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ダンジョン合宿①

翌日。


先生に付き従い、お城の地下へと降りて行く俺と木田さん。


なにか普段より木田さんとの距離感が近い気がする。

それに彼女は笑顔だ。


がす!


「あ!ごめんなさいです。」


「大丈夫だよ!」


がす!がす!がす!がす!


やっぱり近いな。直ぐ後ろを着いてくる木田さんに俺は少しだけ距離を開けてほしいとお願いした。


木田さんは先ほどまでの笑顔から一気に、ふてくされ顔へと変化してしまった。


ごめんね木田さん。

盾の下先が…俺のカカトを踏んで上手く歩けないんだ。


本当にごめんね。


「二人とも!ここがダンジョンの入口よ!怖いかな~?」


城の地下に入りしばらく歩いた先に出た広間。明らかに上の城とは違う雰囲気がでている。壁の汚れに所々が破損している石畳の床。一番奥の入口は真っ暗で、その先が見えない。


「ハルトは荷物持ちも兼任しなさい」


先生はそう言いながら俺に学園指定の青いバックを渡した。


「これは先生の【想像魔法】で改良した。マジックバックです!鞄の中はいつもの教室と同じくらいの広さです!しかも10日の食料もサービスしました。ですが残念ながら、おでんは入っていません。」


おでんは要らないが非常に便利なアイテムだ。ありがとう先生。


先生は座学で習った事を忘れないようにと念をおした。


「目標は地下5回!そこのボスを倒したら合宿クリアです。危ない時は直ぐに逃げる。二人で協力して目標達成よ!」


先生はそう言って「あ〜忙しい」と叫び急ぎ足で来た道を戻っていった。


本当に二人でダンジョン合宿をするんだ。

昨日あれだけ木田さんと話しが盛り上がったんだ。

絶対に二人なら大丈夫な筈…


「行きたくない!」


へ?


入口の中に踏み出そうとした瞬間、木田さんの合宿拒否宣言に俺は足を止めた。


「どうして?」


木田さんは、大事な盾を俺に投げつけた。


どうやら距離を開けて発言で完全にふてくされたようだ。


それから1時間は木田さんを説得しただろうか?

先生に急に仲良しになった雰囲気を悟られるのが恥ずかしかった。


この発言で木田さんは放り投げた盾を再び拾い上げて、また距離を詰めてきた。


木田さんは甘えん坊なのか何か違う意味があるのか?

いまいちわからない。

でもようやくダンジョン合宿をスタートできる。


恐る恐る入口に足を踏み入れた俺達。

これは…木田さんじゃなくても誰かに距離を詰めたくなるほど薄暗く不気味な雰囲気だった。


入口から一本道を進み抜けた先の広間…


(初めて見た…)


ダンジョンは人を欺き騙しそして力を示した者へ褒美を与える。その褒美が人間の欲を刺激しまた欺き騙し力つきた者を取り込むと先生が教えてくれた。


ダンジョンはその魔力で都合良く松明を灯し明るさの中から恐怖を見せつける。


白骨化した人の姿をしたそれは斬れ味を有するかわからないほど刃こぼれした剣を俺達に向けている。


「ハルト。あれ…モンスターだよ。スケルトン。本で読んだ。」


(俺も読んだよ木田さん。いよいよ実戦が始まるんだ。)


筋がないモンスターだ。とても俊敏に動けるとは思わない。でもモンスターに常識が通じるなら俺は例え弱い異世界人だとしても…こんなに震えるとは思わない。


震えがとまらなかった。おそらく真後ろにいる木田さんにもその振動は伝わっているだろう。


情けない。昨日、木田さんを守ると決めたのにな…


「ハルト。わ、わたしが前に出るから後ろに隠れて」


隠れてしまいたい。でも、木田さんにはそんな姿を見せたくないんだ。


でも、身体は臆病を選択した。


木田さんの後ろでスケルトンの様子を見る俺。

先生のライトボールを初めてうけた時から何も進歩していない。


「ハルトは初めて…わたしは先輩転移者!」


そう言って木田さんは盾を構えたままスケルトンめがけて突進した。


けして素早い突進とは言えない木田さんの前進行動。

しかし、スケルトンを捉えるのは容易だった。

無骨な鉄製の盾はスケルトンを宙に浮かせる程の力を発した。


キキ…


スケルトンの声なのだろうか?


少し耳障りなその声がスケルトンの最期の抵抗だった。


壁にめり込んだスケルトン。頭蓋骨だけが俺の方へ飛んできた。


「本で読んだ。スケルトンは胸の石が弱点です!」


木田さんの盾はスケルトンのコアを砕いたのだろ。

俺の前に転がった頭蓋骨がゆっくりと消えていった。

最後まで残っていた陥没した目のくぼみの光が薄れていく様が…怖くて堪らなかった。


「木田さん。ごめんなさい。」


この言葉しか出せなかった。

木田さんは俺を見ながら「わたし…先輩。」と言ったけど…俺はそのあと何も言えなかった。


スケルトンを倒した松明が灯る開けた場所に俺達は留まった。


理由は俺が臆病で先に行くのが怖くて仕方がないからだ。


「今日はここで野宿?わたし…男子とお泊まり初めてです!困ります。」


俺は何も言わなかった。


「お風呂ないから近づかないでください。臭うな危険です。」


ごめん…木田さん。


臆病でカッコ悪い俺で…


でも、俺は臭ってしまった。強引に臭ってしまった。

ドン引きでも、恥の上塗りでも構わない。


この情けない俺に勇気を…


これがスケルトンを砕いた盾の突進力か?


気がつけばスケルトンがめり込んだ壁の横に俺がめり込んでいた。


肋が逝ったか?身体に力が入らない。


…………



この【ヒール】が俺に力をくれる!


横たわる俺に【ヒール】を放つ木田さんは、

「ハルトはバカ。バカハルト。変態。心配するのやめます!ヒールの無駄遣い後輩。」とできる限り悪口を言いながら回復してくれた。


ごめんね木田さん。明日は頑張るから。


因みに木田さんの最新の臭いは鉄っぽかった。



           つづく




ダンジョン合宿1日目終了。

最終深度…一階の最初のフロア。


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