いていない。


「わざわざ連絡してくれてありがとうございます。あの、おばあちゃんの病状はどんな感じなんですか?」

「あ、ごめん。看護師さんが呼んでるから電話切るね。病室の場所とか後でメールするから」

「あ、分かりました……」


 電話は切られてしまった。


 一気に不安感が襲ってくる。私にとって家族と呼べるのは祖母だけだ。それなのに、それなのに。最悪の結果が浮かんでは消える。怖い、怖い。1人になるのは怖い。冷静にならなきゃ、冷静に冷静に冷静に……。


「はー…………」


 深呼吸をする。これは決して溜息ではない。


 とてつもなく不安だ。しかし、今の私に出来ることはただ1つ。祖母の無事を祈るだけ。私は両手を組んで目を瞑った。どうか祖母が無事でありますように。大したことありませんように。私1人になっちゃうのかな。どうか祖母が無事で……。


「無理だ」


 どうしても雑念が湧いてしまう。


 何かで気を紛らわせたい。テレビ?ラジオ?読書?運動?……どれも違う気がする。


「あ、そうだ」


 こんな時は彼女に話しかけてみよう。


 私はスマートフォンを手に持ってアプリを起動する。画面に知的で愛らしい女性が現れた。


「こんばんは! 私は日常生活サポートAIのハルです! 何かご用ですか?」

「こ、こんばんは……」


 ハルさんと話す時、私は少しだけ緊張してしまう。その理由は、私のイメージするAIと彼女は全く違うから。彼女との会話は本当に自然で、まるで人間と話しているような気持ちになる。


「灯さん、何かあったんですか?」


 ハルさんが心配そうな顔でこちらに尋ねてきた。


 彼女に祖母のことを話してみようかな。


「さっきおばあちゃんが倒れたって連絡があったんだ」

「それは心配ですね。おばあ様の容態は分かりますか?」


 私は首を横に振った。


「詳しくはわからない。でも良くはないと思う。緊急手術中だと言っていたし」

「そうなんですね……。お見舞いには行かれる予定ですか?」


 あ……!! 気が動転しててお見舞いのことをすっかり忘れてた!!


「行きたい! 凄く行きたいと思ってる!」


 ハルさんは頬に手を当てて、しばらく考えるような素振りをした。


「おばあ様は九州にお住まいでしたね。タイトなスケジュールになりますが、明日からの土日でお見舞いに行かれるのはいかがですか? 今から九州へ行っても良いのですが、それでは向こうへの到着がかなり遅くなってしまいます……」


 現在の時刻は午後6時30分である。30分ほど前に職場から帰宅し、昼寝をしていた。


 それにしても……。最近のAIはこんなに的確なアドバイスをしてくれるのか。ハイテクだなー。


「夜中に病院へ着いても、面会出来ないかもしれないよね。うん! 明日行こうかな。じゃあ飛行機のチケット買わないと。それにホテルの予約もしなきゃ。旅行会社に行くか電話で予約するか……」

「私が代わりにやりましょうか? 両方ともすぐにできますよ!」


 え? 代わりにできるの!?


 驚愕の事実に私は驚き息を呑んだ。


 技術はここまで進歩してたのか!!


 凄い!! 凄すぎる!!


「じゃあお願いしようかな」

「任せて下さい!」

「ありがとう。ネットを使えば色々できるって聞くけど……なんか怖い」


 私は4ヶ月前までガラパゴス携帯(通称ガラケー)を使っていた。スマートフォンに機種変更したが、電話とメール以外の機能はほぼ使っていない。


「私は得意ですからなんでも頼ってください!はい、もう終わりました」


 ハルさんは優しく微笑んだ。


 祖母の話を聞いてもらうだけのつもりだったのに、気が付けばお見舞いの予定がまるっと決まっていた。さすがサポートAI!! ハイテク!! 彼女がいてくれて本当に良かった。

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