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ハルは水花火  作者: 田作たづさ
ハルは水花火
13/26

灯は野球好き

「あの……もし良ければ。もし良ければなんですけど、一緒に野球を見に行きませんか?」


 夕食中、何の脈絡もなく灯さんは言った。


「え? プロ野球ですか?」

「そうです……。私の応援しているチームの試合が近くであって。今回はビジターなんですけど……」


 彼女は先程まで、僕の作った料理を幸せそうに食べていたのに。今は緊張したような、不安そうな顔をしている。


「灯さんは野球が好きだったんですね……」


 知らなかった。灯さんとお付き合いを始めて数ヶ月。彼女のことは何でも知っていると思っていたのに。


 いや、そういえば……。彼女は新聞のスポーツ欄を必ずチェックしていた。しかも野球のシーズン中だけ。それに先日、マジック42……と寝言を言っていたじゃないか!! なんてことだ!! 沢山ヒントはあったのに!! 


 僕は自分の不甲斐無さに絶望した。


「私なんてファンとしてはまだまだです!」


 灯さんは照れくさそうにはにかんだ。


 可愛い。この人は天使だ。絶対に。


「野球は詳しくないですが、それでも良ければぜひ」


 僕の返答を聞いて、彼女はパッと笑顔になった。


「うわー! 嬉しいです! とりあえず花織さん用のレプリカユニフォームを買わなきゃですね!」


◇◆◇


「今日晴れて良かったです! 球場なんで雨降るとずぶ濡れなんですよ」


「わー! 花織さん! この席選手に近くないですか! 表情まで見えそう!」


「あれ売り子さんですよ! 背中のビール凄く重いのに、笑顔で凄いな〜!」


「ファールボールこっちに飛んで来ないかな。推しのボールなら当たっても痛くないと思うんです!」


「3点ビハインドか〜」


「へー、押し出しで3点返した。向こうの投手に救われましたね」


 灯さんはずっとウキウキしていて、その目はキラキラと輝いている。こんなにはしゃぐ灯さんを見るのは初めてだ。なんと可愛らしいことか。


 僕は球場の写真を撮るふりをして、彼女の横顔をカメラに収めた。


「あ、1点入れましたよ! 次押さえれば勝ちです! 頑張ってー!!」


 彼女はぎゅっと目を瞑って、祈るように手を組んだ。そのような姿も可愛らしい。


 もう一枚写真を撮っておこう。


「本来のあなたに戻ってくれて良かった……」


 彼女の写真を見ながら呟く。


 無邪気で素直な、優しい灯火。


 小さな火だが、とても温かい。


「……? 花織さん何か言いましたか?」

「いいえ、なんでもありません」


 しかし、この灯火はとても繊細だ。


 雨や風によって、すぐに消えてしまう。


 だから誰かが守ってあげないといけない。


「絶対に……僕が……」


 僕は灯さんの真似をするように、手を組んで目を瞑った。


 そして祈る。


 このような幸せな日々が、ずっとずっと続きますように。

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