表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋ワズライとルームシェア  作者: ゆちば
7/7

恋ワズライとルームシェア⑦

最終話です。

 結局あれから、颯真は桜羽結花のことには触れて来なかった。

 美味しいご飯と弁当を作り、俺を送って、俺を迎える。そして二人でゲームをしたり、テレビを見たりして、夜が更けたら眠る。

 そんな数日間を過ごし、颯真が【恋ワズライ】を発症してからちょうど二週間経った月曜日の朝――。


 颯真は気合が入った様子で制服を着て、ルームシェアのために持って来た荷物をキャリーバッグにぐいぐいと詰め直していた。


「今から診察行って、【恋ワズライ】治りましたの登校許可証もらってくるわ! んで、そのまま学校行く」

「まぁ、最近俺に好き好き言うの収まってたもんな。きっと治ってるよ」

「そうかなぁ? わざと言ってないだけだったりして?」

「ハイハイ。つまんねー冗談言ってないで、早く行けよ。一番に受付けするんだろ?」


 俺が追い立てると、颯真は「へいへい」と気の抜けた返事をして、キャリーバッグを持ち上げた。ルームシェアをしていた二週間の間に真冬が終わろうとしていて、キャリーバッグは着なくなったコートでパンパンに膨れ上がっていた。


 あっという間の二週間だったなと、俺は寂しさを噛み締める。


「ありがとな! んじゃ、また!」と元気よく玄関から出て行く颯真に力なく手を振りながら、俺も「うん。また」と答えた。


 けれど本当は、「また」なんてないと思っていた。きっともう、颯真に関わる機会なんてない。俺はぼっち生活に戻るし、颯真は賑やかな友達のところに戻っていく。現実なんて、そんなものだ。夢はいつだって儚い。


(俺だけ覚えてたらいいよ。そんな夢は)


 未練たらしいとは思いつつ、ボディバッグに付けていた特撮ヒーローのキーホルダーを通学用リュックのファスナーに付け替えた。これがあれば、今日も頑張って生きれる。【恋ワズライ】がくれた思い出に感謝だ。



 ◆◆

 一時間目、二時間目、五時間目と過ぎ、マメにスマートフォンにメッセージが来ていないか確認したが、ついに颯真からの連絡はなかった。


(せめて治ってたかどうかくらい、教えてくれてもいいのにさ……)


 誰も見ていないと分かっていながらも、俺はしょんぼりとした顔を晒したくなくて、俯いたまま帰路に着いた。


 昨日の夜は、颯真の【恋ワズライ】のプレ快気祝いにコンビニのケーキを買って食べたのに。あぁ、でもルームシェアが終わったらこんなものかと、寂しくて気分が落ち込んでしまう。今日くらいバイトを休んでもバチなんて当たらないんじゃないかと、俺が歩きながら悶々と考えていると――。


「おーい、樹! オレ、【恋ワズライ】治った!」


 俺の気分とは正反対の底抜けに明るい声が飛んできた。

 顔を上げると、俺のマンションの前で座り込んでいた颯真がパッと立ち上がり、ハイテンションで駆け寄って来るところだった。


「颯真! よかったじゃ――」


 なんだ、直接言いに来てくれたのかと俺が笑って答えようとすると、バサァッと何かが顔に被さり、視界が赤色でいっぱいになった。ついでにいい香りがする。


「へっ? なに⁉」

「プレゼントその2」


 愉快そうに喉を鳴らして笑う颯真を探して、俺はその赤い何かを手で押しのけた。それはギャグみたいに大きな薔薇の花束だった。

 颯真はその花束を誇らしそうに抱えており、「樹に」と言いながら差し出してきた。


「俺に……薔薇?」

「告白には薔薇がつきもんだろ?」

「告白って。【恋ワズライ】治ってないじゃん」


 ご近所さんの奇異なるものを見る視線を感じ、俺は皆に聞こえるように【恋ワズライ】と言った。颯真は病気だから俺に絡んでいるだけ、そうアピールしたかった。

 だが、颯真は尻のポケットからくしゃくしゃになった紙を取り出し、自信満々に「登校許可証!」と言って俺の目の前に突き出して来た。


 たしかにそこには【恋ワズライ】の軽快治癒についての記載と、心拍数や脈拍数の検査、精神科医の所見も添付されていた。どうやら本物らしい。


「じゃあ、え……? なんで俺に……?」


 理解が追い付かず、首を傾げる俺を見て、颯真はもどかしそうな唸り声を上げた。そして今度は薔薇を強引に押し付けて来た。


「オレさ! 健康診断に引っ掛かかって初めて、自分が【恋ワズライ】って気づいたんだよ。医者はよくこんな状態で生活できてましたねって、ビビってた。でも、俺は何の変化も感じてなくってさ。胸部の痛みとか動悸とか? 切なくなったり、苦しかったりとか? 何も変わるわけねぇじゃん。ずーっとそうだったもん。だってオレ、昔から颯真のこと大ッ好きだったんだぜ? ……その……、性的な意味で‼」


「えっ? で、でかい声で何言い出すんだよっ!」


「聞けよ。オレ、【恋ワズライ】って診断された時、これを利用して樹に真正面からアタックできちまうのかなって思ったんだ。真正面っつうか、結局卑怯だったけど、でもオレは……! 病気が治った今でも変わらずに樹のことが好きだよ。好きすぎてしんどい!」


 そうまくし立てて来る颯真は、ゆでだこのように真っ赤になっていた。耳まで赤くなっていて可愛い。こんな颯真は見たことがなく、俺は素直に驚いてフリーズしてしまう。


「颯真が俺のこと、好きって……。俺、幻覚見てる……?」


 けれど押し付けられた薔薇はたしかに俺の腕の中にあって、甘い香りも本物だ。

 俺はぎゅっと花束を抱きしめると、ぐすんと鼻をすすりながら颯真の顔をまっすぐに見つめた。


「うぐっ。ありがとう……。俺も……、俺も颯真のこと……好きだ。好きすぎてしんどいよぉ……」


 最後は涙声で言葉になっていなかった。

 颯真への気持ちは恥ずかしいものなんかじゃない。大切な宝物で、ずっとずっと颯真に渡したかった、俺の恋煩いのカタマリ。


「なんだ。オレら両想いじゃん」


 颯真のほっとした笑顔を見ると、心が軽くなった。自分が願ってやまなかった瞬間が愛おしくて仕方がない。きっと永久に忘れることはないだろう。


「こんなでっかい花束、どこに飾るんだよ」と俺が笑いながら言うと、颯真は俺の頭をわしわしと撫で回しながら、「うーん」と少しだけ悩むフリをした。


 誰も理解できなくていい。クラスメイトも、フった女子も、辞めた部活の部員たちも。ソレは、ただひたすらにその人を抱きしめたくて、心が痛くて苦くて甘い。もっともっと近づきたくて、一緒に笑って一緒に泣きたくなる。男も女も関係ない。


「花瓶、買いに行こっか。二人の部屋のインテリアだもんな」


 颯真の両腕が俺の体をぎゅっと抱きしめる。正面から抱きしめられるのって、こんなにあったかくて気持ちいいものなのかと思うと、離れ難くてたまらない。


 颯真は「荷物取ってこないと」とニカッと笑っていて、ルームシェアする気満々だ。

 まぁ、いいか。俺たち二人とも恋ワズライしてるから。



                                        【オシマイ】


お付き合いいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ