ダンジョン合宿③
(じー)
俺は今、木田さんと二人で訪れた小部屋の中央に置かれている蓋が半円柱の型をした木箱を入口付近から覗き見ている。
(ねぇハルト。あれ宝箱!)
何故かヒソヒソと俺の耳元で小声で呟く木田さん。
(そうだね。たぶん…宝箱だ。)
俺も小声でヒソヒソに付き合っている。
だって密着感が堪らないから!
先生はダンジョンには宝箱が存在すると教えてくれた。特例もあるが基本は2種類だと説明していた。
【褒美】か【モンスター】かのどちらかだと。
宝箱箱に擬したモンスターは見た目とは裏腹に鋭いキバで近づく探求者を噛み砕くと。
その内容を二人は思い出し安易に近づけないでいる。
(石を投げよう!)
(うん)
足元に落ちている小石は…重い!
スキル【投石】無しとこの世界は判断したのだろうか?
小さな石は見た目に反してびくともしてくれない。
木田さんに頼んだが結果は同じだった。
けっこう不便な世界だな。石も投げれないなんて。
スキル【投石】が存在するかは不明だが小石が持ち上がらない理由を俺はスキルのせいだと勝手に判断した。
諦めて先に進もうか?
でも気になる。
だから俺達は【開ける】を選択した。
恐る恐る宝箱に近づく二人。
大丈夫…最悪木田さんの回復魔法でどうにかしよう。
そして問題がもう一つ。
どちらが宝箱を開くかだ。
宝箱の【褒美】は開けた者を対象者と判断する仕組みらしい。【武器&防具】【サブスキル】【魔法書】他にも色々有るらしいが、あくまでも開けた者への【褒美】だ。
因みに【サブスキル】とはこの世界で授かるスキルを補助するための力だそうだ。
先生のライトボールも【サブスキル】枠になるそうだ。
(俺か…木田さんか?)
できれば俺が開けたい。理由は【モンスター】だった場合。木田さんの回復魔法を頼るから木田さん自身にダメージを負わせたくないからだ。
「ハルトに…譲る!」
木田さんは俺に開ける権利をくれた。
理由はいつもの「ハルトは私の後輩!」だった。
どうしても先輩顔をしたい木田さん。確かに、この世界では全てにおいて先輩だ。
「じゃ、じゃあ御言葉に甘えます!」
俺は、宝箱に手をかけ顔を仰け反らせながら、優しく蓋を開いた。
宝箱は輝きを放つ。如何にもといった感じの演出だ。
ダンジョンが考えたのだろうか?
このドキドキする感じ。もしそうならダンジョンは侵入者の心情をよく理解していると思う。
輝きは宝箱を飛び出しゆっくり俺の方へ向かってきた。
咄嗟に両手の掌をみせたが、これが正解だったかはわからない。
輝きは力を弱め型を変えていく…
「ハルトやった!モンスターじゃないよ。」
モンスターではない。それはわかるけど…
何だこれ?あれじゃないのか?
鼻緒にドクロの装飾がついている。
足の型を模した2層の柔らかい素材。
先生が言っていた。
アイテム等は手に入れる時にウィンドウ画面が現れると…
木田さんが近づいてきた。そして二人で浮かび上がったウィンドウ画面を見た。
【ダンジョンアイテム】
名 ビーチサンダル(左)
説明
夏のビーチの忘れ物の王道を歩むもの。浮かれてはならない。忘れてはならない。軽さを求めて耐久性を失うは愚かな者の…良くある末路。
「要らない!」
俺はダンジョンは地球の人間じゃないかと疑った。
本当に要らない。
俺は鼻緒に中指と薬指を入れて地面に叩きつけようとした。なぜが全てが俺を馬鹿にしていると思えてきて無性に腹がたった。
「ピコン」
この世界では異質な機械音。
そしてウィンドウ画面が更新された。
【ハルトはビーチサンダルの篭手を装着しました。】
【ハルトは左腕で【ローキック(左)】を発動可能です。】
装着?
俺はビーチサンダルを持っている手を見た。
鼻緒についているドクロが笑っているような気もする。
「ハルト!サンダル良く似合う。柄もお洒落!」
木田さんはフォローのつもりで言ったのか本心かは、今は触れないでおこう。
でもひとつだけ言いたい。
(ビーチサンダルは足のアイテムだ!)
「ハルト良かった。先輩は嬉しい。さぁ【セーブポイント】を探すよー!」
…………俺は強くなった!
左手にビーチサンダルの篭手を装着した?俺は木田さんと更に奥へと進んだ。
また小部屋があったが宝箱はなく。あのスケルトンが小刻みに動いていた。
左腕のローキック。これは左フックだ。
俺はスケルトンにビーチサンダルの篭手を思い切り振り抜いた。
手首を保護された拳はスケルトンの骨との接触時の反動にも負けず力強く半円を描き肋骨ごとスケルトンのコアを打ち抜いた。
崩れ落ち消えていくスケルトン。
ビーチサンダルは俺に完全勝利をプレゼントしてくれた。
「ハルト。強くなった。」
めちゃくちゃカッコ悪いけでビーチサンダルで手首を保護するなんて…
でも木田さんの笑顔を見ると、少し嬉しい気持ちになるんだ。
つづく
ハルトの新装備
【ビーチサンダルの篭手】